第20話暴走のツクモ
それでおおよそのことは分かったけど、これからどうするつもりなんだ?」
直前までの記憶やここに連れてこられた経緯、そして意思疎通のできいる白猫と蟻に出会えたことで、ようやくタイヨウの心は前に進むことができる心境へと変化していた。
「・・・にゃあ」
しかしツクモから返ってきた返事は間の抜けた鳴き声だった。
「・・・え?お前俺の言葉が理解できなくなったのか!?いや、俺がお前の言葉を分からなくなってしまったのか!!」
まさかツクモがふてくされてそんな行動をとったとは想像できず、タイヨウに衝撃が走る。
「そんな訳ないでしょ。場を和ませてみただけよ」
ツンと澄ました顔で言う。
これまでの言葉遣いやしぐさから、タイヨウはツクモのことを真面目でしっかり者な性格だと思っている。
そんな彼女(?)が急にふざけるとは思えず、余計に混乱してしまう。
「お前なんか怒ってない?」
「怒ってなんかないわよ!!」
またもやタイヨウは驚いた。
先程までの冷静なツクモとは明らかに違い機嫌が悪くなっている。
その原因がタイヨウとウロの関係に対する嫉妬なのだが、タイヨウに分かるはずがなかった。
「もしかしてタイヨウ様にやきもちを焼いてるのではないですか?」
その答えは硬直から解けたウロからもたらされた。
ウロもまた女性(?)であり、自分に向けて笑顔で感謝するタイヨウを見るツクモの顔が険しくなるのを、敏感に感じていた。
「な!?私がやきもちやく訳がないでしょう!」
自分の下僕から正解をズバリ言い当てられてしまい、ツクモは思わず動揺してしまう。
咄嗟に目は大きく見開かれ、抗議する口も尖ってしまう。
客観的に見れば嘘がバレバレである。
「私とタイヨウ様の仲が良いことに我慢ならないようだな。しかしいくらツクモが巻き返そうとも私とタイヨウ様は7日間も同じ時間を共にーーー」
「にやあ!」
ウロ前足を大きく広げ饒舌に話すのを遮ってツクモが鳴く。
先ほどと同じようにピクリと反応してコロリとタイヨウの掌の上に転がる。
「あなたがタイヨウを慕うのはこの際いいでしょう。でも、親である私に対して敬称を付けずタメ口で話すのは許しません!」
ツクモはジロリと見下ろすようにしてウロを睨みつける。
その位置に手を持っていくのはタイヨウの仕事になってしまったようだ。
ウロはよじよじと動いて肯定を示しているように見えた。
(俺って動物にはモテるんだな)
タイヨウはまたしても悪い気はせずどこか嬉しく感じた。
「それでこれから先どうするんだ?」
ツクモとウロのいがみ合いはツクモに敬称と敬語を付けて話すというウロの敗北で終わった。
そのやり取りで話が脱線してしまったので、タイヨウはまた同じ質問をする。
「そうね、まずは私とあなたとの間に契約を結びましょう」
「契約?なんのために?」
「それは・・・・」
動揺だろうか?ツクモの言葉は後が続かず言い淀む。
「・・・何だ?話したくないことか?なら無理には聞かないけど?」
その反応に遠慮してタイヨウは口を挟む。
「何故そんなこと言うの!!肝心の私のことを知りたくはないの!!」
ウロのときよりも必死になって抗議するツクモ。
タイヨウのセリフが余程ショックだったのか、大きな瞳が涙で潤んでいる。
「え!?ちょっと待って!!そりゃお前について興味はあるけど、誰だって言いたくないことの1つや2つはあるだろ?無理に聞くのは気分の良いものじゃないじゃん!!話したくなったタイミングでいいよ!!」
先程からのツクモの思いも寄らない言動に、タイヨウは四苦八苦する。
遠慮したつもりが悲しませる結果になってしまい、半ばパニック状態だ。
「・・・・・・・。興味がないという訳ではなく、あなたなりに気を使ってくれたのね。・・・・・その、動転してしまってごめんなさい。あなたが元の世界に戻るためにも私の力を取り戻すためにも話すことにするわ」
「ううん、気にしてないよ。こちらこを誤解させちゃってごめんね。ぜひ教えてもらえる」
実は相当ツクモの暴走に振り回され精神的に疲れが生じていた。
しかしここで機嫌を損ね折角できた仲間を失うことの方が恐かったので、タイヨウなりに精一杯気を使うことにした。
「簡潔に言うと私はこの山々を守る先代主(ぬし)だったの。今じゃその地位を剥奪されてこんな姿にまで堕ちてしまってはいるけど」
ギリと歯噛みして口元は心底悔しそうだ。
しかし、彼女の目は伏し目がちで悲しげだ。
そこに彼女の複雑な感情が読み取れた。
「え!!昔はお前がここ一帯を統治していたってことか!?」
「・・・・統治は言い過ぎね。あくまでも環境を守護するという立場に過ぎないわ。動物や植物、気候を見守っていたのよ。寄り添うように生きていたって感じかしら」
「私を生み出せたのもそんなツクモ様だからこそです。普通の生き物にはそんなことできません!」
流石に2度の金縛り攻撃で懲りたのか、自由になったウロが、口調を改めツクモを持ち上げる。
この世界の生き物は、不思議な力を使うことができるのかと思っていたタイヨウは、ツクモの特殊性を理解する。
「あの~~~、今更だけど散々お前とか言って・・・その・・すみませんでした」
人智を超えた存在と知り、タイヨウは今までのツクモに対するぞんざいな扱いを思い出し、膝をおり両手を地につけて頭ごと上体を伏せる。
所謂土下座だった。
「別に良いわよ。今はちょっとした力のある猫なのだから。それにあなたとは共闘関係にある訳だしね。・・・・一つ疑問があるとするなら・・・あなたは私の話を疑わないの?」
”ちょっとした力のある”という部分にツッコミを入れたくなったが、タイヨウは我慢した。
ツクモは拍子抜けするほどあっけらかんとタイヨウの謝罪を受け止めると、逆に疑問を口にする。
「・・・・?」
「だから!例えば私があなたを騙す悪い妖怪で罠にはめようとしているとか、あの老人たちの仲間であなたを油断させる刺客とか」
「罠にはめて俺を食べるつもりってことか」
「その可能性は考えないのって話よ」
タイヨウは目をパチクリさせ珍しいものでも見たようにツクモを見る。
「何よ!?急に見つめてきたりして」
白猫のくせいにやはり恥ずかしいのか目を逸らす。
「そうだよな。本当なら疑ったほうがいいよな。全然思い至らなかった」
タイヨウはう~んと唸り考え込む。
ツクモがこの家に入って来た時のことを思い出す。
ガリガリのやせ細った体だったがどこか気高く、水を飲みたそうにしていたことから純粋に力を貸したくなったのだ。
「そうだな~。ひょっとしたらお前の徳がそうさせてるのかもな。あの老人達は人目見て警戒したけど、・・・お前にはそういう気が全然起きなかったからな」
「何よそれ。今の私にそんな力はないはずよ。適当なこと言っちゃって」
拗ねたような口調で前足でペロペロと毛づくろいしだすツクモ。
「明確な理由がないんだからそう言うしかないんだよ。いいじゃん、それだけお前が見るからに良い猫ってことなんだから」
あどけなく笑う。
そこには何の根拠のない分妙な説得力があった。
「良い猫って!?つまり美人ってこと!?私を口説いてる場合じゃないでしょ!!」
前足で頬のあたりを掻いていた手がとまり、まるで恥じらうようなしぐさで動揺する。。
「ツクモ様、タイヨウ様は良い猫としか言ってませんよ!」
ボソリとウロはツクモの間違いを訂正する。
「猫のお前が何で美人扱いになるんだよ!?勘違いするなよ」
冷や汗をかきタイヨウも慌てて抗弁する。
「タイヨウの言いたいことは分かったわ!!要するに一目惚れってことかしら。それならもう言うことはないわね」
全然一人と一匹の言葉はツクモの耳に入っていなかった。
「はぁ!?お前は何を言ってるんだ?」
「そうですよツクモ様!気を確かに持って下さい!!都合の良い解釈のし過ぎですよ!」
嫉妬から始まった暴走はしばらくの間、ツクモには何を言ってもダメだった。
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