入学編第二話 移動

 生徒たち全員が自己紹介を終えた後、少しの自由時間を設けてからラノハたち生徒はセフィターに連れられ、ある場所へと向かっていた。

 生徒たちはセフィターから何も伝えられていない。故にどこに向かっているのか、そこに何があるのかなどは生徒たちには一切分からないのだ。

 だからだろうか。生徒たちは自然に近くの者同士で話し合いをし始めた。自由時間に生徒同士で交友したことにより、友人を作ることができたようだ。……ただ一人を除いてだが。

 そんな一人のラノハに、一躍人気者となったミリアが話しかけた。


「ねえラノハ。ラノハはどこに向かってると思う?」


「……そんなの決まってんだろ。つうか話しかけてくんな。俺にそんな時間はないんだ」


 ラノハはそう言って、話しかけてきたミリアを突っぱねた。

 その言葉を聞いて、また生徒たちの空気が悪くなる。特に一部の生徒たちは、ラノハに対して嫌悪感をあらわにした。

 だがミリアはいつものことだと言わんばかりに一切動じず、果敢にラノハに話しかけ続ける。


「え!?どこに向かってるか分かるの!?分かってるんだったら教えてよラノハ!」


「……うるせえな。なんで教えなきゃならねえんだよ。そもそも着いたら説明してくれるだろうが」


「分かってないなぁラノハは。皆で一緒に予想するから面白いんでしょ!」


「面白さなんていらねえんだよ。そんなのは仲良しごっこしてるお友達とでも話しとけ」


 そんなラノハの冷たい物言いに、ミリアは少しだけ眉をひそめて口を噤んだ。

 ラノハから自分たちは友達ですらないと、はっきり言われてしまったからである。

 当然だが、先程嫌悪感をあらわにしていた生徒たちは、さらにそれをさらに大きくした。その他の生徒たちも、流石にラノハに対して嫌悪の視線を送る。

 しかしラノハはそんな視線を物ともせず、一人先頭を歩く。

 一人で先に行くラノハの後ろで、ミリアは完全にラノハと話す空気を失ってしまった。

 周りの空気がラノハに対する嫌悪一色となったからだ。

 そして、ミリアがラノハから離れたところで、あるそっくりな二人の女子生徒がミリアに話しかけてきた。


「ねえねえ。なんでミリアはあの、えっと……オタール君!に話しかけてるの?知り合い?気になるよねシルン」


「うんうん。シルアお姉ちゃんの言う通り、すっごく気になるよ」


「「ねー」」


 顔がそっくりで、息もぴったり。シルアとシルンは双子なのだろう。

 唯一違うところがあるとすれば髪色だ。姉であるシルアが金髪なのに対し、妹のシルンは銀髪である。

 身長も髪型も似ているので、見分けるポイントが本当に髪色と声ぐらいしかない。


「え?うーん……。知り合いというか、幼馴染というか……。まあ、そんな感じかな」


 そんな二人の質問に、ミリアはこう答えた。少し言葉を濁したのは、先程のラノハの友達ではない発言が尾を引いているのだろう。


「「へー!」」


「じゃあ、近所に住んでたとか?」


「もしかして、隣とか?」


「い、いや……どっちも違うかな……」


「「ええ!?」」


「それでなんで幼馴染なの!?もしかして一緒に住んでるとか!?」


「シルアお姉ちゃん。それは流石にないでしょ」


「いや、まあ、正解なんだけどね……」


「「うそ!?」」


 そう。ラノハとミリアは同じ家に住んでいる。

 十年前のあの時、ラノハを救った男がミリアの父親であり、彼がそのままラノハを引き取ったのだ。

 そんなラノハとミリアの関係は、幼少期からの付き合いではあるが、幼馴染とは言えない……といったところだろうか。

 もっとも、ミリアは何度もラノハと仲良くなろうとしたが、ラノハはそれらすべてを突っぱねて修行に没頭していた。

 ラノハとミリアが同居していることを知った他の生徒たちの反応は、ほぼほぼ二分された。

 一方はラノハに対して妬みや嫉みといった悪感情を、もう一方はミリアに対して好奇な視線を。

 言わなくても分かるだろうが、前者が主に男子生徒、後者が主に女子生徒である。


「「なんで一緒に住んでるの!?なんでなんで!?」」


「それハモるのすごいね……。流石双子……」


「「えへへ。そう?……じゃなくて!」」


「ほらまた……」


「目的地に到着した。私語をやめてくれ」


 セフィターがそう言った事により、生徒たちは足を止めて私語をやめた。

 彼らの前には大きな壁、いや、扉があった。この先に何があるのか。それは、もう全ての生徒が察していた。


「説明は後にする。まず先にこの扉を開けるので、よく見ておくように」


 生徒たちにそう告げたセフィターは、扉の横に設置されているある台状の機械の前に立った。

 その機械は掌の形に凹んでおり、掌を置くようになっていた。

 セフィターはそこに掌を置き、意識を集中する。すると、掌をおいた場所から白い光が発生し、その光が台を伝って扉までいく。扉に描かれている線が全て発光した瞬間、扉がゆっくりと開いていった。


「……よし。では、中に入ろうか」


 セフィターがそう言い、どんどんと開いていっている扉に向かって歩き始めたのを見て、生徒たちもまた、セフィターに続いて歩き始めた。

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