神様HELP!
飯島彰久
第1話 心霊スポットにいたものは……
正直、来なければ良かったと思っている。
別に心から信じているわけじゃないけど、幽霊はいると思う。そんな可能性があるところにわざわざ出向くとか正気の沙汰ではないとまで思う。
けど、乗せられて……いや、断れきれずについてきちゃった。
今、あたしを乗せた車が向かっているのは、とある山奥にある廃屋だ。よくありがちな「一家4人が心中した」とか「ここで3人の人が立て続けに首つり自殺してる」とかっていう曰くは定かではない。ないけども、なぜかご当地どころか日本全国的に知られる心霊スポットだったりする。
事の発端はあたしとあたしの彼氏の恵一、友だちの小夜とその彼氏の信二の4人が、土曜の夜にファミレスでダベっていたことに始まる。
みんな怖がりなのをあたしは知っているけど、それだけに話の流れで盛り上がっちゃった怪談。ありがちな話を小一時間は話していただろうか。そうしたら恵一が
「なぁ、これから心霊スポットへ行かねぇ?」
などと言い出したのだ。
車は恵一が乗っていたし、たまたまいたファミレスからそう遠くないところに、全国的に知られた心霊スポットがあったのが良くなかった。
みんな怖がりなクセに
「おお、いいねぇ。行こうぜ!」
「私も興味あるー。いきたーい」
などと盛り上がってしまったのだ。あたしは最初からそんなところに行きたくなかったし、行ってロクなことにならないのもイヤだから
「止めようよ。ロクなことないよ?」
と一人消極的な意見を言ったものの
「いいじゃん、玲子。行ったって何も起こらないって」
「何も起こらないなら行かなくたっていいじゃない」
「いや、ここは雰囲気盛り上がっちゃってるしさ、やっぱり締めは心霊スポットじゃない?」
「そうだよ玲子。せっかく話も盛り上がってるし行こうよ」
という具合に押し切られてしまった。
で、ファミレスから走ること小一時間。たった一時間で山の中に入ってしまう環境もどうかと思うけど、着実に廃屋へは近づいている。
さらに10分後。廃屋があると言われている場所の近くにたどり着いた。
4人は車を降りて、廃屋へ通じる道……というか獣道を掻き分けて山の中へ入っていく。
思いつきで来たので、周りには灯りがないし、懐中電灯なんて気の利いたものは誰も持っていない。だから、4人でスマホをライト代わりにして先へ進んでいく。
すると……。
「もしかして、あれ……か?」
信二が指さす向こうに一軒家らしきものが見える。
が、おかしい。こんなところに電気も通っていないのに、なんで「一軒家だと分かる」んだ?
「なんかぼんやり灯りが点いてないか?」
このタイミングでイヤなことを言う恵一。
「もうちょっと近づいてみるか……」
4人は恐る恐る歩を進める。
20mくらい歩いたか。突然「バーン」と大きな音が鳴り、ドアが開いた。
「うわああああああああ」
「きゃああああああああ」
あたしの存在などなかったように他の3人が一斉に逃げ出す。
あたしは……逃げ出す前に足がすくんで動けなかった。膝がガクガクしているのが自分でも分かる。
怖い。怖いけど動けない……。
ドアから大柄な人間らしきものが出てくる。
これが幽霊? でも、ここで幽霊とか聞いたことないんだけど……。
その人物はあたしの方に向かってズンズン歩いてくる……。
ヤバい。これは本当にヤバい。なんでみんなあたしを置いて逃げちゃうのよ!
思考がグルグル回っているうちにがっしりと肩を掴まれた。
「ひっ!」
「お前、誰だ? ……なんだ、人間か。ここは人間が入って来れないように結界を張ってあったんだがなぁ。なんで入ってきたんだ?」
「えっ、その……あの……ごめんなさい!」
「んー、まぁ悪さをしてるわけじゃないし、人間に会うのも記憶にないくらい遠い昔の話になったからのぉ。いいだろう。お前、ちょっと来い」
「えっ、な、なんですか……えっと、その……」
肩を掴まれたまま、廃屋の方へ連れて行かれる……。
何、この展開。幽霊に肩を掴まれるとかレア過ぎる体験なんだけど……なんだけど、よーくみるとおかしい。
向こうが透けて見えない。つまり実体があるってこと。幽霊じゃないの?
着ている服もおかしい。あたしたちは普通に着ている服じゃない。なんというか歴史の教科書で壁画とかになっていそうな遥か昔の衣装みたいだ。
廃屋は遠目ではぼんやり灯りが点いている程度に見えたんだけど、近づいてみると煌々と灯りが点いている。ただ、電気が通っている感じはない。電線がない。
「まぁ、中に入れ」
「は、はい……おじゃまします……」
中は意外に広かった。中央に陣取っている絶世の美人を中心に、ぐるっと輪になって男女取り混ぜて15、6人はいそうだ。
「遠慮するな、久しぶりに見た人間だ。空いてるところに適当に座れ」
「あのー……」
「この人たちは何物なんですか? 幽霊ですか? やけに陽気ですけど……」
「幽霊か」
どわっははははははは、と大笑いされる。そうだよなぁ、やっぱり幽霊じゃないよね。こんな幽霊聞いたことないもん。
「ワシらは神様だ」
「か、神様!? 神様っていうとキリストとか?」
「キリスト? ワシゃそんなん知らん。ゼウスとかアポロンなら知ってるぞ? 天上界の遊び仲間だ」
「ぎ、ギリシャ神話? でも、あなたはなんというか和装ですよね」
「そりゃそうだ。日本の神様だからな」
「えーっと、日本の国造りの神話とかに出てくる?」
「なんだ、知ってるんじゃないか。なら別に説明はいらんな」
「あなたのお名前は?」
「オオクニヌシノミコトだ。あの真ん中に座ってる別嬪さんがアマテラスオオミカミだな」
「オオクニヌシノミコト……さんって、確か出雲大社に祀られてますよね?」
「そうそう、アレだ」
幽霊どころか日本の神様に会ってしまった。
「まぁ、一杯やれ」
お酒を勧められる。日本酒というかにごり酒みたいな、今のお酒とはちょっと違う感じ。でもなかなか美味しい。こんなの飲んだことない。
「そのオオクニヌシノミコトさんがどうしてこんなところにいるんですか?」
「ワシらはな、普段は人間に姿を見られないようにしているし、そもそも天上界にいるからお主のような人間に出会うことはないのだ。でも、こうやってたまに下界に降りてきて、人間の様子を見つつ宴会をやる習慣があってな」
「……初めて聞きました……そんな習慣、神様にあるんですね」
「神様やってるのもなかなか大変なもんなんだぞ。息抜きだって必要なわけだ。いつもは一晩宴会やって飲み明かして天上界へ戻るんだが、なぜか見えないはずの人間に出くわしたのが今ってわけだ」
これは幽霊よりレアケースじゃないか。
とは言え、こんなの誰に話しても誰も信じてくれないよなぁ……。
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