猫と蟻からはじまる冒険譚

@NORUNO

第1話深夜のできごと

便器に腰を下ろし用を足す。

塞き止められていたものが重力に従い流れていく。


「ふ~」


と一息ついて腰を浮かせてトランクスとズボンを腰の位置に戻す。

最後にズボンのチャックを上げつつ便器のレバーを小の方へ回す。

途端に緩やかな円を描きつつ便器の端から水が流れ始め渦を作り出す。

北風タイヨウ(太陽)は幼い頃からトイレのこの渦が苦手であった。

無防備に背中を出て行こうとするその時、自分を引きずり込む手がそこから飛び出してくる気がして恐怖を覚える。

小学生の頃、学校のの図書館で借りた怖い本にそんな内容があったような気がする。

読んだ時の衝撃が強くて16歳になった今もそんなことを考えてしまうようだ。

ましてや今の時刻は深夜2時を過ぎたところ。

ふと怖いことが頭に浮かんでも不思議ではない。

トイレの水流がなくなりきる「ごお」という音も不吉に感じるので、その前に便所を出るのも習慣となっていた。

この日も同じように素早い動作でドアノブに手を回そうとした。

しかし、踏み出そうとした右足は前進することなく宙を蹴る。

不思議なことに掴もうとした右腕はどんどんドアノブから遠ざかっていく。


(・・・え、どういうこと?)


トイレに流されていく短い間にでタイヨウが思ったことはそれだけだった。

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