ならめき Vol.2

荒城美鉾

After 5 minutes

 中学最後の正月、二で行った神社でおみくじをひいた。

 私が気合いたっぷりでひいたおみくじが「凶」で、散々笑ったあとに開いた飛鳥のおみくじは、やっぱり「凶」だった。

「ああ、なんとなくそんな気がしたんや」

 飛鳥が力なくつぶやいた。だったらひかなきゃいいのに。私は笑った。

「それは君あれだよ、逃げだよ」

 確かそんな意味のことを、飛鳥は口にした。


「あ、しもた」

 化学のミニテストを終えて、テキストと照らし合わせていた私は声に出していた。

 有機物質の結合の作図を誤ったのだ。

 教室では、あちこちから歓声や喚声が混じり起こっている。要するに騒がしい。

 しまった、昨日あれだけチェックしたのに――……。

 くそう、私はテキストに突っ伏した。制服の袖に鼻の頭をこする。後悔。

 この試験だけは規定の点数をクリアしたくて、一週間勉強漬けで頑張ったのに……。

 後悔の念は私の中を走り、キーンと耳鳴りがして、カッと体が熱くなる。

 体温があがり、室温の方が下がってしまったような錯覚。

 くやしい、やりなおしたい、そんな思いがどうしようもない衝動となってせりあがってくる。そして――。

 あ、しまった。今度は心の中で、つぶやく。

 そして私は五分だけ、時間を遡る。

<<

 私は机に向かっている。

 黒板上の時計を確認する。試験終了まで三分。私はため息をついた。こういう場合は、どうするか。私は、基本的にカンニングは正しいことではないと思うので、シャープペンシルを置く。

 傍目には私が試験をあきらめたように思えるだろう。

 別に、望んでこうなったわけではない。

 皆が机に目を落としている中一人、窓の外を見た。九月も中盤の空は、憎らしいほどにすがすがしい。私は、時の小さなしゃっくりに巻き込まれてしまった自分の不運を嘆く。ついでにこんなにいい天気なのに、机に向かわなくてはいけない自分の運命を呪う。

 そして私は、そして私は。

 やっぱりせっかくなので、正しい解答に直しておく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ならめき Vol.2 荒城美鉾 @m_aragi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ