第20話 みんなでレベル上げ
「あたしが戦って魔物の体力を削ぐから、瀕死状態になったらあんたのその鉄屑で叩いて殺せ。そしたらあたしよりは少なくても経験値入るし、スライムを相手にするよりも早くレベルが上がるでしょ」
「怪我をしても私がサポートするので安心してください。骨が折れたぐらいなら簡単に治せます」
「とりあえず、蟲型に絞っていこうか」
「蟲型はそれほど経験値入らないし、鳥獣型や人獣型の方がいいのでは?」
「んー、でも最初は蟲型で慣れさせた方がいいっしょ。いきなりゴブリンとかはグロすぎるし」
「それもそうね。なら森林地帯に向かう?」
「いいね。あそこならいっぱいいるし狩り放題」
場所はガルダの街と草原を隔てる大門前。目の前でやり取りされる姉妹の話にユイは乾いた笑みを浮かべたまま終わるのを待っていた。
「アリスいるし、少し無茶しても問題ないね」
「森林地帯に姉さんが無茶するような相手はいないでしょ」
「まあね。でも久しぶりだから腕がなまってそう」
「姉さんなら大丈夫よ」
しかし、姉妹の会話は終わる気配をみせない。ずっと軽快に楽しげに話し込んでいる。
「洞窟にも行きたいなぁ」
「もう、姉さんったら。今日はユイさんのレベル上げが目的なのよ? 森林地帯の奥なら洞窟レベルの魔物もいるでしょうし、それで我慢しなよ」
「洞窟レベルっていってもただの
なぜこうなったのだろうか。ユイは二人の会話の行末を見守りつつ、今朝のことを思い出した。
***
早朝の鐘の音で目が冷めた。前日の無謀な戦いのせいで体は壊れているものと思っていたのに違和感どころか、軽快そのものでユイは不思議に思いながら上半身を起こす。
すると視界に一番に入り込んできた光景を脳が処理できず、固まった。
視界の先には同じベッドで眠っているメイアとアリスの姿。穏やかな表情と一定のリズムで胸が上下している様子を見るからに二人は熟睡しているらしい。
「?」
なぜ二人が同じベッドで眠っているのか分からなくてユイは目元をこする。
「……?」
こすりすぎて目元が痛くなってきた。
「なに不思議そうにしてんの」
メイアが大きく欠伸をしながら体を起こすと
「起きたら三人で寝ていたから驚いて……」
自分の部屋の広さは三畳半。それに見合ったベッドは一人でも手狭なのに、なにがあって三人で眠っていたのだろうか。
(確か、昨日はユージンさんとお話しをしていて……)
あ、そうだ。思い出した。メイアがユージンを部屋から追い出そうとしているのを聞いている最中、アリスの治療を受けていたんだ。その効果なのかすごく眠たくなって、気づいたらユイは眠っていた。
「二人はずっと一緒にいてくれたの?」
「あんた、体はどう?」
質問の返事は返って来なかった。表情から察するに元から返す気もなかったらしい。
「いいよ。とても、すごく」
「アリス、けっこういいスキル使ったみたいだから良くなって当然よ」
「うん。本当にすごいね。傷跡もまったく残ってない」
「まあね」
さてと、とメイアは前おきをするときっと目尻を吊り上げた。
「昨夜のお説教の続きを——」
(ですよね……)
ユイは項垂れた。説教の続きをするために二人は残っていたのだとやっと理解した。
「——は、まあ、置いといて」
「置いておくの?」
「ええ。だって、オーナーと話合ったんでしょう? あんたに言いたいことはたっくさんあるけれど、落ち着いた話を蒸し返すほど、あたしは
「ごめんね。心配かけさせて」
「本当に。だから今日のレベル上げはあたし達が付き添うから」
付き添う、という単語にユイはぱっと顔をあげる。
「付き添うってメイアとアリスが……?」
「そう言っているでしょ? 聞こえなかったの?」
「いや、聞こえていたけど……」
「オーナーから今日中にレベルを5に上げてくれってさ。あたしが補助役。アリスが回復役ね。レベル5が目標だけど年相応のところまで上げるつもり」
「アリスも来てくれるの? 二人とも忙しいんじゃないの?」
「私はオーナーから今日一日、休みを貰った。その分の給料もでるよ。アリスはもともと休みだし問題なし」
笑顔でサムズアップされたのでユイもおずおずだが真似をした。
「じゃあ、行こっか!」
「今から?」
「当たり前じゃん。善は急げっていうでしょ!」
なにがそんなに楽しいのかメイアは輝かん笑顔でまだ眠っているアリスを起こそうとした。背中や肩を力いっぱい叩いて。
***
(二人がついてきてくれるのはありがたいし、心強いんだけど……)
いつまで門前で喋っているのだろうか。レベルは上がれば上がるほど、経験値が貯まりにくいのかレベルアップが難しくなる。このままでは今日でレベル5なんて達成できないだろう。
「ちょっと! 早く行くよ!」
思考の海に浸かっているとメイアの怒声で現実に引き戻された。
「あ、ごめん」
と謝罪の言葉を口にするが二人の姿は見当たらない。周囲を見渡してもどこにもいないので慌てて「どこにいるの?」と叫べば、遠くから「ここですよ!」とアリスの声が聞こえた。
声の方角を見れば二人は草原にいて、手を振っていた。
「ごめん! すぐ行くから待ってて!」
ユイは手を振り返すと二人の元へ行くべく駆け出した。
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