第2話ー少年との攻防ー
少年はじっとこちらを凝視している。
まぁ、何の為に此処に来たのかは分かっている。
「この通行書が欲しいのか」
こちらが問うと、
「といっても欲しいのは完成した後のやつだけど、ね」
と、少年は答える。
さて、どうしたものか。
「出て行ってくれないかな、集中出来ない。もちろん出来た物を渡す気は無いけどね」
「ふうん、でもこのまま待つけどね」
少年は壁に寄りかかってくつろいでいる。
やりにくいっ。
しかし少年は出て行くつもりも無いのでこのまま続け流しかなかった。
とりあえず作業に集中しなければ。
意識を紙に集中する。
左手の指先に負荷をかける感じで。
それを手のひらに少しずつ移動させる。
少しずつ、ほんの一欠片ずつ。
それを指先の魔力が紙の様に極薄になるまで続ける。
その次に薄くした魔力の流れを今度は糸の様に細くする。
慎重に。
「ふう、ここまではなんとか出来た。ここからが大変だ」
少年が邪魔をしてこないのが幸いしてここまでは順調だ。完成したらちょっかいをかけて来るだろうが。
一息つくと作業に戻る。
糸状にした魔力を通行書に縫い付けるのだ。
裁縫はあまり得意ではないんだけどな。
と思いながらも意識は指先に。
紙に宿っている微かな流れに沿って縫っていく。
慎重に、更に慎重に。
汗を拭う。いつの間にか時間が結構経ってしまった様だ。
少年を見るとウトウトとしていたが油断は出来ない。
少しずつ移動して扉に手を置いたとき、バチっと弾かれた。
「このまま行かせると思った?」
少年の声がした。
顔を向けると、腕を組んでニヤリと笑っていた。
「ちっ」
ローグは舌打ちすると、懐の紙束から紙を二枚取り出し指に挟んだ。
それに魔力を走らせる。
「駄目だよ」
少年は言うと、電撃を繰り出してくる。
「くっ」
一枚を防御に回し、もう片方で攻撃する!
ヒュッ、
しかし少年は攻撃をヒラリとかわし、笑みを浮かべた。
「それじゃ、全然、ぜーんぜん駄目だよ」
まだまだ相手の攻撃は続く。
相手の電撃はこちらの攻撃。
まるでワルツでも踊っているかの如く僕達は互いに急所を探して舞っていた。
しかしこの少年、強いな。
電撃を蓮撃してくるのを、躱したり紙の束で防ぐ。
が、一撃一撃が重い。これをこんな少年が?
一瞬ふと思考したのがいけなかった。
少年は先程よりも倍以上の攻撃をここぞとばかり十撃と呼べる物量で繰り出してきたのだ。
紙の束から紙を大量に出したが完全には間に合わない。
ズババババ。
衣服は所々破れ肌には焦げた嫌な匂いが。
「回復した方がいいんじゃない」
そう少年は提案したが、こちらが治しているうちに取られたら堪らない。
通行書を懐に入れて紙を傷の上に被せる。
これでしばらくは大丈夫か。
と思った瞬間、
身体が動かない?
目だけ動かして視線を少年に向けると、
「やっと効いてきたみたいだね。まあ、こっちもなるべく被害が少ない方が良いからさ」
と言いながらこちらへ来て、通行書を取り上げられてしまった。
「じゃ用が済んだから僕は行くよ、ああ、しばらくすれば動ける様になるから大丈夫だよ」
と言って去っていった。
少し経ってから少年の言葉どおり僅かではあるが動けるようになった。
全身を調べると小さな針が数本刺さっていた。
これが動けなくなった原因か。
おそらく電撃に合わせて放ったのだろう。大量の電撃は食らってくれれば良し、防いでもそれを目くらましにして針で身体を止める算段だったのだ。
やられた。
実力もかなりあった。
まだ小さな少年が。
あれはベルナンドと同じぐらいか。
ふと思いベルナンド達が何故か応援に来ないのか不思議に思った。
地下だとはいえすぐそばなのだから気づいても良さそうなのに。
ふと嫌な予感がしてまだふらつく身体を踏ん張って通路を戻る。
リビングに着いた。
仲間達はソファーなどでで休んでいた。
しかし衣服や家具などに戦闘の痕跡が見受けられた。
「こちらも敵の襲来があったのですね」
「ああ、途中で帰っちまったけどな」
とアラビスがいうと、ベルナンドが、
「まあ、敵さんは、僕等がローグに加勢しないようにしてただけだけどね。だからこちらの被害も余り無かったのさ」
と、そこまで無言だったエイシャが涙目でこちらに駆け寄って来た。
「ローグ様ぁ、ずいまぜん、お助け出来なくて。本当にごめんなさいぃ」
「いや、いいよ。お互い無事だったんだからさ」
後はすみませんすみませんとエイシャが謝るばかり。
「しかし、手痛い反撃も出来ただろうに、なぜやらなかったんだベルナンド?」
「そうだよ、だから私達はただ連中に捕まってたたけなんだけど、どうして?」
アラビスとユリアンにそう聞かれてベルナンドは、
「ローグ、魔力のパスはまだ繋がってるかい?」
「あ、はい。用心の為に繋げてあります。僅かな量なのではっきり調べないと気付かないと思いますが」
「よし。ローグがそうするだろうと思ってこちらは攻撃を防ぐだけに徹したのさ。さあその痕跡を追うとしようか。まあ、部屋の片づけが先かな」
「今すぐ行かないのですか?」
と問われるとベルナンドはニヤリと笑って
「だって、敵さんが謎の目的地に着くまで気付かれない様に追わないとならないからね。少し離れておいた方がいいのさ。ローグ、パスがギリギリ、とまではいかないけれど、ある程度になったら知らせてくれ。奴等を追おう」
「はい、分かりました。でもまぁ部屋の片づけが先ですね」
ははは、とやっと笑い声が出てきた。
今は少し休んで英気を養い、
さあ、敵を追うとしようか。
ーー>続く
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