第25話告白の真相
夕食を取ると再び自室へと戻った。
2階に残してきた謎が頭の中を占め、ほとんど夕食の味を感じることなく作業の様に口に運ぶことしかできなかった。
母の弓子はそれを不服そうに見ていたが。咎めることはしなかった。
2人の夕飯が済むと衛は食器を洗い、2階へとそそくさと上がっていった。
ドアを開け目に入ってきたのは、自室の机の上に置いてあるスマートフォンが点灯していることだった。
頭の片隅にその期待が渦巻いており、その通りとなったことで一気に脈が加速するのが分かった。
羽柴結衣からか?と思ってみたものの今日のような出来事があった以上、連絡をくれる対象者が沢山いることに思い当たった。
友人と呼べる人の数が少ない衛にとっては複雑な気持ちになった。
だからこそ羽柴結衣であって欲しいという気持ちが一層強くあった。
両手で抱えるようにスマホを持ち操作する。
気になる宛名は・・・・・・。
柳光流からだった。
数ある候補の中で一番来てほしくない相手からだった。
「羽柴さんへの返事はどうした?」
という内容の短いものだった。
「まだ」
無視しても良かった。
しかし短い文をこちらも送ることにした。
光流からの返事は”馬鹿なやつ”というこちらの気持ちを逆撫でするものだった。
衛は立ったままの姿勢から机に座り宿題や予習も兼ねて教科書を読み始めた。
そしていつものように気になるワードをパソコンで検索し、印刷していくという翌日の授業の準備も進めた。
ただ、2・3分に一度はスマホに目が行き着信が来ていないかをチェックしてしまう。
結衣と連絡をとるようになってから身に付いた習慣だったが、今日は特に気にせずにはいられなかった。
部活動で忙しく真面目な性格の結衣の負担になりたくなかったこともあり、結衣が家に帰りしっかりと時間の余裕のある時にやり取りをすることが、いつの間にか2人の暗黙の決まり事となっていた。
もちろん今日に関して言えば衛の方から連絡をすることも不自然なことではないだろう。しかし、結衣の好きという言葉が男女の間を指す意味だったのか、それとも幼馴染としてなのか確証がもてない衛であった。
優しい結衣のことだあの場は衛を傷付けないために付いた嘘の可能性もあるのだ。
それにこちらから連絡するということは催促してることを意味する。
まるで飢えた狼と下心を持つやましい男を連想してしまい憚られてしまう。
(いや、それも言い訳だ。要は勘違いだった時に恥をかくのが心配なだけなのだ。自分が傷つくことばかり心配していな、俺は・・・・)
寝る前と同じ憂鬱な気持ちが戻ってきそうだった。
また、結衣からもらったルーズリーフと、机の中に入っていた手紙の字が違うということもより衛の頭を混乱させていた。
ラブレターは別の人物が冗談で結衣の名を騙った可能性が高い。
一体何故そんなことをしたのか謎が残ったままだ。
正直、宿題や翌日の準備はほとんど機械的な動作で行い、頭はこれ以上考えることができなくなっていた。
散々やきもきし待ちに待った結衣からの連絡は9時半過ぎてから来た。
その時衛はベットで大の字になりながら雑誌や漫画を適当にめくって暇を持て余していた。
丁度、漫画の左下最後のコマに目がいった時、スマホの着信を示すランプが点滅していることに気が付いた。
バッドから飛び出すとバッとスマホを奪い取るように持ち上げ、両手で操作する。
念願の相手から連絡が来たことが分かり、一気に頭に血が巡り熱くなる。
夕食を済ましてからずっと待っていたこともあり、喜びでスマホを握る手に力が入る。
期待と不安が入り混じり心臓がバクバクと煩く感じる。
大いに恐れてもいるのだ。
今日の出来事がその場の冗談であること。
恥ずかしいからしばらくの間、他人のフリをして距離を置こうということ。
そんな内容だったらと思うと
(知りたくない!受け入れたくない!)
とキツく目を瞑り体に力が入る。
少しの間、結衣ならどんな言葉をくれるだろうかと頭を巡らしてみる。
・・・結局いくら考えたところで分からないのだ。
潔く表示することにした。
結衣からの文章は。
「今、時間ありますか?電話できますか?」
という簡潔なこのだった。
衛はポカンという表現が似合うほど素直に口を開けていた。
自信も結衣と直接話すことを望んていたのだから、相手も同じ考えをもっていて当然だ。そんな当たり前のことに今更思い至った。
そして急いで通話ボタンを押した。
「・・・・・・・・・」
なかなか呼び出しに出ず不安を覚える。
「・・・・・・もしもし!直ぐに出れなくてごめんなさい!」
「!?」
「こちらこそ断りもなく電話しちゃってごめんね!」
「ううん、もともとは私がそう送った訳だから・・・」
「いや、そうは言っても部活動とか何かと忙しいのは結衣の方なんだし、しっかり確認しとかなかった俺が悪いよ!デリカシーがなくてごめん!えへへ・・何を焦ってたんだろ」
何としても結衣に自身を責めて欲しくない気持が働き、早口に捲し立てる。
その上で謝り過ぎるのも嫌味になると思い、とっさに笑い話に変えてしまう。
「・・・・・・」
こういうところは頑固なようで結衣はまだ何か言いたそうな気配があったが、
「それで電話って今日のことだよね・・・」
と話題転換してしまう。
「・・・えっと、うん、そのことなんだけど・・・・」
話題を変えたのはいいものの、いきなり本題に切り込んでしまい後悔する。
まるでお腹が空いた子供が食べ物を催促するようだなと自己嫌悪してしまう。。
「私もいきなりのことで混乱してて、みんなの前であんなこと言っちゃって驚いたよね?」
瞬時に話がいい方向にいかないと予想して、気分が沈み始めてしまう。
「でもね・・・私の中でハッキリさせておきたいことだった・・から、スッキリしてるんだ。ただ・・・・衛君には凄く迷惑なことをしてしまったと思って・・・。あの後みんなから質問攻めに遭ったよね?私は覚悟してたからいいけど、衛君はそうじゃなかっただろうなって・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
しばらくの間衛は何もいうことができなかった。
自分と似たようなことを結衣も考えていたことに驚きもし、以前から想ってくれていたことに嬉しくもなり、そして疑うことしかできなかった自分が情けなくなった。
今朝、告白されたときに見せた結衣の強く真っすぐな視線が自然と頭に浮かんだ。
「・・・・参ったな・・・・・俺は結衣が周りに流されて告白してた可能性も考えてたくらいなんだ・・・」
「え・・・ううん、そう考えるのも可笑しくないよ。そうだよね、あの場を借りて告白しちゃおって考える私の方が変だよね」
「いや、あの場で誰よりも素直で勇気があったんだよ、結衣は・・・。それに比べて俺は保身や疑うことしかできなくて・・・・」
「えっと、その、そんなに自分を責めなくてもいいんじゃない・・・かな?」
「・・・・一つ確認させて欲しいんだけど・・・・いいかな?」
「なに・・?」
衛は登校時に自分の机に結衣からのラブ・レターが入っていたことを説明した。
内容を音読した時は恥ずかしい気持ちで一杯になった。
結衣は説明が終わるまで一言も発せず大人しく聞いていた。
「そんなことがあったんだ。どうりで私がB組に入った時あんなに盛り上がってたんだね。みんなが私の気持ちに気付いてるみたいだったから・・・・てっきり私ってそんなに気持ちが顔に出るタイプなのかな?って不安になっちゃったんだけど・・・・その手紙は私が書いたものじゃないよ。それは確かだよ。衛君が疑心暗鬼になる訳だよね」
結衣の神経が意外と図太いことに衛は笑いそうになってしまった。
しかし、気持ちを切り替える。
また、伝えたいことがあるのだから。
「いや、字が違うことに気付いたのは家に帰ってからのことだから。あの場で結衣から告白されてそれを疑ったことに変わりはないよ・・・・ごめん!俺・・・もう少し強い人間になる!」
「・・・・うん、いいと・・思う」
「それと告白の返事なんだけど・・・友達からでもいいかな?その、誤解しないでほしい!俺も結衣のことが好きだ!・・・・でも・・・俺は俺自身が何者であるかまだ分からない。そんなあやふやな状態で結衣の隣にいたくない。それに・・・結衣にはもっと俺を見て欲しい。俺が結衣の好きな相手でいいのか・・・しっかり判断して欲しいんだ」
「・・・うん。何となく衛君が言いたいこと分かるよ。今更待つのは苦じゃないからずっと待ってる。それに返事が欲しくて言った訳でもないし・・・・でも、1つ言えることは私の気持ちは変わらないよ」
「・・・・・。本当に凄いな結衣は・・・。分かった俺もしっかりと探す。そしてその時は今度は俺の告白を聞いて下さい!!」
思わず声に力が入り敬語になってしまった。
それでもその方が気持ちが伝わったように感じた。
「え、うん・・・楽しみにしてる、えへへ。・・あ・・・それと手紙のことなんだけど」
「?」
急に真面目な口調になり、衛も気が引き締まる。
「その手紙を書いた人も本気で衛君のこと好きなんだと思う。それは間違いないと思う。衛君のことだから大丈夫だと思うけど・・・その手紙は胸に閉まっておいてあげてね。・・・志信君みたいに茶化しちゃダメだよ」
衛の頭の中には「手紙に書いた人も」の”も”が強く残り胸に喜びが拡がる。
それを声に表さないよう自制して返事する。
「うん、そうする!志信は結衣にちゃんと謝ったんだね」
「手紙の説明されてやっと謝られた理由が分かったところ。凄く丁寧で迫力のある謝罪だったんだよ。ふふ」
お互いに頭の整理と気持ちを確かめ合えたことで安堵と喜びが生じているようだった。
会話の最後には明日から”少し賑やかな日々”が続くかもしれないことを覚悟しようと鼓舞し合った。
しかし衛たちの予想に反し翌日からは”過酷な日々”が待っていた。
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