晴れ男vs雨女~世紀の頂上決戦~
じゅげむ
第1話 天に三日の晴れなし
「僕って晴れ男なんですよね」
酔いも回ってきたころだろうか。ふと、何の気なしに発した僕の言葉に飲み会の会場は静まり返った。
正確には入り口向かって右の、女性陣のテーブルが。
「へえ、そうなんだ」
竜安寺もかくやという静けさを最初に破ったのは、僕と同回生の雨原さんだ。
彼女もだいぶ酒が回っているらしい。座った目で僕をじろりと睨むと、手に持ってるジョッキを口に運び、勢いよく傾けた。ジョッキにはまだビールが並々と入っていたにも関わらず、ものの2,3秒で空になる。
あの女ヤバいぞ、と隣のカズシロは呟く。
流石、河原町の母里友信!と女性陣のテーブルから黄色い声が響く。雨原さんはそれに片手をあげて答えると、ジョッキを手に持ったまま僕らのテーブルに千鳥足で近付いてくる。
「あんた邪魔」
そして、隣のカズシロを蹴飛ばすと、雨原さんは片膝を立てるという乙女らしからぬスタイルで僕の隣にどっかりと腰を下ろした。
「な、なんでしょうか」
普段なら女性が隣にいるだけで動悸が止まらなくなるが、この動悸はいつもとは違うようだ。照れとか恥ずかしさだとか、そんな甘っちょろいものとは違う。とにかくマズイぞ、と僕の鈍い第六感が必死に告げている。
雨原さんはニヤニヤと笑みを浮かべているが、目の奥は笑っていない。
しばらくの沈黙の後、ひっく、とひとつしゃっくりをすると、彼女は唐突に話し出した。
「私、雨女なのよねぇ」
ヘー、ソウナンデスカ。僕は引き攣った笑みを返すことしかできない。
「あんた、気にならないの?」
「は?」
「だーかーら!どっちが晴れ男と雨女どっちが強いか気にならないのかっつってんの!」
「いや、気にはならな――」
「なるよねぇ!」
僕に目を合わせたまま背中をバンバンと乱暴に叩く。その勢いに僕は思わずむせる。
「ねえ、勝負しようよ」
「はぁ?」
気管に入ったビールに涙目になっている僕はいまだに状況を把握することができない。
ビールをピッチャーで二つと、雨原さんは店員を呼び、おおー、と周りから空気の読めない歓声が上がる。
いやいや、ちょっとまってくださいよ。きょうびそんなことする学生はいませんって、傘原さん。
なんて言うのは恐ろしくてできないので必死に眼で訴える。
「ん?」
僕と目が合った彼女は、少し考えるように静かになる。
「……やっぱ、さっきのビールなしで」
あからさまに安堵の表情を浮かべる僕を見て、雨原さんは優しく微笑みかける。
「ワインボトルをありったけ持ってきてください」
さっきよりも大きな歓声が上がる。げひゃひゃひゃとその中でも一際目立つ下品な笑い声を上げているのは会長に違いない。
あんたワイン好きだったよねぇ、とどこまでも間違った気遣いをしながら、雨原さんはグラスにワインを注いでいく。
諦めろ耕司、と雨原さんから隠れるように、僕の後ろで小さくなっていたカズシロは僕に耳打ちする。
「百万遍の八岐大蛇と呼ばれたお前の飲みっぷりを見せてやれ」
「いや、そいつは酔っぱらった後に殺されているからな」
何はともあれ、もう後には引けない。
僕は雨原さんからグラスを受け取ると、一気に飲み干した。
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