第35話 天気晴朗なれども波高し

 次の日大野がお土産の肉加工品をトランクに積載し出て行った後。

 戦いは始まった。

 〇 使用できる服装の確認と用意

 〇 来客用に使える什器等の確認

   特に記者会見に使えそうな物とパーティに使えそうなものを中心に

 〇 食料備蓄の確認。特に向こうの世界の特産品になりそうなものの確認

 〇 城1階の大スペース数区画の確認と簡単な整備

 〇 かつて街の住民管理用に使っていた事務スペースの整理とテーブル等運び込み

 〇 県道から城へ続く道の整備(夜間に魔法を使用)

等である。

 全て真司の指示だ。

 真司に言わせると、県庁からの部隊がうまく動くためには最低限この程度の準備が必要との事である。

 ちなみに稼働可能人員は非常に少ない。

 基本は真司、五月、ユーエン、そしてマーロンの4人。

 場合によっては城で管理作業をしている6人の誰かがマーロンと交代して作業。

 他にある程度時間同期が取れている元村人6人が手伝ってはくれる。

 でも彼らはまだ時間の流れが完全に同期していないので作業速度はかなり遅いうえ単純作業しか期待できない。

 完全に人手不足だ。


 ただこの城は魔法が使える。

 什器類の確認と数え上げとかは流石に魔法では無理。

 だが大規模空間の掃除や土地整備等にはかなり役立つ。

 例えば1階の掃除。

  ○ 都合1000坪以上という巨大スペースに70坪程度が9区画

  ○ 幅3~4メートルの廊下総延長約250メートル

  ○ 事務スペース30坪強2区画

  ○ 吹き抜け80坪

 普通この人数での掃除は絶対出来ない広さだ。

 それをマーロンと交代してきた温和そうな小柄な中年女性が、全区画の清掃をほぼ30分でやってのけた。

 ユーエンの解説によると彼女は炎の上級魔法を使ったそうだ。

 何でも『選択したものだけを超高熱で燃やし尽くす』という魔法だそうである。

 つまり壊れた木箱とか紙ごみから埃とかチリ一つに至るまで、ごみと認定した物全てを燃やし尽くした訳だ。

 木製の物や布ほこり等炭素系の物など燃焼して気体になるものは全て気体になる。

 燃焼しても個体のままのものはガラス質の直径1センチ位の球状の塊へ。

 たまにその球を集めて遊んでいる子供もいたということだが、それを聞いた真司は一瞬慄然とした。

「何千度で燃やしているんだ……」

 ちなみに交代で戻ってきて掃除部分の換気を風操作で行ったマーロンによると、『この街で一番怒らせてはいけない人間の1人』だそうである。

 なお彼女を頂点に四天王がいるらしい。

 でもそれ以上はマーロンが命に係わるからと話を拒否した。

 まあそれはとにかくとして。


 他にもこの城の電気系統を調べて交流100V50ヘルツを取り出す準備もした。

 幸いその辺は魔法で何とかなるらしい。

 他にも真司はユーエンかマーロンを助手に城のあちこちを廻っていた。

 内容は細かく五月にはわからないけれど確認したりメモをとったり。

 そんな長く疲れる一日を終えた後、ユーエンの部屋。

「やっぱり無理していますよね」

「同意」

 ユーエンの問いかけに五月は頷く。

 勿論議題は真司の事だ。

 今日行ったのは確かに必要な作業だしそれなりに急ぐものだったのだろう。

 そしてそれを判断出来て指示できるのが真司だったのもわかる。

 勿論普通なら一介の引きこもりニートの知識ではない。

 でも真司は元々博学だし頭もかなり良い方だ。

 依頼を受けてから今までにも色々調べたり考えたりしていたのだろう。

 だからそれが出来るのは理解できる。

 でも。


「何かこう、変な感じでしたよね」

「言葉を飾る必要は無い。後顧の憂いを残さないための措置。違うか」

「そうですね、その通りです。表層思考にもはっきり出ています」

「大丈夫。させない」

 五月はそう言って一息ついて、続ける。

「シンジが何か目標なり目的があってここを出ていくなら私は受け入れる。もしここが嫌になって出ていくのならそれも私は受け入れる。でも真司が今思っているのは違う。ならば私は抗う」

「私もです」

 ユーエンは五月に頷いて見せる。

「シンジは自分が必要な間はここから逃げない。だから最低火曜日応援部隊が来て打ち合わせをするまでは大丈夫。だから今日は大丈夫だ」

「そうですね」

「私はシンジほど頭が良くない。でも今はまだユーエンも無理する必要は無い。今日は疲れた。早く寝た方がいい」

「そうですね。では今日最後のお願い事を」

「シンジの話か」

「ええ」

「あらかた実際に会ってからの話はした。だから今日はゲーム内での話だ。

 どんなゲームかというと……」

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