本の奥

芥庭 深乱

第1話

人生は広くもなれば

狭くもなる。


それは、人生から

何を得るかではなく


人生に何をそそぎ込むか

にかかっている。

〜『赤毛のアン』抜粋




皆さんは知っているでしょうか?

少なくとも題名だけでも知っている方は多いと思います。

L・M・モンゴメリさんの代表作

『赤毛のアン』


さて、これから始まる物語

不思議で愉快な世界へ誘いましょう。



日が暮れる時刻も早くなり、街灯が今点々と街を照らし出したその頃。私はいつものように夕食の準備をし始める。もう何年間になるだろうか。ばっちゃんが腰を痛めた頃ぐらいだから、もう6年になるのか。こういう風に学校から帰ってきてはスーパーに出向き、夕食の準備をする。慣れたもんだが、最初の方は大変だったなぁ。なんてことを考えていると、居間の方からばっちゃんが私のことを呼ぶ声が聞こえる。

「なにぃ」

「雫、オマエ、今何歳になった?」

「……16だけど」

「そうか、もうそんなになるんか」

どうした、ばっちゃん…そろそろあれか。認知症というやつか。ばっちゃんが冗談を言うのはシャレにならない。認知症じゃないかと心配してしまう。そんなばっちゃんは何かを探しているのかごそごそしている。

「…何しているのさ」

「……あぁ、あった。ほれっ」

そう言ってばっちゃんは私に向けて何かを投げてくる。私はとっさにその投げられたものを掴む。それは古ぼけた…間違えた。年季の入った本だった。

「…『赤毛のアン』?」

「16なんだったらそれぐらい読みな。オマエは本なんてもんは今まで全然読まんかったからな」

「……強制的に読ましても本に対していいイメージは持ちませんよ?」

「………口だけは達者になって…口以外に達者になるところはあったろうに…」

そう言ってばっちゃんは私の胸をじっとみる。私は古ぼけた本でその胸を隠してそそくさと退散する。


ばっちゃんと夕食を済ませ、風呂に入って、さっぱりしたところに怒鳴り声が聞こえてきた。

「こんのクソババァ!俺の飯どこにやったんじゃぁ?!」

「オマエみたいな不良の飯はわしの腹ん中に入ったわ!食べたいんやったら、わしが吐いたもん食っちょれ!」

まぁ、いつものことだ。ばっちゃんは兄ちゃんが遅い時は馬鹿みたいにご飯を食べる。だから私は兄ちゃんの分は分けて用意する。

「…お帰り、兄ちゃん。はい、これ夕食」

「おぉ、ありがとな、雫。ばっちゃんも見習え」

「ふん、小童の分際で何ちゅう口の利き方や」

相変わらず…この二人は

「ばっちゃん、いい加減にしぃや、兄ちゃんだって、部活ぐらいしたいねんから好きにさしたらええやんか。」

ばっちゃんは私の一言に子供のようにブスッとする。兄ちゃんは私の後ろで調子に乗って「せや、せや」と言う。

「兄ちゃんも部活に入る時はちゃんと言ってから入ってや。そうしたら、こんなんにならんのに…」

兄ちゃんもブスッとする。これは私は何も悪くない。


ひと段落ついて、私は自分の部屋のベッドに仰向けになる。…少し考えて、何もすることがないことに気づき、ばっちゃんに渡されたあの本を読んでみることにした。

最後のページを読み終わってしまった。まさか、こんなに熱中して本を読むなんて…

私は本を閉じる…と、その瞬間、本は光り輝き私を包んだ。


気がつくと、殺風景な広場のようなところにいた。子供が遊んでいる。私というと、木の下のベンチで座って本を開いていた。


「…どこ、ここ…」


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