第1話僕と学園のアイドルの2人の秘密

『キーン、コーン、カーン、コーン……』


はっと目が覚めた時には、6時限目の授業が終わり、放課後を知らせる音が鳴り響いていた。

いつの間にか僕は居眠りしていたようだ。


現在は高校2年生の春の始業式を終えてから、ちょうど1か月が経過したころだった。

外は薄っすらではあるが、茜の色が青色の空に交じっており、長い一日の授業が終わったことをまるで祝福しているかのようだった。

ホームルームが終わり、解散の挨拶を告げると、教室は一瞬にして喧騒に包まれ、今日一番の活発さをみせた。


僕の名前は【樋口優太郎】。高校2年生の男子高校生だ。

今日の学校生活が終わったことに実感が沸き、僕は大きく伸びをした。


クラスでは、「今日カラオケ行かねぇ?」だの「そういえばこの前見たテレビでね」だの「明日の授業でさ」だの、帰り支度もなぁなぁにクラスメイトは皆会話に夢中であった。

今日は僕は幸いバイトがない日であり、一人黙々と学校が終わる喜びをかみしめるかのように帰り支度を整えていた。


「ゆうちゃん!かえろー。」


そんな僕に話しかけてきたのは、青藍色の髪と携えた同じクラスの少女であった。


「くっそ、本当にうらやましいぜあいつ。」


「それな。あー!あんな完璧女子が彼女だったらさぞかし学校生活も楽しいんだろうなー!」


「俺らのアイドルの金堂さんがあぁぁぁ!」


などとどこからともなく恨み言のような言葉が聞こえてきて、僕は思わず苦笑してしまった。


「うん、そうだね。帰ろうか。」


僕は彼女の提案に乗り、教科書を入れ終えた手提げかばんを肩にかけるように持ち、僕は木製の椅子から腰を上げた。


彼女の名前は【金堂まりん】。

髪の色は青藍色という青を暗くしたような色をしており、ふわふわのボブカットで切られた髪はどこか気品を感じられる。

クリクリとした青色の大きな瞳に僅かに幼さを感じる輪郭はいわゆる童顔というものであり、なんとなく小動物のような印象を感じた。

身長は160センチ前後で、スラっとした体形に似合わぬ大きめの胸が黒の制服に盛り上がりをみせていた。


彼女はいわゆる学園アイドルというもので、その整いすぎた容姿は芸能界のアイドルですら真っ青になるほどであった。

それに加えて、テストではいつも一位だし、運動能力は男子といい勝負になるほどである。おそらく異世界で言うチート能力というものの現代版といった感じだ。彼女はこの学校で1番知名度のある少女であろう。

道を歩けば誰もが振り返り、面と向かって話せただけでもその人物はもてはやされ、やれこの学校の守り神だの絶対的な聖母だの数十年に一度の逸材だのさまざまな言われ方をされていた。

一時期金堂まりん見守り隊なるものが学校で流行って僕はなぜか非常に敵対視されていたが、まりん本人が学校に訴えたため自然消滅していった。


僕とこの学園アイドルの関係は…未だにわかっていない。

一応なんとなくどういう関係かわかってはいるのだが、一度もそこについて触れて話し合ったことがないため自分でも決めあぐねている。ただ、少なくとも友達以上の関係ではあると思う。ある一つの特殊な事情を加味しなければ...だが。



「でね!由紀子がさぁー、バスケットボールを変な方に投げちゃってさー。__」

「あははは。」


現在僕とまりんは肩を並べて共に通学路を歩んでいた。先ほどよりも茜の色が増しており、少しまぶしいくらいの光が僕たちの側面を照らしていた。

僕たちの影は横方向に長く伸びており、コンクリ製の塀にその姿が投影されていた。

ふと、楽しそうに話すまりんの横顔を盗み見ると、長いまつ毛や柔らかくて汚れのない肌と夕日に当てられて紅く染まった頬、そしてその小さくて綺麗なピンク色を携えた唇が視界に写り、不意にもドキリとしてしまった。

まりんの性格はとても明るくて、女子の友達も多い、活発な女の子だ。

学園のアイドルと言われているだけあって、異性からの人気もすさまじく、僕とまりんが付き合っているという噂が流れてからもたまに告白されたりするほどである。

たぶんその噂が流れていなければ、彼女は毎日のように告白をされていたことだろう。


そんな彼女と僕がどうして交流を持つようになったのか。それはまたの機会に話すことにする。


こうしてまりんとたわいもない話をしながら歩くこと数十分、僕たちはまりんの家の前に到着していた。そこはどこにでもあるような白が中心の一軒家だった。

僕達は肩を並べて鉄格子の門をくぐり、小さな庭を跨ぐように敷かれた石の小道を歩き、2段ほどある小さな段差を登って黒板のような色をした扉の前に立った。

そして僕は手提げかばんを開けて、側面の小物用のスペースのチャックを開け、中から小さなガラス製のイルカのストラップのついた家の鍵を取り出した。

チャリンという音を立てながら鍵を開けやすいように持ち方を変え、そのまま鍵口に差し込んで右にひねると、カチャリと小さく開錠する音が響いた。

そして僕は扉に取り付けてある取っ手をつかみ、そのままガチャリと手前に引っ張るように開けた。

先にまりんに入るように促して、まりんが入ったのを確認してから続くように僕も中に入った。


「ただいまー!」

「ただいま、です。」


まりんは玄関から中にいる人に聞こえるように大きく声を出して、続くように僕も同じような言葉を紡いだ。廊下は明るく電気がついており、ここだけを写せば外の時間の判断など出来そうになかった。

僕はわけあって、まりんの家に居候させてもらっている。だから帰る家はいつもまりんと一緒だった。


「まりん、優太郎くん、おかえりなさい。」


玄関の左上の方からパスパスと壁越しにスリッパで歩く足音が聞こえてきて、そして玄関から比較的近い位置にあるすりガラスの扉が開き、まりんの母が顔をのぞかせた。


「ただいま!お母さん!」

「ただいま帰りました、なぎささん。」


彼女の名前は【金堂なぎさ】。まりんの母だ。

おっとりした性格で、青藍色の長い髪を後ろでまとめていた。まりんと違いふわふわな髪と言うよりはサラサラしてツヤのある髪の毛と表現が出来た。やはりまりんの母親というだけあって、非常に顔が整っていた。

まりんと同じ童顔だが、30代後半の大人びた様子やおっとりとした出で立ちのおかげで、年齢は感じさせないもののすぐにまりんの母親だと認識できる。


「うふふ、今日も仲良さげね。かもめも貴方たちのことを首を長くして待っていたわよ。」


なぎささんが口に手をあてて上品に笑うと、彼女の足元のほうから『ひょこっ』とアホ毛付きの小さな頭が飛び出し、間を置いて青藍色の髪色の幼女が顔だけ出してコチラを覗いてきた。


「かもめ!ただいま帰ったよ!」

「ただいま、かもめ。」


僕たちは膝まげて彼女の目線に合わせるようにそう告げると彼女は顔を『パァッ!』と明るくして、そのままおぼつかない足取りでとてとてとこちらに駆けよってきた。


「パパ!ママ!おかえりなさい!」

「おぉ~!娘よ!今帰ったぞぉ!」


僕は駆け寄ってきた幼女をそのまま抱きしめ、ぷにぷにのほっぺたにすりすりと自分のほほをすり合わせた。

幼女はそれに対してくすぐったそうにクリクリの青色の眼を細めて、それを受けて非常に嬉しそうにしていた。


「かもめぇ~!今日もお前はかわいいなぁ~!思いっきり抱きしめてやりたいくらいだよ~!」

「パパぁ、くすぐったいよう。」


こうして幼女とほほをすり合わせてしばらくイチャイチャしていると、僕の横のほうからどす黒いオーラが湧き出てきた。

ギョッとして横を見ると、先ほどから横にいたまりんから黒いもやもやがあふれていた。そして彼女はいつの間にか立ち上がっており膝を曲げている僕を高くから見下ろしていた。

彼女は目を細めて微笑んでいたが、明らかにそれは顔に張り付けているだけで、それが別の感情であることは一目瞭然であった。


「ゆうくん。いえ、パパぁ?娘とばっかりイチャイチャして、私のことは放置ですかぁ?パパはひどい人だなぁ~。いつも私にはしてくれないのに、娘にばっか甘えさせてさぁ~。」


明らかにその言葉には怒気がこもっていた。おそらく幼女とばかりイチャイチャして嫉妬してしまったのだろう。

僕は幼女を抱きしめながら、冷や汗をダラダラと流していた。彼女は普段は明るくてすごく優しいのだが、怒るとめっぽう怖いのだ。すごく。


こうなったときの対処法はしっかりとある。僕はそれを実践するために、そっと幼女から手を放して立ち上がり、そのまま腕を引っ張って肩を抱くようにまりんの体を引き寄せて体を僕の胸に埋めさせた。

そうして僕は優しく頭を梳くようにふわふわの髪の毛をなでてあげると、『ふぇ…』と胸の中から甘い声が上がった。

顔は胸に埋まっていて表情はうかがえないが、おそらく頬を赤く染めながら『にへぇ』と顔をだらけさせ、さぞかしご満悦の表情をしていることだろう。

スーハーとにおいをかいだり時々こすり付けるように身をよじらせており、少しくすぐったかった。


「パパぁ、わたしも、わたしもー!」


しばらくまりんを好きなようにさせて頭をなでていると、ズボンのすそを『クイクイ』と引っ張られた。

僕は足元のほうをみると、幼女が羨ましそうにこちらを見上げており、瞳をキラキラさせて、ふんすと鼻息を出しながら期待するようなまなざしを僕に向けていた。


こんなに期待するような顔を幼女にされて、こたえようと思わない男がいるだろうか。いや、いない。


僕は、まだ頭をこすり付けている途中であったまりんを開放して、わき目も降らずに幼女を見据え、そのまま膝を地面につけて勢いよく幼女を抱きしめた。

幼女は『キャッキャッ』と嬉しそうに腕に抱かれながらもぴょんぴょんと跳ねて、まるでまねをするかのようにアホ毛付きの頭をすりすりと胸にこすり付けてきた。まりんよりも少しツヤのあるちょいふわの髪の毛が僕の頬にあたって、まるで羽毛で頬を撫でられているようだった。胸の中から『ふわぁ…』と甘い声を出してほほを赤らめながら甘えてくる可愛らしい幼女を見ていると、僕もついついにやけてしまう。

そうして俺は顔をだらけさせながら幼女を心行くまでなでていると、またしても隣からどす黒いオーラが出ていた。しかもさっきの比ではないほどに。


「あーあ、そうやってパパは私を弄んで、娘ばかりに構うんだぁ~。これはお仕置きが必要かな~。」


さっきと同じように僕を見下ろして微笑む彼女。しかし目は笑ってはおらず、目からハイライトが消えていた。

ヤバイヤバイヤバイ!ここまでまりんが怒るとは思っておらず、僕はかつてないほどの危機感に襲われていた。

おそらくお楽しみを途中で投げ出され、あまつさえ見せつけるように幼女を撫で回していたことが原因であろうと瞬時に判断する。

僕は顔を真っ青にさせて、顔から冷や汗を滝のように流していた。怖いよこのヤンデレ少女!助けて怒羅衛門!


「ママも、いっしょにだきだきしよー!」

「え?も、もう!仕方ないなー!」


幼女がそう提案すると、ママは黒いオーラを沈めて、まんざらでもなさそうに頬を赤らめながら破顔させ、僕と同じように膝を曲げて、三人で囲いあうように抱きしめあった。

穢れをしらない小さな幼女と、元気ハツラツの学園のアイドルと、そして僕。みな満面の笑顔で強く抱きしめあっていた。


「キャッキャッ!」

「ホレホレ!ウリウリー!」

「よしお前ら!思いっきり抱きしめてやるぞ~!」

「あらあら、うふふ。」


僕たちはわちゃわちゃしながら3人で抱きしめあって、まりんのお母さんはそれを幸せそうに見ていた。




言い忘れたが、この幼女の名前は【金堂かもめ】、3歳の、まりんによく似た幼女である。顔はまりんに似てとても可愛らしかった。

3歳にも関わらず、5歳児並に言葉を話すことができるが、運動能力はまだまだ未熟ではある。

そして彼女はまりんの、いや…






彼女は、まだ高校生である僕たちの、血のつながった、実の娘であった。









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