第11話「巨人抹殺指令!」
ギアスがレイ達と邂逅し、船に戻ってから数時間後の事であった。
星団委員会の定例会議で、ギアスによる巨人――レイの扱いに対する不満が、各種族の代表達から噴出したのだ。
「ギアス委員長! なぜ奴を見逃した!? あの巨人を今始末しておけば、我々の入植計画に一切の障害がなくなり心置きなく実行にうつせるものを!」
「あなたは以前から、この委員会を私物化している! この委員会は種族の代表による合議制だというのに!」
鉄仮面を脱ぎ、すっかり人間態の姿で会議室の上座に座っているギアスは頬をつき、その代表たちの意見をじつに退屈そうに聞き流している。
「この責任、どう取るおつもり――」
その代表者が言い終わる前に、喉を締め付けるような力で言葉を出すことが出来ず、苦しみもがく。ギアスの念動力による力だ。
そして大人しくなったと見て、念動力による締め付けを解除した。
「諸君、私には考えがあって、今あの巨人――古き同胞を見逃したのだ。奴は排除する。だが、それ以外にも我々には解決すべき問題があったはずだ。議長殿――」
ギアスに促されるように、会議を取り仕切る議長が、おずおずと口を開いた。
「しょ、諸君……。この巨人の処遇も我々が取り組むべき議題の一つではあるが……入植計画において、もっとも重要な議題を我々は未だ未解決のままだ。そう……入植する土地への優先権とその面積だ。諸君の誰もが、他よりも広い土地に誰よりも先に入植したいだろうし、それはみな理解している。しかし、今それをどのように決めるかすら決まっていない。そこで……ギアス委員長からの提案である」
議長は委員会に出席している各代表よりも威厳があるはずなのだが、ギアスを前にして縮こまっている。
発言もまたどこか自信なさげであり、はやくギアスに発言を任せたいと焦っている。
「諸君、私は考えた。皆が納得出来る案は無いかと……。このまま納得出来ぬまま入植計画が始まれば、入植したこの地球で諸君らは戦争をはじめてしまうだろう。愚かな事だとは思わないか? せっかく母星から離れ、この自然や資源に満ちた地球を得て、第二の故郷とする事が出来るのに……。だから私は……あの男が使えると思ったのだ」
ギアスの意図が見えない話に、委員会はざわつく。
何を言い出すのか。
「諸君の中の、誰でも良い! 種族を代表して、この巨人――クロムを討ち滅ぼせ! それを成し遂げた者こそ、この地球で優先的に入植する権利がある! なんならすぐにでも入植して構わんぞ? どうせ地球人が我々に打ち勝つ術など何もない……」
委員会の種族の代表達は、歓声をあげた。
過去二回の巨人の戦いを、委員会は全て監視をしていた。
どれも巨人は苦戦しており、委員会による評定は『巨人、恐るに足らず』。
つまり、今倒してしまうのが絶好の好機であり、すぐに代表たちは『我が先に巨人を討伐する』と息を巻いた。
代表たちが熱に浮かされている姿に、ギアスは滑稽さを感じ、笑いを堪えるのを必死に耐えている。
「委員長! その役目、この我々――グッド星人にお任せあれ!」
ヘルメットを被ってその頭部はよく見えないが、その声と服装と身体の特徴で、みな彼がグッド星人である事を確信した。
「グッド星人よ……諸君らは何か策があるのか?」
「フッ……! 知れたこと! 我々が何の魔獣を飼いならしているか、ご存知のはず……。今そいつは丁度腹を減らして退屈していますからね……。餌代わりに巨人を食わせてやりますよ!」
「面白い……。方法は任せる、好きにするが良い」
「ハッ!」
議長が、会議室の巨大投影スクリーンで、巨人――レイの居場所を映し出した。
レイは祠で眠っている。
「巨人の行方は、我々が常に生体エネルギーを感知して捉えている。奴が今どこにいて、どこへ行こうかという事も」
「奴の目当ては私だろう。あの月星人の小娘も、親の仇をとりに来るだろう。……つまり、遅かれ早かれこちらに来るのだ、健気にもな」
「巨人の生体エネルギーは常に捉えることが出来る。この地球には電磁波などの障害になるものは存在せん。常に見張る事が出来る」
「つまり、いつでも奴を見つけて倒す事が出来る――ってわけですか! よっしゃ! 奴を血祭りにあげてやりますよ!」
グッド星人は意気揚々と会議室を出ていった。
「……さて、クロムよ。貴様はどうする? 弱いまま死ぬか、力を取り戻して生き残るか……? 我々ですら己の本能には逆らえん。 戦闘民族としての本能にはな」
――――――――――――――――――――
『そういうワケで、巨人ぃ~ん! 星団委員会は、貴様を殺した種族に、優先的に広い土地への入植する権利を認めたのだ! 観念して俺らに殺されろ!』
レイは円盤の主――グッド星人の言い分に、呆れ返るしかなかった。
勝手に決めるなよ。
そんな下らない事の為にコイツらと戦うのか?
ギアスも何を考えている?
レイが呆れていると、一向に返事をしない事にグッド星人は腹を立てた。
『おい、何無視してんだ、コラァ! さっさと巨人になって戦え!』
「え? 嫌だ」
「は?」という言葉がグッド星人、トップン星人、そしてリズにまで同時に口から飛び出した。
「だって、お前ら確かに迷惑だけど……誰も死んでないし苦しめてないし……戦う理由ないだろ?」
「はぁ~~? 何を言うとるんじゃ貴様ァ! コイツら、ワシの森にこんな船で無断で乗り込んで来たんじゃぞ!? はやく追い払わんかい!」
「えー、だってジイさんの森であって、俺の森じゃないだろ? 確かにいきなり現れてうるさい事言ってるけどさ、まだ誰も傷つけられてないだろ?」
「にゃ~にを屁理屈をぉ~~!」
リズがトップン星人をなだめて、レイに質問した。
「あなたは、理由も無しに戦ったりはしないんですか?」
「あぁ、だって、俺が戦う理由は誰かを守ったり救うためだからな。戦う事が目的じゃない」
「っ……!」
レイの答えに、リズはショックを受けた。
それは自分の常識を覆すものだったからだ。
巨人族は独善的な戦闘民族――そう聞いていた。
だから他の異星人からは嫌われている。
だが、レイは誰かを守る為だけに戦うと言い切った。
それはそれで、巨人族らしい独善的な考えではあるが、むやみに戦ったりしないレイの姿勢に感銘を受けた。
「ん? どうした?」
リズがショックを受け固まっているのを、レイに指摘され、慌ててしまう。
「あ、いえ、その……ちょっと感動したというかなんというか、です……」
「は?」
だが、肝心のグッド星人は怒り心頭である。
『てぇ~めぇ~……! 戦う理由が無いから戦わないだと!? なら、戦う理由を作ってやるよ! 出でよ、『地獄の狂犬・ケルベロス』!』
円盤の真下から光が降り注ぐと、一匹の黒い犬が降り立った。
そして降り立ったと思うと、みるみるうちに巨大化した。
黒い短毛の毛皮の三つ首の犬型の魔獣、ケルベロスが現れたのだ。
「ま……またオオカミかよ……」
「いえ、あれは犬です。元はオオカミを飼い慣らした愛玩動物ですが、魔獣にもいるのです、犬型が」
「首が三つある時点で魔獣感たっぷりだな……」
ドン引きしているレイと、レイの指摘に冷静に修正を入れるリズ、その二人にトップン星人は何度目かの激昂をする。
「なぁ~にが、犬じゃオオカミじゃ、首が三つがあるからなんだってんじゃ! あんな迷惑な野犬、さっさと始末せんかい! みなあの畜生に食われてしまうぞ!」
「あ、あぁ……流石にあれはな……」
ケルベロスを召喚したグッド星人は満足そうな声を上げていた。
『どぉ~だぁ~? 恐れ入ったか巨人! お前らまとめて、このケルちゃんのご飯にしてやるわ!』
「け、ケルちゃん……?」
レイの疑問を無視して、グッド星人は円盤から伸びたアームを器用に動かして、ケルベロスをあやしている。
『あぁ~、良い子だね良い子だね、ケルちゃ~ん♪ ご飯食べたら遊んであげるからね~♪ 今は頑張るんだよぉ~? あぁ~! よしよしよし! よしよしよしよしよしよしよしよしよしよし、良い子だなぁ~、ケルちゃん♪』
「アレ……あなたの飼い犬なんですか?」
『ウチの子をアレって言うなぁ~! ケルちゃんじゃ~!』
「あ、はい、すみません……」
『いけ! ケルちゃん! コイツら食い殺して、森も潰して俺らの土地にするぞ!』
グッド星人が合図をすると、ケルベロスの三つ首がそれぞれ、レイ、リズ、トップン星人へと向いた。
「狙われとる……。確実に狙われとるぞ……コイツ!」
「み、みたいだな……」
「『みたいだな』、ちゃうわい! さっさと巨人になって倒さんかい! このままじゃワシらは食われて森も消滅じゃ! ワシの森に勝手はことをさせてたまるか!」
「分かってるよ、ジイさん!」
レイはトップン星人に、親指を上に――サムズアップをして、ガントレットを自分の前に差し出し、水晶が光る。
「変身!」
レイが白い光に包まれると同時にケルベロスは三人めがけて飛びかかってきたが、その牙も爪を剥き出しにした前足も届くことがなかった。
白金の巨人――クロムとなったレイが、ケルベロスの二つの首の顎をそれぞれ両手で掴み、抑えていたからだ。
「レイ! お願いします! 私とおじいさんと……おじいさんの森を助けてください!」
トップン星人は目の前に広がる巨人の姿に、万感の思いを胸に立ちすくんでいた。
「千年ぶりに見た……。変わってはおらん……! あの時と同じ……白い巨人!」
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