第40話:鈴木君と佐藤君
「あの……いいかな、佐藤君」
「俺は鈴木だっ!」「佐藤は俺だっ!」
二分の一の確率だし、適当に言ってみたら間違った。広志は今日の自分の運勢は、やっぱりあんまり良くないんだと気づいた。
ふと男二人の後方を見ると、
いつも教室では取り繕った笑顔を見せてるみたいで、こんな感じだとは気づかなかった。見音っていったいどんな子なんだろうか。
でも女の子を転倒させてしまったのは確かに自分なんだしと、広志は見音とその取り巻き二人に向かって詫びを言う。
「悪かったよ」
「じゃあお前は、自分がスケベだと認めるんだな!?」
「いやいや、そうじゃなくて。たまたまだけど八坂さんにぶつかったことを謝る」
「な~に~? お前はまだしらばっくれるのか? いかにもモテないくせに」
(いや、なんでそこまで僕がモテないことを強調するかなぁ? まあ確かに間違ってはいないけど)
「ねぇ鈴木君。いい加減それくらいにしといたら? 空野君はわざとじゃないって、言ってるんだしねぇ」
見音は言葉は優しいことを言ってるけど、どうやら広志を疑ってるような冷たい言い方だ。やっぱり自分は見音にもスケベと思われてるのかと、広志は少し悲しくなる。
「え? まあ見音様がそうおっしゃるなら、わかりましたけど……」
「でもね、鈴木君。空野君のことをモテないって決め付けてるけど、彼は
「えっ? 嘘でしょ。見音様。こんなに冴えないヤツが?」
広志はあまりの言われように、もう苦笑いするしかない。確かに取り巻き君達は二人ともまあまあイケメンだけど。
「ホントよ。ウチのクラスの女子が、空野君のことを好きだってカミングアウトしてたもの」
「へ~っ、世の中には物好きもいるもんだ」
バカにしたような鈴木の言葉に、調子に乗って佐藤も乗っかってくる。
「どうせその女、ブスなんだろ?」
どんどん悪口がエスカレートする鈴木と佐藤に、さすがに広志も言われっぱなしはマズイと思ってきた。自分が悪く言われるのは全然いいけど、凜のことを悪く言われるのは嫌だ。
「あの、悪いけど鈴木君と佐藤君。その女の子のことを悪く言うのはやめてくれない? 凜はブスなんかじゃないし」
その時見音が両手で、鈴木と佐藤の肩を後ろからぽんぽんと叩いた。二人は何ごとかと見音の方を振り返る。
「二人とも、ホントにもうやめときなさいって。空野君を好きだって言ってるのは、あの
「えっ?
「去年の人気総選挙で、ウチの学年の一位だった涼海 凜。君達も知ってるでしょ?」
鈴木も佐藤も大きく口を開けたまま、広志の顔を見つめて固まってしまった。二人とも呆然としている。そして数秒経った後に、二人揃って大きな声を出した。
「「ええええぇぇぇぇ!!?? あの涼海 凜~!? 嘘だろぉ~!?」」
「お、お前、涼海さんの弱みでも握ってるのか?」
お決まりのリアクションだな、と広志は苦笑い。もう、自分が凛の弱みを握ってることにしといた方が、話が早いんじゃないかとまで思う。
「ん〜、なんて答えたらいいのかな……」
広志がちゃんとした事情を言いあぐねてると、見音は薄ら笑いを浮かべた。
「そうなのかどうかは、私はホントのことは知らないけどね」
「見音様。やっぱりコイツは、涼海さんの弱みを握ってるんじゃ……」
広志はめんどくさいから、もう否定するのはやめとこうかと思ったその瞬間に、後ろから弾けるような明るい声が聞こえた。
「私は弱みなんか握られてないよ!」
広志が振り向くと、そこにはにっこり笑顔の凛が颯爽と立ってた。栗色のミディアムヘアが、風にさらさらと揺れている。制服のスカートも風になびいてる。
まさに颯爽と呼ぶのが相応しい姿で、凜は凛とした姿で立っていた。
(うん、凜は可愛いだけじゃなくて、カッコ良くもあるな)
いや、凜に見とれてる場合じゃないなと広志は思い直した。
「あれ? どうしたの、凛」
「ちょうど帰ろうと思って通りがかったら、校舎の陰から私の名前が聞こえたからさ。何かと思って覗いたら、ヒロ君だった」
凛のにっこり笑顔を見て、鈴木と佐藤が呆然とした顔で口々に呟いた。
「ああ、本物の涼海さんだ。親しげにヒロ君とか言ってる……」
「なんかあの男、羨ましいぞ」
すると突然校舎の角からズザっと靴音を立てて、元気な女の子が現れた。こちらもにっこり微笑んでる。
「私も居るよ〜」
「あ、伊田さん」
突然現れた三大美女の二人を目の当たりにして、鈴木と佐藤はびっくりした顔になった。
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