第4話 ハーレム勇者 仲間をゲットする

 サイトウは何事もなかったように食事を再開する。興味深く見ていた冒険者たちもやがて食事を再開した。

「さて、お腹もいっぱいになったし、一応、クエストというのを引き受けてみようかな」

 サイトウは食事の後に、ギルドに依頼のあった仕事を見に行く。それは定番通り、掲示板に貼られ、仕事内容と報酬、受けられる冒険者レベルが表示されている。

「う~ん……面白そうなものはないなあ」

 掲示板に貼られているものは、初心者用の仕事ばかり。報酬も銅貨10枚とか20枚程度。よくても銀貨1枚。こんなの引き受ける意味あるのかと内心思っていたが、冒険に出ないとなると暇過ぎるとも感じていた。

(どうするかな……。誰か誘ってくれると面倒臭くないのだが……)

「ねえ……あんた、あたいたちとパーティ組まない?」

 不意にサイトウは声をかけられて後ろを振り返った。そこには剣を背中に装備し、マントを羽織った女の子が立っていた。髪は銀髪ショート。金属のビキニアーマーに膝までの革の編み上げブーツ。典型的な女戦士の格好である。

(おおおおおっ……来た来た、テンプレ展開。しかも鉄板の女戦士ルック)

 何だか意味不明の期待に心が高揚するサイトウであった。

「あたいはジャスティ。見ての通りの戦士だよ。あと、こっちは神官のルミイ」

 そう女戦士は後ろに隠れるようにしていた年が同じくらいの女神官を紹介した。女戦士の背中から恥ずかしそうに顔をのぞかせる。

(キター。女神官キター)

 サイトウ、すました顔を維持しているが、心の中は大興奮状態である。

こちらはジャスティとは違っておっとりとした感じの女の子。白を基調とした神官服を身にまとっている。

 神官服の下には鎖帷子がちらりと見え、手には金属製の杖を持っている。先端には飾りがついているが、重そうなのでいざとなったら、これで敵を殴ることもできるが、どう見ても華奢な体つきから肉弾戦闘には向いていないだろう。

 ピンク髪のセミロングのストレート髪がとてもかわいらしい女の子だ。ついでに補足するとサイトウの好みに直球ストライクである。

(どちらもいい。特に女神官は嫁候補だ。戦士の方も捨てがたいが……)

 サイトウの心の声は全く聞こえないジャスティは、明るい口調で誘いの言葉を続けた。

「見ての通り、あたしら女2人だろ。男連中はパーティを組みたがるけど、あいつらすぐに言い寄ってきやがるから、いつも不快なんだよ」

「ああ、そうかもしれないね」

 サイトウは努めて冷静にそう答えた。そういう輩との違いを明確にしようと心の中でとっさに思ったのであった。物語でも女冒険者は欠かせない存在だが、職業が荒々しいだけに、男たちの粗暴さに苦労していることは容易に想像できるだろう。

「ねえ、あんたならそういう心配なさそうだし……それに……」

 ジャスティと名乗った女戦士は、サイトウの肩から腕をペタペタと触ってきた。 女子に今までこんなことをされたことがないサイトウは、緊張で体を硬直させる。

「先ほどの戦い見ていたんだ。さすが金等級だよ。あんた、見た目にはそんな風には見えないんだよね。でも、この体はしなやかでまるで鞭のよう。あのロッドをあんな簡単にやっつけられるなんてすごいよ」

「まあ、あの程度は問題ないけどね」

 ちょっとスカした言い方かなとサイトウは思ったが、ジャスティの方はその言葉でいっそう、心を決めたように大きく頷いた。

「ロッド奴、強いからって、あたしらを馬鹿にするんだ。いつもお尻にタッチしてくるセクハラ野郎だったから、いい気味だよ。今日の醜態を心の中で拍手喝采していた女冒険者は多いと思うよ」

「ふうん……そうなの」

 サイトウはそう淡々とした風を装っていたが、心臓はバクバクしている。実は近づいた女戦士はサイトウより背が低いから、必然的に見下ろした視界には魅惑の谷間が映り込むのだ。

(やべえ~。谷間深い~。そして上乳が半端ねえええええっ……)

サイトウは冷静な顔を崩さなかったが、この褐色の女戦士の豊かな胸が気になって仕方がない。

「それでどうなの。あたしらとパーティ組むって申し出は受けるの?」

 ジャスティはそう言って、サイトウの右腕に絡みつく。冷静さをよそっているサイトウが不満なのか、それともある程度の成果を読み取ったのか不明だが、積極的に仕掛けてくる。どうやら、男の冒険者を口説く術を身に付けているようだ。ここぞとばかりに、豊かな胸の谷間をぐいぐいと押し付けてくる。

 サイトウの頭の中は、これまで感じたことのない感触への戸惑いと快感、そしてお花が飛び散る幸福感に酔いしれる。それでもサイトウは、表面的には平静を装う。なぜなら、サイトウは勇者だからだ。

「君たちの等級は?」

「あたいがストーンのレベル4.ルミイがシェルのレベル7だよ」

 それぞれの階級にはレベル設定があり、ある程度のレベルになると階級が上がるシステムだ。冒険者ギルドで紹介された仕事をこなすと、難易度でレベルは上がる。

 シェルだとレベル10に達するとストーンへと上がる。ストーンはレベル30で次のウッドへと昇格するのだ。

 そう考えると2人とも初心者というわけではないが、まだ中級ともいえないレベルの冒険者なのだろう。

「特に方針を決めているわけでもないからね、君たちとしばらく冒険してもいいかな」

 サイトウはそう答えた。神様にチートな力を与えられて転移したけど、世界を救えとか、魔王を退治しろとかは言われてはいない。

編集者時代に仕事一辺倒であったから、与えられた大金を使って、しばらくのんびりと暮らすことも考えたが、まだ、そんな隠居みたいな生活に浸るのはよくないとも思っている。

 宝くじが当たっても仕事を辞めてはいけないと言われるが、それはいくら金があっても退屈な生活は地獄だからというのが理由らしい。そうやって規則正しい生活が崩れると人間は不幸になっていく。

 サイトウの答えにジャスティは満面の笑みを浮かべた。目論見通りの展開であるから当然であろう。

「やった、ルミイ、オッケーが出たよ」

「ありがとうございます……」

 小さな声でそうルミイがお礼の言葉を述べた。ぺこりと頭を下げる仕草が可愛い。おとなしくて清楚な感じがサイトウの心に響いた。肉感的で積極的なジャスティもいいが、こういう清楚でおとなし系の娘もたまらない。

「じゃあ、さっそく、このクエストに挑戦しようよ。実は、あたしらじゃ、ちょっと、荷が重過ぎて許可が出ないから、あんたを誘ったんだよ」

 そう言って見せてくれたのは、ギルドの依頼状。ゴブリンの巣になっているダンジョンの殲滅である。

「ふうん。一応、挑戦レベルがウッド以上になっているね。人数も7~8人が必要だって」

「そうなんだよ。だけど、こういう案件は報酬がでかいんだよ。まずは報酬が金貨5枚。それにダンジョンで得たお宝の50%がボーナス。ゴブリンの巣だから、大したものはないけど、あたしら初級冒険者にとっては美味しい仕事さ」

「まあ、この掲示板にある依頼の中じゃ、ピカ一だけどね」

 サイトウはそう答えた。ただ、ゴブリン退治とは言っても、金貨5枚ももらえるということは、かなり難しい任務の部類だ。ゴブリンは単体ではさほど強いモンスターではないから、きっと、生息数が多いのだろう。

 しかし、どんなに数が多くてもサイトウには屁でもない。なぜなら、ここへ来るまで倒したケルベロスやアースドラゴンに比べれば、ゴブリンの攻撃力など問題にならない。例え、100匹いようが問題ないレベルである。

 さっそく3人は先ほどの受付嬢のところへ行って、仕事の依頼を引き受ける手続きに行く。レベルやパーティの戦力にあったものであれば、依頼状を持って行って受付に出せば、簡単な審査で許可が下りる。

「はい、承りました。ジャスティさんとルミイさんだけでは、この依頼を受けることは無理ですが、サイトウさんが一緒なら問題ないです。ただ、一応、ダンジョンですし、罠の警戒や偵察にレンジャーかスカウトを加えることをお勧めします」

 そう受付嬢はジャスティに勧めた。ダンジョンでは地上とは違ってトラップの看破や、偵察任務は重要である。そういう能力にかけたレンジャーやスカウトなどの職業の人間を助っ人に加えることは常識でもある。

「それも考えたのだけどなあ……適当な人物がいないんだよなあ」

 そうジャスティは途方に暮れる。サイトウとしては、自分の能力であるトラップ看破や偵察に仕える魔法を発動すればよいので、いなくても構わないが、誰かいるならそれに越したことはない。全て自分がやるとなると少々疲れるからだ。

 すると3人の目の前を少し背の低い女の子が通っていくのが目に入った。。その娘の耳が長く、金髪の長い髪が美しい典型的なエルフの女の子である。サイトウが食堂に入った時に、ボッチ飯で野菜スープをすすっていたエルフの少女である。

背中にはショート棒と矢。そして腰には短剣。格好からしてエルフによくいるレンジャーだろう。

 見てくれは10代の少女のようだが、エルフの寿命は1000歳を越える。目の前のエルフの少女は、自分たちよりも年上なのは明らかだ。

「ねえ、俺はサイトウって言うんだけど、君、名前は?」

 サイトウは思わずそう声をかけた。エルフの少女は立ち止まり、サイトウの姿を頭のてっぺんから、つま先まで見た。

「わたしはジゼル……ジゼル・ハートレイヤー」

「ジゼルちゃんか、どう、ジゼルちゃん、俺たちとパーティを組まない?」

 サイトウはそう誘った。小さなエルフは、サイトウの後ろにいる露出度満点の女戦士とおっとりとした神官の少女を見た。

「あなたはどうしてわたしを誘ったの?」

 エルフの少女はそうサイトウに尋ねる。サイトウはその質問にややたじろいだが、それでも平静を装って答えた。

「俺たちはこれからダンジョンへ挑むんだよ。それにはレンジャーか、スカウトが必要なんだ」

 ジゼルはサイトウの目をじっと見つめる。まるでその能力を見積もっているかのような真剣さだ。

「……あなたはとても強い。レンジャーがいなくてもダンジョン攻略は、楽にできると思う」

(おい、この小っちゃいエルフ少女、見抜くじゃないか)

 内心、ドキッとしたサイトウであったがエルフは小さくても年齢は重ねているというから、この少女もそれなりの経験者なのであろうと思った。

「そうかもしれないけど、万が一ということもあるしねえ……」

「レンジャーの仕事は経験がいる。わたしのような年少に頼む人間もめずらしいと思う」

「でも、君はエルフだよね。きっと経験豊富だと思うんだ。それに可愛い女の子と冒険するのは楽しいからね」

 思わず、そうサイトウは本心を話してしまった。ナイスボディの女戦士に清楚な女神官。これに加えてロリッ子、エルフのレンジャー。まさに王道である。

 そんなサイトウの話を聞いて、ジゼルという名のエルフの少女はなぜか納得したのか、コクンと頷いた。

「分かった。サイトウのパーティに加わる……」

 そうジゼルは淡々と答えた。

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