いつか出逢ったあなた 43rd
ヒカリ
第1話 「だーいじょぶだよ、神。」
「だーいじょぶだよ、
そう言って、アズが俺の背中を叩いた。
「今までも乗り越えて来たじゃん?」
「……」
こいつの能天気な笑顔を見てると…悩んでるのがバカらしくなる。
…乗り越えて来た…か。
本当に乗り越えて来たんだろうか。
俺は一人で勝手にそう思っていただけで…
あいつ…
今日は…F'sのライヴ。
高原さんの気まぐれで企画されたこのライヴは…
まあ…
俺のせいと言うか…
俺のためと言うか…
「…いつも付き合わせてわりーな。」
指を組んだまま、小さく言うと。
「うわっ。神らしくないなあ。」
アズは大げさに苦笑いした後。
「でも、結果それでいい楽曲を生み出してるんだからさ。俺らにとっては儲け話って事だよね。」
肩を揺らして笑うフリをした。
…ったく…
人の不幸を儲け話とか言いやがって…
だが、目の前のアズに感謝する。
今回ばかりは本当に…俺もかなり落ち込んだ。
落ち込んだし…
誰にも言えねーけど…
消えてしまいたいとさえ思った。
それほど…それほど、なんだ。
「さ。知花ちゃんだけへのラブソング。しっかり歌って、みんなに冷やかされようよ。」
先にドラムの位置についてセッティングをしている京介にも聞こえるほどの声で、アズが言うと。
「あ…やっぱりそうですよね…」
ベースの
「えー?我が息子ながら鈍いなあ…」
アズに呆れられるなんて、とんでもない鈍さだな…なんて鼻で笑ってると。
「いや、最近の神さんのラブソングは、みんなに対して歌ってるって聞いたから…」
映が…聞き捨てならねー事を言った。
「はっ?神そんな事言った?俺聞いた事ないけど。」
…みんなに対してラブソングだ?
何が悲しくて、知花以外の奴にラブソング書かなきゃなんねーんだよ。
俺が眉間にしわを寄せかけたその時…
「いや…おふくろが言ってたぜ?知花さんがそう言ってたって。」
映がピックをくわえて、さっきから何度目だ?ってチューニングをしながら言った。
「……」
映の言葉を頭の中で繰り返す。
『みんなに対して歌ってるって』
『知花さんがそう言ってたって』
「……映。それ、いつの話だ?」
前髪をかきあげながら、映に問いかける。
「え?」
「おまえはいつ
俺があまりにも真顔だったからか、映はチューニングの手を止めて『んー…』と考え込んで…
「あっ、『Never Gonna Be Alone』のミュージックビデオが公開された後です。」
ハッと顔を上げて言った。
「……」
あの曲を、みんなに向けて歌った曲だと…?
「えー?あんなラブソング、どう聴いても知花ちゃんへの歌なのにねー、神。」
「……」
…ステージ前に…いい事を聞いた。
そうか…
そうだったのか。
俺の気持ちってのは、
「…そろそろだな。」
気合いが入った。
ドラムセットから袖に戻って来た京介も含め、スタッフ全員が集合する。
俺は…みんなを見渡して。
「今日も、宜しく頼む。」
スタッフに声を掛けた。
「は…はいっ!!」
全員の背筋が伸びた所で、円陣を組んだ。
「F's!!行くぜ!!」
「おう!!」
俺は…
俺が俺であるために。
ステージに向かう。
そして…知花のためだけに。
ラブソングを歌う。
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