第15話 再生回数に驚く冒険者

 タマネギ……ゴブリン……動画編集……タマネギ……ゴブリン……

 う、うぅ……ぐぐぐ……


「はっ! な、なんや夢か……」


 酷い夢やった。

 ゴブリンに動画編集の仕事を押し付けられる夢やった。

 しかも休みは年に3日で、1日18時間労働、日給はタマネギ5個というブラック企業も真っ青な労働環境という。

 昨日の心労のせいや絶対。


「なんだもう起きたのか」


 目覚めの魔王である。

 ウチの生活は世界で一番奇妙やろな。


「今は何時なん?」

「まだ6時過ぎだ。朝食も出来ていないぞ」

「別に腹減ったから起きたわけちゃうわ!」


 ホンマ、失礼な奴や。


「それよりも、今日も朝まで動画見てたんか?」

「ああ、もちろんだ。トップ冒険者への道は長いからな」

「魔王は寝なくてもええんか?」

「吾輩には睡眠など不要だ。食事さえ最低限採れれば生命維持に問題はない」


 規格外にも程があるわ。

 世界史の先生が言うてたナポレオンもビックリやな。


「ところで、動画の再生回数が気にはならないか?」

「え、あ、うん……」


 気にならへんわけじゃないけど、見るのが怖すぎる。

 これで100回前後とかやったらへこむなぁ……。

 けど、逆に多すぎてもどうしてええかわからん。


「魔王は知ってるんか?」

「吾輩も知らぬ。吾輩はずっとスライムで検索した動画ばかりを見ていたからな。他の所は触らないという約束であったからな」

「そ、そうか」


 昨日寝る前にゴブリンの次に弱いモンスターは何かって聞かれたから、スライムって答えたけど、ずっとその研究してくれてたんか。

 というか、ちゃんとプライバシーは覗かへんという約束は守ってくれてるんやな。

 人間なんかよりも魔王の方が信頼できるってのも変な話や。


「ほら、お前が確認するといい」

「う、うん」


 魔王がスマホを手渡してくる。


「ほな、確認するで」


 スライムの動画ばっかりが表示されてる画面を、一旦動画投稿ページのトップ画面まで戻す。

 するとそこにはありえへん光景が映っとった。


「は? え? 嘘やろ?」

「どうした?」


 わけわからんから震える手で魔王にスマホを手渡す。

 ホンマはトップ画面からユーザーページに飛んで再生回数を確認するはずやった。

 けど、そんな必要はなかった。


「ほう。注目動画ランキングに載っているではないか」


 そう。

 24時間での再生回数の伸び率が高い順に表示される注目動画ランキングに【レベル1で初期装備の女子高生でも○○を使えば簡単にゴブリンが倒せる件】というタイトルの動画が載っていた。

 間違いなくウチの動画やった。

 さすがに1位とはかなりの差があったけど、それでもランキングに載るとは思ってへんかった。


「こ、こ、これはまだウチは夢を見とるんか?」

「少なくとも吾輩は実在しているから夢ではないはずだ」

「ちょっとほっぺたつねってや! 目が覚めるくらいの感じで!」

「お前がして欲しいというのならしてやろう」


 左のほっぺたを魔王に差し出す。

 そしてグイッと……。


「いった! え、めっちゃ痛いんですけど!」

「お前が目が覚めるくらいでと言ったのだろう。なんにせよ夢ではないと分かっただろう」

 

 ぐっ……そうやけどさぁ。

 加減してや。

 17歳の柔肌なんやで?

 涙目を堪えてもう一度画面を見る。

 動画の下に記録されている再生数は8万456回再生となっていた。


「ほら、ポイントを確認してみろ」

「そ、そうやな」


 魔王に促されるままにユーザーページに飛んでポイントを確認する。

 そこには前の黒歴史動画と合わせて8万659のポイントが確かに入っとった。


「ホンマにポイントが入っとる……」


 というか、あの動画203回再生やったんやな……。


「これで鉄装備は揃ったな」

「魔王!」

「な、なんだ?」

「ありがとうな! ホンマにありがとうな!」

「おい。いきなり何なのだ。全く……」


 嬉しさのあまりに飛びついてまう。

 それくらいに嬉しかった。

 これで友達にも自慢できるし、堂々と冒険者を続けることができる。


「ほれほれ。そんなこと言わんと、ウチに抱き着かれて嬉しいやろ?」

「なんだ。吾輩を欲情させたいのか?」

「よ、欲情とか言うなや! バカ! ボケ!」


 急に恥ずかしなってサッと離れる。

 対する魔王は平気な顔をしとる。

 くっ、なんやねんこの敗北感は。


「しかしこれだけ再生回数があっても、換金するとなると5分の1となるから1万6000円か。冒険者というのは大変だな」

「高校生のウチには十分過ぎるわ」

「ふむ。ちなみにだが【鉄】の上位にあたる【鋼】の剣は何ポイント必要なのだ」

「確か1万ポイントのはずやで。その次の【銀】になると10万ポイントは必要やったと思う」


 そう考えると装備の更新しながら稼ぐのは大変やなぁ。

 投票で賞金もらえんかったら冒険者だけでは暮らされへんわ。


「ならば今回は鉄装備だけ整えて、残りのポイントは換金もせず置いておくとしよう。より上位の装備が必要となった場合に直ぐに買えるようにしておくべきだ」

「魔王がそう言うならそうしとくわ。けど、お小遣い欲しかったわ」

「欲張るんじゃない。次の動画が成功するかも分からないのだ」

「魔王の癖に真面目やな……」

「魔王だからこそだ」


 ようわからんままに押し切られてしまう。

 結局その日の夜には動画の再生回数は11万回再生を超えていた。

 ネットの反応を見ると『こんな方法で倒すとかすげぇ!』、『どこでこんな裏技知ったんだ?』、『志保ちゃん、ハアハア』、『これフェイクじゃないの?』、『これは凄い』という感じの書き込みがされていた。

 気持ち悪いものもあったが好評のようである。

 装備もバッチリと変更した。


 …………………

【ステータス】

 氏名:掛田 志保

 レベル:2/100

 必要経験値:200(現在150)

 体力:25 ≪基礎5・レベル補正20≫ 

 攻撃力:33 ≪基礎3・レベル補正10・装備補正20≫

 防御力:31 ≪基礎5・レベル補正6・装備補正20≫

 魔防力:5 ≪基礎3・レベル補正2≫


【装備】

 鉄の剣:攻撃力20

 鉄の鎧:防御力10

 鉄の盾:防御力10

 …………………


 ステータス画面を何度も開いて見てにやけてしまう。

 若干魔王に引かれたが気にしないでおく。


「あ、そうや」

「どうした?」

「ウチは明日から学校始まるから」

「ほう。ならば存分に自慢して来るといい」

「もちろんや!」


 明日からの新年度が楽しみや。

 早くみんなに見せたい。

 そんなことを考えながら学校に備えて今日は早めに寝る。

 ベッドにはちゃんと自分で入ったで!

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