異世界運送・トラックヤードにて
stdact
移送と空輸
とある倉庫のトラックヤード。24時間代わる代わるトラックが出入りするこの場所で今日もトラックが一台出発しようとしている。トラックの傍には書類とにらめっこをしながら話をするヒゲとメガネの二人組がいた。
「今日の荷物は?」
腕を組みながら相手の手元を覗き込む。その手には幾重にも書類が挟まったクリップポードが存在している。片腕でポードを支え、空いた手でパラパラと書類をめくりながら答える。
「第10世界住人の魂ですね。先の大戦で亡くなった方々がやっと出揃ったので今日輸送を行います」
めくっていく内に紙で隠れていたボードの面が見える。くいっとボードが傾いて書類がバサッと音を立てて元の束状に戻す。
「アレ、やっと終わったのか。1日で運びきれんのか?」
ぶっきらぼうな様子でタメ口のヒゲはスケジュールの心配をする。組んでいた腕がさらに深く組まれたように見えた。
「まあ、送り先は基本的に二ヶ所ですから。仕分け出来ればあとは積んで送ってもらうだけですよ」
真面目そうなメガネはトントンと書類の一部分を指し示す。書類ではなくその間抜けな様子を見たヒゲは顔をしかめる。
「第10世界天国と第10世界地獄だろ?そんなことは分かってんだよ」
その言葉を聴いて少し考えたあと、少し頷きながら書類が挟まったクリップポードから4枚を選定して抜き取る。
「ヒゲ先輩が気になるのはウチらの荷物ですよね?ちゃんとリストアップしてますよ」
抜き取った内の1枚をヒラヒラさせてヒゲの前に差し出す。書類には魂の個人情報リストが記載されており、そのごく一部に目印が付けられていた。組んでいた腕を解いてそのリストを受け取る。2人がそれぞれ自分の持つ書類をしばらく眺めているとメガネがヒゲに呼びかける。
「今回の"移送"はこの三人みたいですよ」
メガネの手にある三枚の書類には顔写真とともに細かい経歴が書かれている。それを見てヒゲは呆れと気怠さが内包されたようなため息をつく。
「毎度言ってるけど"空間転移式輸送"な。略して"空輸"」
ヒゲのそんな様子を意に介さずメガネは改めて3枚の書類に目を通し始める。ヒゲはリストを持ったまま再び腕を組んでその書類を覗き込む。
「それにしても最近増えたよな、"空輸"」
「最近増えましたよね、"移送"」
メガネが持つ三枚の書類にはそれぞれ"勇者"、"姫"、"魔王"の役職に就いていた3人の経歴が書かれていた。
「呼び方統一しようぜ、俗称のやつ」
「俗称と言うと、あの呼び方ですか」
『異世界転生——』
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