魔王のJK冒険者育成計画! ~お前をトップ冒険者にしてやろう~
心裡
第1部
第1話 楽しみを探す魔王
草木の枯れ果てた荒涼とした大地。
昼とも夜とも分からぬ赤黒い空。
そんないかにも人間ではない者が住んで居そうな場所に、我が魔王城は存在している。
幾度となく様々な世界の勇者や英雄を撃退して来た難攻不落の自慢の城である。
「ふむ……暇である……」
この世界に転移してきて早何年か。
最近は玉座に根を張ってしまったのではないかと思うほど何もしていない。
チラッと横に控える側近に視線を遣ると、ため息を付きながら反応してくれる。
「それは魔王様があまりにも卑怯な方法を取るからですよ」
側近が策を献ずるでもなく、生意気なことに反論をしてくる。
が、その反論はもっともであったので吾輩も強く言い返せぬ。
この世界は妙に女神の奴に気に入られているのか、何度も何度も加護を受けた色々な
もちろん、吾輩とてそうした戦いが楽しみで、敢えてこの世界を選んだというのもある。
ただ、あまりにも執拗かつ面倒であったので、ここ数年は女神の加護を受けそうな子供が生まれたらすぐに潰していた。
潰すと言っても赤子を殺すような畜生ではないので、住処の近くに強力な魔族を配置して村や街の外に出る気を失わせている。
「お前の言う通りであるがなぁ……」
完璧な対策のおかげで、魔王城まで攻め上る者が居なくなったのであるが、今度は暇になってしまったのである。
以前は本当に面倒だと思っていたのに、こんなにも勇者等々に来て欲しいと思うようになるとは考えもしなかった。
しかし、今からその勇者が現れるように仕向けたところで、何年掛かるのかも分からぬ。
「人間の街でも襲いますか? そうすれば少しは魔王様を攻めようという気になるかもしれませんよ?」
「それも面倒だな……」
面倒くさそうに策らしきものを側近が提言して来るが却下である。
人間の街を攻めて魔族に死者でも出たら、その対処で大変なのである。
葬式を上げてやらなくてはならないし、遺族の生活保障も考えなくてはならない。
何よりも勇者の攻撃に対する防衛なら良いのだが、吾輩の攻撃命令で死んだとなると少々心が痛む。
「この世界も潮時だな」
「また別の世界に転移するのですか? この世界はかなり居心地がいいので多くの者が反対しますよ?」
下々の者の生活を考えるのも魔王である吾輩の仕事であった。
この世界を選んだもう1つの理由は、女神の恩恵を多く受けている世界のため、土地が豊かであるということである。
この魔王城の建っている地域は人間どもが荒れ地として放置していた地域であった。
それでも魔族の魔法さえあれば、十二分に肥沃な大地となるだけのポテンシャルを秘めていた。
魔王城の周囲のみ雰囲気作りのためにわざと荒涼とさせている程である。
そんな土地をむざむざ捨てるというのは反発が大きそうである。
「そうだな……では今回は吾輩だけで転移しよう」
「本気で言っているんですか!?」
側近が随分と驚いたような声を上げる。
「吾輩の道楽に皆を付き合わせる必要もなかろう」
「確かにそうですね。名案でございます」
おい。
そこは側近なら心配でもしたらどうなんだ。
まあ、吾輩は最強であるから心配など不要ではあるが、それでももう少し引き留めたらどうなのだ。
「それでは魔王様だけを転移する魔法陣の用意を致しますので、どんな世界に転移しますか?」
随分と手際が良いのは助かるが、ちょっとした寂しさすら覚える。
あれ、もしかして吾輩は嫌われていたりするのか?
転移してくれた方がいい感じなのか?
「う、うむ……。そうだな……魔王に挑む存在が居ない世界が良いな」
とはいえ、転移するといった以上は引き下がるわけにはいかぬ。
魔王に二言はない。
「いつもの魔王様とは真逆ですね。勇者が居る方が良いとおっしゃるのに」
「奴らとの
「承知しました。では適当に飛ばします」
適当とはなんだ適当とは……。
まあ細かいことはこの際気にしないようにしよう。
それもまた上に立つ者の器量というものだ。
「じゃあ、準備を致します」
側近も手慣れたもので、吾輩だけを飛ばす程度の魔法陣なら、この短時間で床に描いてしまう。
「魔法陣が完成しましたので、こちらへどうぞ」
「いつ見てもお前は魔法陣の作製だけは綺麗であるな」
「は、はあ。どうも。ささ、早く」
折角褒めてやったというのに何とも言えない態度を取る側近に促されるまま、魔法陣の中央に立つ。
魔力を込めて行き、魔法陣が紫色に明滅し始めれば転移完了が近い合図である。
「それでは魔王様、良い旅を」
「ああ。行ってくる」
一層強い紫光に包まれたことで側近の顔が見えなくなると、今度は一転して真っ暗な空間に包まれる。
そして、体が両側からきつく押されるような感覚に襲われる。
時空を移動している証拠であるが何度味わっても慣れないものだ。
徐々に周りに光が満ちてきて、最後にもう一度強い光に包まれる。
両足が地面に着地した感覚を覚えてから目を開ける。
「転移成功か……って、な、なんだこれは……」
転移には無事に成功したのであるが、とんでもない量の人間が吾輩の目に映し出されたため、驚いて声を上げてしまう。
恐らく大通りに出たのであろうが、それでも見たことのない人間の数である。
どうやらかなり文明の進んでいる世界に来たらしく、周囲には高層建築が立ち並んでいる。
あちらこちらから聞き慣れない音が耳を刺激し、ハッキリと言ってうるさい。
「なあ、あれ見てや。なんかのコスプレちゃう?」
「え、めっちゃ本格的やん。すご」
転移の魔法陣にはあらかじめ言語が通じる魔法が組み込まれている。
そのため、人混みの中からこちらを見ている女性2人組の言葉の意味は、何となく理解できた。
ともかく吾輩が周囲から好奇の視線を向けられているのは確かなようである。
行き交う人間の多くが黒髪という中で、赤髪に角が二本というのは明らかに浮いている。
何なら服装ですら、全身黒の礼服にマントであるから場違いも良いところであった。
「クソ……外見と服装も人間にする魔法もあらかじめ魔法陣に組み込んでおくべきだった……」
とりあえず人目を避けるために物陰を探して移動する。
こんな往来のど真ん中で姿を変えればそれこそ大混乱となるであろう。
「あの人、魔法陣とか言ってたんやけど、ガチすぎない?」
「そこまで気合い入ってると、ちょい怖いわ」
という失礼な会話が後方から聞こえてきたが振り返ることはない。
何とか人目が少ない場所に移動してから外見と服装を魔法で変える。
街中の看板に起用されている男性たち数人を参考にしているのだから、好奇な目で見られることはないだろう。
「黒髪の吾輩も悪くないな……」
近くの建物のガラスに映る自分の姿を見て自画自賛してしまう。
やっぱり魔王としての素晴らしさが滲み出てしまうのだろう。
実際、先ほどから女性たちが「イケメン」だの「かっこいい」だの言ってこちらへ視線を送って来る。
「しかしこれはこれで視線を集めて面倒だな。いくつかのバリエーションは用意しておくべきかも知れぬ」
そんなことを考えながら少々、街を散策する。
どうやらこの世界には魔法を使う者が居ないようであるが、それを補うように科学技術が進歩しているようだ。
正直なところ、魔法と大差ないことをかなり実現しているように思える。
さらに、剣や弓といった武器を持っている者も居らず、持っているのは質の良さそうなバッグ類である。
服装も農作業や戦闘向けの動きやすいものではなく、装飾や模様を優先した露出も多めなものとなっている。
「ほう……この世界なら何か楽しみが見つかりそうだ」
見たこともないものばかりで、久しぶりに心が躍っていた。
これならもう少し早く、物騒事が少ない世界を選んで転移すればよかったかもしれぬな。
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