異世界の玩具屋さん

しゃのあーる

第1話

秋葉原にあるアダルトグッズ専門店。

俺は吉田直也よしだなおや34歳、独身だ。

このアダルトグッズ専門店の俺の雇われ店長になってから早10年。


日夜、クセ強めのお客様と"道具"を取り扱っているせいで自分のキャパシティは広い方だと思う。


今日だって、ほら。また客だ。


台風が秋雨前線の影響でバカでかくなって、勢力が強めの状態で関東を直撃する予定で夕方以降の公共交通機関が全部死んでるような状態でも客は来る。


玩具の1個でも売れれば店を開けててよかっただろ?とドヤ顔を浮かべる社長の悪い笑顔が目に浮かぶ。


「いらっしゃいませー」


アルバイトを帰り足がなくなる前に帰らせて、ボケェとレジカウンターに頬杖をついて座っていればカランカランと店の扉のベルが鳴った。


一瞬開いた扉の外はビュウビュウと風が吹き、激しい雨の様子が見える。

今日は店で泊まりかなぁ。とウンザリしながら、先程入ってきた客を探す。

(あれ?どこいった…?)

レジカウンターは店内を一望出来るような配置になっているが、店内には誰も居ない。

慌てて手元にある監視カメラのモニターを見るも人の姿は見えない。


店内に誰かが入ってきたら、とりあえずどこかには映り込むカメラ配置になっているのだから映らないということは"ほぼ不可能"だ。

(マジか…幽霊とか勘弁しろよぉ…)

幽霊騒ぎは今まで起きた事がないし、夜勤のアルバイトメンバーから何か見たとか霊障的な話しも聞いた事がないのに!!なんで、今日に限って…!!!

泣きそうな気分になりながら1度開いた扉を確認しに行く。

(風で開いただけかも。むしろ、そうあってくれ!)


扉に近付くにつれてガタガタガタガタと扉が風に煽られて鳴っていた。

薄気味悪いなぁ、と思いながらも扉に手をかけて開く。




「---え…?」


扉を開けた瞬間に目の前に広がった光景に目が点になった。

見慣れた秋葉原の雑多なビル群はソコにはなく、人混みの中には人間以外の生き物が沢山居る。

状況が飲み込めず、店外に1歩踏み出そうとしたら強い力で腕を引かれ店内に戻された。


「ここを1歩でも外に出たら"戻れなくなる"わよ。」


何が起きたか分からずに勢いよく後ろを振り返れば、ふんす、と鼻を鳴らし組んだ腕の上に控えめに言ってデカい胸を乗せた美人が立っていた。

白い巻き巻き、なロングヘアに、白のロングドレス。

背景のバイブの商品棚とアンマッチ過ぎて何故だか無性に悲しくなる。

「え…も、戻れなくなる?!っていうか、なに?!何が起きたの?!今!!!!」

美人を前にして驚きすぎて俺の腰は砕けた。

漏らさなかっただけ偉いと思って欲しい。

ギャーギャーとひとしきり騒いだ後に美人の姿を見る。

少しイラついたように寄せられた眉根に、ちょっとマゾ心が擽られ家に帰った時のオカズにさせてもらおうと心に決めた。


「…ちょっと人の事、勝手に性欲処理の妄想に使わないでくれる?」

「は?!え?!声に出て?!は、違うし!!!思ってねぇし!!」

ズバリ言い当てられた事に驚きすぎて否定の仕方が小学生男子見たくなってしまった…。

思いっきり美人に睨まれながら、少し俯いていれば、美人の方が後頭部をポリポリと掻いてから座り込んでいる俺に視線をあわせるようにしゃがんでくれる。


「ここはユニコーン王国、私はこの世界の創造神。名前は長いからエニで良いわ。あなたのいた世界とか国とは別世界だって思ってちょうだい。」

美人改め、エニの口からでたとんでもない発言に口が開いたまま閉じられない。

今、なんて言った?別世界?

「あなたがいた世界では"こういう"性文化が発達しているのでしょう?でも、私が造った世界では性文化が遅れに遅れてしまって人口減少を辿る一方なの。だから、あなたの力を貸して欲しいの。」

「は?!俺の力?!」

エニが自分の横にあった手首大のディルドを手に取り俺に助けを求めてきた。

白髪の美人が極太ディルドを持っているってだけで脳内処理が追い付かないのに、さらにワケのわからない事を言われて俺の脳みそは限界だ。

「このお店のモノを誰よりも知り尽くしてるのはあなたでしょう?これを使って私の造った世界の性文化の遅れを取り戻して…!!!お願いっ!!」

極太ディルドをずいっと差し出され言われたお願い。

男根の先っちょが自分に向いているのは何だか嫌な気分になる。


「こ、断ったら…?」

生唾を飲み込み、エニに尋ねればディルドを俺に向けたままニッコリと笑い「死ぬわよ。」と言い放った。

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