意外とつらいバルド

しそわかめ

バルドの過去

「気持ち悪い体ねー、あんたなんか生まれてこなきゃ良かったのよ!!!死ね!!!!」


いつも通りお母さんは私を殴る。

私だってこんな体に生まれたくなかったよ。





―私の体は変。両性具有って言うらしい。まあどういうことかっていうと、男性器と女性器が一緒についてること。生まれた時に発覚して、以来この村に私の居場所はどこにもない。元から居場所なんてなかったけど……。


外に行けば石を投げられて、歩いているだけで軽蔑したようなひやりとした視線を感じる。


両親はどっちも村のお偉いさんで、とっても世間体を気にする。おかげで私は外に出ることすらままならなかった。



今も暗い部屋の中でお母さんのサンドバッグに成り果てている。決まってお母さんは私を殴る時はこの部屋に連れてくる。脳内で何回もお母さんを刺すくせに、現実は何一つ反抗できやしない。殴られている時間は自分が惨めでたまらなかった。


窓から見える月が羨ましい。ただ太陽に照らされているだけで許されているような、そんな気がして…




「血ぃ拭いとけよ、クソガキ」


気が済んだみたい。お母さんは肩をいからせて部屋を出ていった。


お母さんが私を殴り終わって、部屋を片付けている時のごく僅かな時間が私の唯一の生きる意味だった。イエス様に祈りを捧げる。イエス様はいつも私を慈しみ、見守ってくださっている気がしていた。


祈りが終わると、散らかった部屋の隅に寄せておいた曽祖父の写真立てをいつも通り手に取る。大好きなおじいちゃん。小さい頃いじめられていた私を優しく慰めてくれて、色んな詩を教えてくれた。


「バルド、その体はイエス様が特別に下さったんだよ。人に何を言われても、おまえだけはその体を誇りに思っていなさい」


古びた記憶が優しく私を慰めてくれる。ありがとう……おじいちゃ …


ドン、という鈍い音と同時にお父さんが入ってくる。


「来い」


「…!?はい……」


何をされるのか予想がつかないまま1階へ降りる。


……たくさんの男の人がいた。


「一人十万で1晩中ヤラしてやるよ」


……え?お母さん?どういうこと……?


「ほんとにちんことまんこ両方付いてんの?キモっ」

「でも発育はいいぞ?別に些細な問題じゃね?」

「しかも未成年だし中出しアリなんでしょ?安いわw」


……えっ…?


私、体を売られたの?


こんなたくさんの人に?


有り得ない……!!


顔が青ざめていく感覚がする。


「さっさと処分して」


「んじゃ、始めますか。おい、服脱がせ」


「…!!!!!!やめて!!!!!!!!触らないで!!!!!!!!!!!!」


「大人しくしてろ!!!!!!!!障害者の癖に調子乗ってんじゃねえぞ!!!!!!!!!!!!」


大の男たちに罵声を浴びせられる。


逃げられない








「オラァ!!!!!!!!もっと締めろよこのクソガキ!!!!!!!!」











「休んでんじゃねえぞ殺すぞ!!!!!」










「妊娠しちまえ雌豚が!!!!」














気づいた時には私はたんぱく質の塊になっていた。時計は5時を廻っている。朝日が眩しい。辺りには誰も居なくなっている。





……殺してやる




殺してやる





たんぱく質を洗い流し、台所の包丁を隠し持つ。


もうどうなってもいい。どうせお先真っ暗なのだ。






ソファで寝ている父親の首を掻っ切った。


噴水みたい。


うるさいから喉も切った。首はソファの上に置いてやった




寝室で寝ていた母親の首を掻っ切った。


目が最近悪いらしいので目も切った。


これで良くなるよ





全部リセットしてやる。家も、生い立ちも、過去も、一人称も、性格も、口調も、人生も。

今から俺は俺になる。




俺は村を飛び出した。詩歌伝承者になったり、風俗嬢をしたりして食いつないだ。



SEXと薬は嫌なことを忘れられるからいいなあ。


とか思って歩いてたらちっちゃい赤い目の女にぶち当たった。イライラしてたから喧嘩ふっかけたらま〜〜〜〜〜〜〜強いのなんの。着いていこうって決めたね。


ついて行きますって言ったら優しく受け入れてくれて、俺、本当に嬉しかったんだ。受け入れけくれることなんて今まで1度もなくて。


パーティーなんかしてくれちゃってさ。そんとき出てきたコロッケは俺の大好物だ。


なんだかんだ、ここに来れて良かったよ。










「って感じ〜〜〜〜〜〜〜。あんま面白くなくね???……ってあれ?」


気づいたらみんな泣いてるやん。


いつもクソビッチ呼ばわりしてくるフィロでさえも。ガチ泣きやん。


「バルドぉ゛゛゛゛゛゛゛゛゛良゛か゛っ゛た゛ね゛え゛」


「重すぎて本にできない゛゛゛゛゛゛」


「いや本にすんなよ……スン」


ポーズのツッコミでさえも弱々しい。


パン、とコールが手を叩く。


「じゃ、今日はコロッケにしよ!」


「いいね!!」


「さんせ〜い!!メシャ」


ロッティがキャッキャと笑う。あっ腕取れた。


「ね、バルドもコロッケがいいよね?」


「おう。決まり〜〜」










夕食も食べ、皆とっくに眠りに落ちた。


今度は俺が返す番だなあ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

意外とつらいバルド しそわかめ @sisowakame

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ