原点編第二話 竜機


「……何でしょう?後ろから何か来てますよ?」


 三台の漆黒の兵器の内、右側の兵器に乗る男が、背後からくるスミーナ国の兵士達に気付き後ろを振り向いた。

 その言葉を聞いて残りの二人が視線を背後に向けると、彼らの目に、スミーナ国の国旗と兵士達が映る。

 すると、左側の兵器に乗る女が溜息を吐いた。


「はぁ……。だいぶ遅かったわね。もっと早く来れたと思うのだけれど」


「よく見ろ。馬が聖装馬ではない。普通の馬だ。あれでは遅くなって当然だろう」


 彼女の問いに、二人の間に位置する漆黒の兵器に乗る男が答える。

 そう言われ、彼女は視線を馬に移した。


「……本当ね。なんで聖装馬じゃないのかしら?絶対に聖装馬に乗ってきたほうが早いというのに」


「さあな……それは分からん。流石に彼らのホーリーエネルギー最大放出量が満たないということはないだろうしな……」


「まぁ、そんなことどうだっていいでしょう。我々は我々の任務を遂行するだけです」


「……そうだな。さぁ……来るぞ」


 男が言うように、スミーナ国の兵士達はすでに漆黒の兵器の目の前まで来ていた。


「お前ら!止まれ!」


 兵士達を率いている彼の声が響く。

 兵士達はその声を聞き、馬を止まらせた。


「聖装銃を構えろ!」


 彼はそう言い背負っていた銃、聖装銃を構え、その銃口を漆黒の兵器に向ける。

 すると、兵士達も彼にならい次々と聖装銃を構え始めた。


「……お前達何者だ!?どこから湧いて出た!?」


 彼は兵士達全員が漆黒の兵器に聖装銃の銃口を向けたことを確認してから、漆黒の兵器に乗る者達に問う。

 彼のその問いに対し、中央の漆黒の兵器に乗る男が表情一つ変えずに口を開いた。


「我々がその問に答える義理はないと思うが?まぁ、この国旗を見ればどこの国の者か分かるだろうがな」


 男はそう言って、自らが乗る漆黒の兵器が持つ銃に記載されているある国旗を、彼ら兵士達に見せつける。

 その国旗はスミーナ国の兵士達にとって、国の歴史を学ぶ際に必ず目にする国旗であった。


「その国旗は……ルマローニ!!では、それはイビルエネルギーを放出し扱う新兵器といったところか……!?」


「察しが良いですね。その通りですよ。これは、竜機、という新兵器です」


「だが、その兵器は並のイビルエネルギー放出で動かせるような大きさではないはず……。一体どうなっているんだ……!?」


「そんなの簡単よ。私達のイビルエネルギーの最大放出量が規格外だからに決まっているでしょう。ま、いわゆる新世代……そうね。第三世代ってところかしら?」


「だっ……第三世代だと……!?」


 彼が驚くのは無理もない。

 なぜなら、ホーリーエネルギーもイビルエネルギーも個人差はあれど、基本的に放出量は平均並なのである。

 スミーナ国にもホーリーエネルギーの最大放出量が常人離れしている人間はいるにはいるが、果たしてここまでの兵器を動かすまでに至るのであろうか。

 彼自身がそうなだけに、否が応でも考えさせられたのだ。


「お前ら、少し話しすぎだぞ。無闇に情報を漏らすな」


「……すみません」


「……まぁ、いいじゃない……。どうせ全員殺すのだから」


「っ!撃てー!」


 彼の号令により、兵士達が持つ聖装銃から漆黒の兵器、竜機に向けてエネルギーを纏った弾が次々と放たれた。

 彼も真ん中の竜機に向けて、エネルギーを纏わせた弾を放つ。

 その放たれたエネルギー弾は、竜機にどんどんと命中し、爆発する。


「……どうだ?」


 兵士達が撃ち終わり、竜機の周りがエネルギー弾が命中したことによる煙で包まれた。

 そして、その煙がどんどんと晴れていく。


「……なっ!?」


 煙が晴れたそこには、何の攻撃も受けていないかのように平然と立っている竜機の姿があった。

 あれだけのエネルギー弾を当てたのにも関わらず、何のダメージもないとは彼らも思わなかったのだろう。

 彼と兵士達は言葉が全く出ず、愕然とした。

 そんな兵士達とは対照的に、竜機に乗る男達はダメージがないのが当然だというように話し始めた。


「……やっぱり全然効きませんね。傷一つありません。イビルエネルギーを竜機全体に纏うことには成功しているようですね」


「そうね。まぁ、相手のホーリーエネルギーが弱すぎることもあるでしょうけど」


「ああ。だが一発だけ、貫かれそうになった弾丸があった。保険として、盾を装備するのもありかもしれん。あくまでも保険、だがな」


 そのような会話を聞いて、自分達の攻撃が全く効かなかった彼と兵士達は、理解してしまった。

 自分達では絶対に敵わない。

 今この場で戦えば、確実に全滅してしまう。

 せめて、少年を逃さなくては。


「……おい。誰かこの子を連れてヴェルラ村に行け。私と残りの兵士が時間を稼ぐ。ヴェルラ村に着いたら避難を呼びかけろ。いいな?」


「……いいえ。隊長、貴方をここで死なせるわけにはいかない。ここは私達に任せて、貴方はこの子を連れて行ってください」


「な!?馬鹿言うな!隊長の俺が残らないでどうする!?隊長だからこそ残らなければならないだろ!」


「……あなたはこれからのこの国に絶対に必要な存在なんです。その若さで隊を率いる統率力も、桁違いのホーリーエネルギーも、必ず」


「だ、だが!」


「いいから行ってください!」


 ある兵士はそう言って、彼の馬の尻を叩いた。

 すると、彼の馬が雄叫びをあげヴェルラ村に向かって駆け出す。


「お、おい!やめろ!止まれ!」


「隊長!!この国の未来を!!家族を!!お願いします!!」


「っ――――!!」


 彼は覚悟を決め、少年を連れて後ろを振り返ることなく馬のスピードを上げる。

 彼がヴェルラ村に急ぎ始めたことを確認し、兵士達は竜機に向き直る。


「お前らの相手は俺達だ!」


「ああ……私達も、当初からその予定だ」


「常に馬を走らせ、馬上から撃ちまくれ!相手に的を絞らせるな!時間を稼げ!」


「「「「おう!」」」」


「行くぞおおおお!!スミーナ国兵士の誇りを見せろおおおお!!」


「「「「うおおおおおおおお!!」」」」


 兵士達は雄叫びをあげ、自らの役目を全うするために散らばる。

 兵士達は勇敢にも、彼と少年が逃げる時間を少しでも作るため、果敢に竜機に立ち向かっていった。

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