第18話 「…あれ、どうしたのかな。」
〇浅香聖子
「…あれ、どうしたのかな。」
「…さあ…」
あたしがロビーのベンチに座ってる知花を指差して言うと、光史は首を傾げて手すりにもたれた。
「おかしいな…元気になったと思ってたのに。」
「やっぱアレかしら…」
「アレ?」
「Angel's Voiceよ。」
「…撮影ぐらいで?」
「んー…あたしとか瞳さんは何でもないけど、知花だからねえ…」
「…ああ…なるほど…」
あたしも光史と同じように手すりにもたれて、溜息をついてる知花を見る。
今も神さんを大好きでたまんない知花は、ちょっとした事で自信を失くす。
それはもう…ほんと…考え過ぎよ!!って怒鳴りたくなるぐらいのレベルで。
「最近浮き沈み激しいよな。」
「更年期かな。」
「まだ早くないか?」
「そうでもないわよ。」
「おまえは?」
「迎えないつもり。」
「ははっ。」
明日サクちゃんが帰って来る。
だからもっと元気でいてもおかしくないんだけどなあ。
「何かこう…知花が元気になるような事でも起きないかな。」
あたしがそう言うと。
「んー…ここんとこ、知花が一番喜んでたのって…」
光史は天井を見上げて考えて。
「…ダリアパフェ…」
目を細めて小さく言った。
「一度食べると、しばらくいいわよね…」
「だな。後は…やっぱ、アレだな。」
「アレ?」
「孫だよ。」
「……それだ。」
あたしと光史には孫がいる。
昔はまさか40代で孫が出来るなんて思いもしなかったけど…
『おじいちゃん、おばあちゃん』なんてのは、60過ぎてなるものなんだって(あたしのばあちゃん、若いけど)勝手に思ってたけど…
「あっ、最新の
「おお。見せてくれ。」
あたしはスマホを取り出して、七月末に生まれたばかりの
「おー、こりゃ男前になるな。」
「でしょ?ちょっと京介に似てるから、
「…孫にも人見知りって…京介さん、どれだけ…」
あたしには三人の孫がいる。
そして、
SHE'S-HE'S、7人中4人は孫持ちという…
最初自分がおばあちゃんになるんだって考えると、泣きたい気持ちもなくはなかった。
だって、すごくお年寄りってイメージが…
だけど佳苗と音のお腹が大きくなるにつれて、ワクワクが止まらなくて。
さらには生まれると、可愛くてたまらなくて。
自分から『おばあちゃんよ~』なんて言って、佳苗が『おばあちゃんって呼ばせたくないです』って言い張ったぐらい。
でも、呼び方なんてどうでも良くなるのよ実際。
それぐらい、可愛くて仕方ない。
一番に孫が出来た光史んちには…長男の
沙也伽は今妊娠中。
年内には二人めが生まれる。
さらには…王寺グループの御曹司と結婚した長女のコノちゃん。
まさに、光史と同じ子作りパターン…ぷぷっ…
知花はここ二・三年…すごく孫を欲しがってる。
光史んちなんて同居してるもんだから、何かと言うと『光史んち行かない?』って真顔であたしの腕を掴む。
廉斗可愛いしな~。
確かに、癒し効果抜群よね。
「でも、サクちゃんが婚約解消した今、一番孫に近いのは…」
あたしが顎に指を当てて言うと。
「詩生と付き合ってる華月ちゃん…か。」
光史は頷きながら答えた。
「あの二人は別れる事はなさそうだけど…結婚もまだっぽいわよね。」
「華月ちゃん、センの家にかなり入り浸ってるみたいだけど。」
「わっ、なら結婚の話も出てるのかな。」
「どうかな…あの二人も色々あっての今だから、慎重になってる可能性はある。」
「あ~…そうか~…でもさ、あれを乗り越えたんだから、もう勢いで結婚しちゃえばいいのにね。」
「ふ…おまえは…」
光史との会話は楽しい。
幼馴染で、昔からずっと一緒だったからテンポもいい。
ほんと、優しい男なんだよねー。
光史の家族は絶対幸せだよ。
「いっその事、ノン君が出来ちゃった婚でもして…あ、笑えねー。神さんが土下座するとこ想像したくねー。」
光史は希世と一緒に自分が土下座をしたのを思い出したのか、頭をブンブン振った。
「ノン君って彼女いるの?全然噂立たないけど。」
「噂?ゴシップは出たけどな。」
「あ。あったね…そんな事が…」
大学時代の色々をゴシップネタにされたノン君。
Live aliveの前だったけ…
何だかゴタゴタしたけど、あのステージは見事だったな…
「あれ以来聞かないな。モテてるとは思うけど。」
「あの時、紅美と『イトコと熱愛』なんて騒がれてたけど…あれはどうなんだろうね。」
「バンドメンバー以上の物は感じないけどな。」
「何となく、ノン君は可愛い系の女の子好きそうだしね。紅美はカッコいい系だから違う気がする。」
「あ、分かる。知花みたいにふわっとしてるタイプが好きそうだ。」
「背は高いし優しいしサラブレッドだし…もうとっくに結婚してても良さそうなんだけどねえ…」
「確かに。」
あたし達は、しばらくそうやって世間話と孫の話に花を咲かせた。
知花を眺めながら。
そして、そんなあたし達に熱い視線を送られてた知花は…
「…帰るのかな。」
「みたいね。ずっとあそこに座って、何してたんだろ。」
普段なら…気付きそうなあたし達の視線にも気付かず、事務所を出て行った。
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