入学編第十五話 襲撃

 一方、少し時間をさかのぼり、ラノハを除く一年生たちは聖装竜機専用訓練場にて聖装竜機を動かし、戦闘訓練などを行っていた。

 現在ミリアは聖装竜機に乗り、そのそれぞれの手に銃を一丁ずつ持っている。

 ミリアの聖装竜機は中距離戦闘型の機体であり、盾を持たない二丁拳銃のようなスタイルである。

 これもまたラノハの聖装竜機と同様に、他に類を見ないようなスタイルの機体であった。

 ミリアが聖装竜機に装備している銃は、聖装光線銃である。

 というより、聖装竜機が装備する銃の殆どが、聖装光線銃なのだ。

 スミーナ国が使用している銃は、大きく分けて二つに分類される。

 一つ目が聖装実弾銃。二つ目が聖装光線銃である。

 この二つは一般に、それぞれ聖装銃、光線銃と略される。

 なぜ聖装竜機には光線銃が使われるのかというと、光線銃自体が第三世代でしか扱えないものだからである。

 光線銃はホーリーエネルギーを銃の中で圧縮し、ホーリーエネルギー自体をそのまま打ち出すものであり、第二世代にはそれができない。

 故に、第二世代は聖装銃、第三世代は光線銃を扱うのだ。

 その二丁の光線銃の銃口を的に向かって構えたミリアは、そのまま的に向けて二発同時に放った。

 放たれた二つの光線は、ものの見事に的に命中した。

 それを確認したミリアは、聖装竜機を下降させ地面に降り立つ。


「……二発とも命中だ。流石だな」


「ありがとうございます」


「では次、モートゥ。行って来い」


「はい」


 リディオはセフィターに返事をしてから上昇した。

 今日行われている授業は、武器が届かないところから、早く正確に的に攻撃を当てるというものである。この授業では、攻撃の命中率が求められる。

 この授業では一見、銃を持つ聖装竜機が有利に思われるが、実際はそうでもない。

 剣や槍であっても、ホーリーエネルギー自体を飛ばすことは可能なのである。

 銃のように遠くまで飛ばすことはできないが、剣や槍の中に存在するホーリーエネルギーを溜めるところにホーリーエネルギーを流し込み、圧縮すれば、剣や槍を振るうことでホーリーエネルギーを斬撃のように飛ばすことができる。

 だが、これも第三世代にしかできない芸当であり、更に飛ぶ距離が銃に比べて短いので、ある程度接近しなくては届かない。

 リディオは的から少し離れたところで槍を構え、槍の中でホーリーエネルギーを圧縮する。

 そして槍を突き出すことにより、ホーリーエネルギーを押し出し、的に向かって放った。

 それは、一つ目の的に当たった。

 更に、二つ目の的に照準を合わせ、槍を振る。

 すると槍が振られたところから弧のような斬撃が現れ、二つ目の的に向かっていった。

 それも見事に命中させ、リディオは地面に向かって下降した。


「モートゥも二発とも命中か。優秀だな」


「ありがとうございます。これからも精進します」


「ああ。これからも励んでくれ。では、次はフォーラル――」


「大変です!リーハー先生!」


 セフィターがそう言った瞬間、一人の男性が切羽詰まった顔で、聖装竜機専用訓練場に大急ぎで入ってきた。

 セフィターはそんな男性に駆け寄り、説明を要求する。


「どうかしたんですか?レスター先生」


「つい先程、スータフン港の駐屯軍から電報が届きまして、『邪装竜機襲撃。交戦する。救援求む』と……」


「邪装竜機がスーターフン港から?……なるほど。海の上を飛んできたと……」


 スーターフン港はルマローニ国の国境とは真反対に位置する港である。

 故にセフィターは、そう結論づけたのだ。


「それで、救援準備は?」


「現在、他の先生方が聖装竜機格納庫に向かって、行く準備をしています。私を含めても三人しかいませんが、行かないよりはマシでしょう。セフィター先生は学校に残っておいてください」


「ええ。分かりました。聖装竜機を動かせない私では、行くこともできませんからね。申し訳ない」


「いえとんでもない!セフィター先生がいなければ、我が国がなくなっていました!あなたの力は必要です。ここで残って、生徒たちへの指示をお願いしま――」


 レスターがそう言い終わる前に、上空から光線が一本降ってきた。

 その光線はセフィターの方に向かっており、レスターはとっさに、セフィターを突き飛ばした。

 突き飛ばされたセフィターをミリアが聖装竜機を素早く動かし、セフィターを潰れないようにその手で包んだ。

 もう片方の手でレスターを守ろうとしたその瞬間、光線がレスターの胴体を貫いた。

 それにより、レスターの血が辺りに飛び、ミリアの聖装竜機の手にかかった。

 その貫いた光線はそのまま地面に当たり、周りに衝撃波を生む。

 ミリアは衝撃波から顔を背けながら、レスターを救えなかったことに対して顔を歪ませた。

 そして衝撃波が収まると、光線が着弾した地面から、煙が上空に向かって立ち上る。

 ミリアを含めた生徒たち全員が上空を見上げると、そこには四機の邪装竜機がいた。

 そしてまた、邪装竜機が銃を構えた時、二機の聖装竜機が邪装竜機に攻撃を仕掛けた。

 だが、二機対四機では確実に二機の方が不利である。

 加えて、二、三年生は今この学校にいない。軍に所属している竜機操縦士も、ここにくるまでは時間がかかる。

 つまり、今から短時間ではあるが、二人の先生と一年生十五名で凌がなければならないのだ。

 ミリアは、レスターの血がついた聖装竜機の手を見てから握りしめ、口を開いた。


「……セフィター先生は危険だからここから離れてください。私は戦います」


「……本気か?相手は本物の邪装竜機だ。訓練とはわけが違うぞ」


「それでも、行きます。このまま黙って見ていることはできないので」


「……俺も行こう。ミリア一人に行かせるわけにはいかない」


「……俺もだ」


「「……私も」」


 ミリアから始まり、リディオ、ヴァルサ、シルア、シルンと次々と生徒たちが戦うことを表明していく。

 やがて、全員が表明すると、セフィターが少し間を開けて口を開いた。


「……駄目だ。と、言いたいところだが、決意は硬そうだな……。実際、お前たちが戦わなくては厳しい状況だ。だが、これだけは言わせてくれ。……死ぬなよ」


「「「「……はい!」」」」


 生徒たちは皆、口を揃えて返事をし、上空にいる邪装竜機と戦うために飛翔した。

 セフィターはその生徒たちの飛翔を見送り、その場から去るのであった。

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