第10話 PR06煌河石


紫兎の指の間で、光の粒子が踊り舞うのを見て。

「おおっ…」と松本たちはテーブルに身を乗り出した。


煌河石こうがせき

ミルキーウェイ・ストーン、その名の通り、夏の夜空をいろど天の川あまのがわの星々を連想させる。


黒スーツの一人が思い出す。

「あずきさん、確かあの時。紫兎さんはこの石からそのリングを作られたと聞きましたが」


「せや、そう言うた」


「なるほど…これが、その煌河石……」

松本が、ちょっと失礼、と手を伸ばして石の上にかざしてみたが、何も起こらない。

どうして?、という視線をそのままにして紫兎は話を続けた。


「この石を使って色々作りたいのです。でも、道具を揃えるのも無理があって、時間がかかっちゃって。

それに、色々な素材と組み合わせたりして効果を試したいのですけど、それも専門知識が足りないので、わたし一人では限界があって…」


「組み合わせる、とは?」


「うん。例えば、この石の粉末をカメラのレンズに溶かし込むと…」


「……と?」


鬼魔衆きまのすが写せます」


「………………ええっ!!」

あまりにも紫兎がサラッと言うので、皆、反応するまで間があった。

驚いたのは政府側だけでなく、鴨宮家もだった。

それを知っていた五郎を除いて全員がガタガタと椅子から立ち上がった。

「…そ……それは……本当に?…」

松本の声が興奮で震える。


「はい。もう試しました」


……それが本当なら、凄いことだ……

鬼魔衆の画像、映像。

それは我々、日本政府が今まさに喉から手が出るほど欲しいものだ。

松本は、煌河石から目が離せなくなった。


紫兎は再び、ゴソゴソとリュックの中を漁り、一眼レフタイプのデジタルカメラを取り出した。

丸いレンズの上に一枚のガラス板がテープで止められてある。


「これは?」


「カメラのレンズは自作できないので、煌河石の粉末をガラス板に溶かし込んでみました」


「なるほど」


「それと……」

3枚の写真を取り出した紫兎は、手品でも始めるみたいに表を伏せて、テーブルの上に横一列に並べた。

「このカメラで撮ったものです。多少ボケているのは、わたしの腕前とガラス板の精度の問題ですけど……」

言いながら、紫兎は、右手側から順に2枚の写真の表を向ける。


「おおおっ……」

松本たちからどよめく声が上がった。

そこに“物の怪”が鮮明に写っていた。


「鬼魔衆にも色々なタイプがいますけど、これはその中の2種です」

一つは農場の野菜を食い荒らすタイプで小さい。

もう一つは、泥田坊どろたぼうという今昔こんじゃく百鬼ひゃっき拾遺しゅういという画集にも登場する妖怪のたぐい

どちらも気味が悪いが、人に危害を及ぼすほどのモノではない。


「確かに、鬼魔衆ですね。見たことあります」

二條いちみが認めてくれると心強い。


「むむむ…これは……凄い…」

松本は、震える指先でその一枚を取り、双眸そうぼうを見開く。


鬼魔衆の姿を映像に捉えることは急務だ。

国内外の世論を納得させる証拠が欲しかった政府は、これまでかなりの予算と人材、そして、時間を投じ、散々研究を重ねてきたのだが、未だ何の成果も得られていなかった。


……それを、この少女は、たった一枚の自作したガラス板で……

松本たちは、もう座っていられないほどに興奮していた。


「もちろん動画にも映りますよ…それと……」


……まだ、何かあるのか?…


紫兎は伏せられたままだった最後の1枚の表を向けた。

「なんと、御子さんも撮れちゃうのです」


「うおおおっ……」


鴨宮あずきは、またたきを忘れた。

「……えっ?…これ、ウチやんか……」

…いつの間に……

呆気にとられるあずきの横で、紫兎がクスクスと笑う。


「…こ……これが……」

松本は、写真と目の前のあずきをチラチラと見比べる。


振り袖和装にロングスカートの黒い巫女装束。

その後ろ束ねた黒髪は腰下まで伸びるほど長く伸びていた。

御子姿の鴨宮あずきが、大人びて見えるのは、朱を差したようなアイラインのせいだけじゃなく。

体の曲線ラインも女らしくなり、どことなく妖艶さを醸し出していたからで。


御子は変身すると、衣装だけではなく身体の変化も伴うと、松本は報告で聞いていた。

だから探して特定するのが難しいのだ、とも。


「二條くん…?」


政府側でその姿を見知っているのは、二條いちみのみ。

そのいちみも、驚きながら太鼓判を押す。

「はい……ホンマです…あずきの御子姿や……」


松本たちは、一斉に紫兎に向き直った。

「紫兎ちゃん!!」


「は……はい!」

突然大声で呼ばれて驚いた紫兎は、椅子の上でピョンと跳び上がった。


「この石……煌河石を我々に分けてくれないか?…何なら言い値で買い取ろう。億を積んでも構わん。我々で研究開発を進めたいのだが」


「松本国務次官、それより掘った方が早いですよ。紫兎さん、この石は、どこで?…どこに行けば手に入れられるのですか?」

黒スーツが息く。


「…えっ……ええと……その……」

興奮冷めやらぬ大人たちにグイグイと詰め寄られ、紫兎が戸惑っていると。

代わりに五郎が助け舟を出した。

「あの……その件につきまして、いくつか問題がありまして……」


「問題?…というと……」


「まず、この石の数が限られていること。どこで入手できるか分からないこと。あと……これが一番の問題でして、この石は紫兎にしか扱えないということです」


それはどういうことなのか、と色めき立つ松本たちに五郎が説明を始めた。



この会談の半年ほど前。

五郎と紫兎は、とある研究施設のロビーで、ある男を待っていた。


文部科学省鉱石科学研究室。

鉱物、近年では主にレアアース、稀に隕石などを解析分析する政府管理下の機関。


神祓かみはらそらが行方不明になった直後、紫兎は丸一週間、部屋に閉じ籠った。

もちろん心配した五郎だったが、ドアの前においた食事には手を付けていたので、そのうち出てくるだろう、と考えていた。

正直、思春期の女の子の扱い方が、五郎にはよく分からなかった。


「五郎ちゃん……お願いがあるの…」

それが籠り部屋から出てきた紫兎が、初めに発した言葉だった。

その胸の前には煌河石が握られていた。



研究室の受付係りの女性は、滅多にない可愛い女の子の来訪を物珍しい表情で迎えた。

「よう、五郎!」と手を上げ歩み寄る、長身細身の白衣姿の男に、紫兎はぺこりと頭を下げた。


研究所の統括主任、東雲しののめりょう

37歳独身。五郎とは大学時代の同期で、今でも時々飲みに行く間柄でもあった。


「東雲、すまんな、忙しいところ」


「まあ、実はそんなに忙しくはない…ところで……」

東雲が五郎の肩に手を回し、コソコソと耳打ちをする。

「おい、聞いてないぞ。お客さんがこんな可愛い女の子だなんて…」


「まあ、言ってなかったからな」

五郎は東雲に、預けた石の解析の依頼者を連れて行く、とだけ伝えてあった。


「まさか、お前の彼女、ってオチは許さんぞ。それは通報されるべき犯罪だ」


「ばっ!…馬鹿言うな。むすめだ」


「は?…意味が分からん。誰の?」


「俺の、娘だ」


「は??」

意外過ぎる返答に驚愕した東雲は、紫兎をマジマジと見つめる。

引波五郎が結婚したという話など知らない、しかもこんな年頃の可愛い娘がいるなど初耳だった。


「…ぁ…えっと、紫兎です。ち……ち…父がいつもお世話になってます」


「…っと、東雲です」

東雲は、そのクリクリと可愛らしい瞳に見上げられて混乱極まった。

二人をジロジロと見比べた東雲は、掴んでいた五郎の肩を引っ張り、「ちょっと来い」とロビーの片隅へ。


「何のドッキリだ?…これは……」


「いや、マジだって」


「は?…お前いつの間に結婚したんだよ?」

東雲は、五郎が子連れの再婚者バツイチと結婚したのだと思い込んだ。


「結婚?…してないぞ。紫兎は養子なんだ」


「養子?」


「ああ…まあ、ちょいと訳ありでな」


「ふーん……ま、その件は、後でゆっくり聞かせてもらおうか……」


ポツンと、ロビーの真ん中に残されていた紫兎は、男同士のコソコソ話をキョトンと眺めていた。


「いやぁ、メンゴメンゴ。紫兎ちゃん、待たせたね」


「…あのぉ…五郎ちゃんが、何かしでかしましたか?」


は?…五郎ちゃん?…

東雲が五郎を振り返り見て、ククッと噛み笑う。


「紫兎…頼むから外では、お父さん、って呼んでくれ。じゃないと色々と要らぬ誤解を招く」


「えー…呼びにくいし。五郎ちゃんの方が可愛いし」


「あのなぁ……」


「じゃ、行こうか。五郎ちゃん♪」

ヘラヘラとおどける東雲に、五郎は殴りたくなるほど、イラッ、としたが。

その衝動を抑えて研究室の奥へ進む東雲の後に続いた。



長い廊下とセキュリティーのドアを幾つか通り抜け、第3研究室と表示されている部屋へ通された。

30平米ほどの広い部屋に、各種の測定機が壁際にズラリと並んでいた。どれも見たことのない設備や計器に、紫兎は物珍しそうにキョロキョロとする。


東雲が机の上の電話の受話器を取る。

「コーヒーでいいか?…ぁ…紫兎ちゃんはジュースでいいかな?」


「はい、ありがとうございます」


受話器を戻した東雲が二人をソファーに促す。

「ま、掛けてくれ……」


二人掛けのソファーに五郎と紫兎。その対面で東雲が脚を組み、背凭せもたれに身を預ける。

間に膝高の低いテーブルがあり、その上に、十日前に解析依頼のため五郎がここに持ち込んだ、拳大の煌河石が二塊ふたつ


そのほのかにあお輝く宝石の原石のような塊を目の前にして。

「まず訊く…」と東雲が神妙な顔つきで切り出した。

「今まで見たこともない鉱石だ。大発見かもしれん。どこで見つけた?」


「まあ……とある人物から預かった、といったところだ……」


返答を濁す五郎に東雲は察し。

「まあ、今は深く掘らずにおくよ」と視線を石に戻した。

五郎の仕事柄、機密事項はよくあることだと東雲は理解していた。

「実は、この石、やっかいでな……」


「厄介?」


「ああそうだ。硬度が半端ないレベルで、加工どころか研磨すらできん。どんな圧力や衝撃を加えてもビクともしない」


「硬い?…それはおかしいな……」

五郎はチラリと、横並ぶ紫兎と目を合わせた。

紫兎が家で、この石を割ったり削ったりするところを実際に見ているからだ。


加工設備マシン過負荷オーバーロードがかかって止まるか、超硬のツールがことごとく折れるか、ボロボロに欠けた。

そこで、モーターのリミッターを外して使ってみた。だが、それでも全く歯が立たず、高価な工作機械マシニングのどこかに負荷がかかって、イかれた。放電加工も試したがダメだった」


「ダイアより硬いのか?」


「ダイアモンドっていうのは硬いと思われているが、それは傷がつきにくいという意味の硬さでな。実は衝撃には意外ともろかったりするんだが…これは……」

机の上から拾い上げた煌河石を握りながら、東雲が言葉を続けた。

「…その両方の硬さで、この世の全ての物質を凌駕している」


……そんなバカな…!?

「石同士をぶつけてみたか?」


「同じだ、どちらにもミクロンの傷すらつかなかった……」


溶融ようゆうは?」


「もちろん試したさ。地球上で一番融点が高い金属はタングステンで3422度。元素単体では炭素の3550度。化合物の炭化タンタルで3965度。

ところがこいつは、4000度でも組成変化そせいへんかすらしなかった」


「それは……本当か……」

驚愕する五郎。

……だって、紫兎は家の庭で、バーベキューセットのポッドを使って溶かしていたぞ…


「俺が嘘をつく理由がわからん。まあ、これを見てくれ……」

東雲は傍らのノートPCのキーを打ち込み、その画面をプロジェクターで白壁に投影した。

続けてキーを叩くと、まず、煌河石の3Dスキャンモデルが画面の中心に現れ。

そして今回の調査結果のマトリクスがゲーム画面の窓のようにポンポンと、その周囲に配置された。

そのほぼ全てにunknownとかfailedといった解析不能を意味する言葉が並んでいた。

「非破壊分析だけかけてみた。X線、中性子放射…幸いここにはこの大きさでも分析できる最先端の設備が揃っているからな……でも、この有様ありさまだ」


「放射性は?」


「一応、測ってみた。微量な40Kや14C、まあこれらは人体にも含まれる放射性元素組成、つまり人畜無害だ。ただ……」


「ただ?」


「光る」


「ああ、それなら知ってる。月夜に光る、特に満月」


「なんだ……」

新発見でもなんでもないことに、ちょっと不満気な東雲だったが、

「あと、もう一つ不思議なことがある」


「不思議なこと?」


「ああ、微量な……いや鉱物としては、あり得んのだが……」

もったいつけながら、指先で眼鏡フレームをわずかに押し上げる仕草の東雲が、まるで真犯人を暴く探偵のような口ぶりだ。

「……酸素と二酸化炭素を放出してる」


「……は?…」

五郎の驚愕した表情にご満悦な東雲は、堪えられずニヤニヤする。


数秒の沈黙。

「……石だぞ…」


「ああ石だ。実際、鉱物には酸素を含んでいるものも多い。ただしそれは結合しているという意味で。

しかしこいつは植物のように昼夜で酸素と二酸化炭素を交互に排出する」

まるで生きているみたいに、と付け加えようとしたが、東雲は思い止まった。

代わりに。

「…まあ、俺に言わせれば、たとえこれがどれほど希少で大発見な鉱物だとしても、詰まるところ……」


「詰まるところ?」


「ただの石だ。今のところ、金魚の水槽に沈めるオブジェの役ぐらいしか思いつかん」


どれほど美しくても、不変性を有していても、不思議な特性を宿やどしていても。

その形を人の手で変えられなければ無意味、無価値、使用用途はない、という意味で。


沈黙する引波親子を前に、東雲が続ける。

「もちろん研究対象としてはワクワクするがな。もう一度訊いていいか?こいつはどこから来た?…空から降ってきた、と聞いても驚かんぞ」


ここまで黙って聞いていた紫兎が口を開いた。

「…ぁ……あの……東雲さん」


「ん?何?…紫兎ちゃん」


「ミノと金槌カナヅチあります?…あと、ヤスリも」


「は?…あるけど」


「貸してください」


数分後、借りたミノと金槌を手にした紫兎に、今度は、東雲が唖然と言葉を失う番だった。



そうして、引波紫兎と“煌河石”が、全てに影響を及ぼすことになる。


MFCと日本政府の初会談後、紫兎は、全国の御子の情報を松本、つまり日本政府に開示した。

その後、相互支援関係をベースに、政府は各地の御子を“支援”する部隊編成を組み、SMT194の全国配備も進めていった。


引波五郎、二條いちみを中心とした、新体制の公安部特務0課も再編成され。

東雲遼と各研究機関から数名を引き抜き、特0専用研究開発チームとして迎えた。


東雲を中心としたそのチームは、紫兎の協力で鬼魔衆や御子が写せる特殊レンズ、MFレンズを開発し、レンズメーカーに製作を依頼した。

そして紫兎は煌河石を利用した対鬼魔衆製品のアイディアを次々と打ち出した。




声の飛び交う特0司令室のMFC席で、紫兎は、ポップアップした操作画面を素早い指さばきでタップしていた。

「これでよし、っと……小日向こひなたさん、MCリングの音声をアンプに飛ばすね」


「了解です」

オペレーターの小日向が受信側の操作をする。このシステムも煌河石を利用して紫兎が構築した。

「どうぞ」という小日向の合図で紫兎がMCリングに声を乗せる。


「こちら紫兎です。作戦開始ですよ。準備はいいですか?」


「ハイハーイ!みかんだよ。指定地点で待機中だにゃ」

陽気な声がMCアンプを中継して司令室内に返ってきた。

静岡の御子、小夜山さよやまみかん、14歳。黒髪オカッパで小っちゃいが、前向きで無邪気な性格。巫女装束は静岡茶のような深い緑と蜜柑オレンジ。

「紫兎ちゃん、必殺技も考えてきたよ」

みかんが嬉しそうに言うと、別の声が割り込む。

「それ大丈夫?、前みたいに、失敗した~、とか、ならんことを祈るじゃんね」


その声は、山梨の御子、石和いさわ乙葉おとは。15歳。

まるでザ・アイドルのようなピンクの巫女装束で、甲州弁を喋る。明るくお茶目な性格。

「むむっ、乙葉ちゃん、失礼な。昨日テレビ見ながら思いついたスッゴイのがあるんだから」


「それって、ぶっつけ本番っていうわけじゃんね……」

はぁぁ……と疲れた嘆息が司令室内に漂った後に、さらに別の少女の落ち着いた声音が割り込む。


「はいはい、二人ともそろそろ来るわよ」

長野の御子、安曇あずみ埜乃ののは、17歳の高校2年生。

スラッとした細身の長身で、わさび名家育ちのお嬢様。

巫女装束は、紫に雪白模様で、皆からはノノちゃんという愛称で呼ばれていた。


……何だ、このほんわかな空気は……

五郎は、だんだんと心配になってきた。


紫兎がまとめる。

「じゃあ、できるだけ作戦通りでお願いします」

「はいよー」「了解じゃん」「お任せを」


「二條……大丈夫なのか?こいつらで……」

これからの大作戦を控えているにも関わらず、まるで緊張感の感じられない御子たちの会話に、五郎は、項垂うなだれて目を覆う。


「まあ…信じましょ」

その横で、いちみは、フッ…と口元を緩めてしまう。

緊張や怖れはあるだろう。

ただ、鬼魔衆と対峙する経験が増えていくにつれ、御子には、それがいつの間にか当たり前のような感覚になる。かつての自分もそうだったことを思い起こしていた。


ここにいる誰もが、彼女たち、“御子”、を信じている。

信じるしかない。

今や日本各地で50人は覚醒している御子たちだけが、鬼魔衆の驚異からこの国の人々を護る唯一の対抗手段で、そして希望なのだから。


「MF映像出ます」

中央のモニタースクリーンに富士川市の田園風景が広がる。

その中心にフワフワと空に浮かぶ御子たちを、MFレンズ装備の望遠カメラが捉えていた。

それぞれ緑、ピンク、紫のカラフルな巫女衣装の後ろ姿が、西陽の光を受けスクリーンを彩る。


そうして、特0の部隊が続々と現着し、バックアップ体制の配置につくと。

それぞれの部隊からの映像が司令室内のサブモニター画面に次々と投影されていく。


「紫兎ちゃん、みらいだよ。“憑き物ターゲット”が熱海を抜けてトンネルに入るよ」

“憑き物”新幹線を追尾していた神奈川みらい機からの映像が、その光景を映す。


そして、司令室内の地形図モニター上で、ソレターゲットは赤い点滅で表示されている。


「みらいちゃん、そのまま先回りして姿を追ってね」


「了解でーす」


オペレーターが告げる。

「ターゲット、トンネル群を抜けていきます。コンタクト地点まで5分と12秒」


「トンネル間での監視を怠るな。途中で逃げられたら追えなくなる」


「了解!」


……そのまま走り続けてくれよ……


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