第1部 第4章(上) 加速

第26話 作戦会議

 サンドイッチを食べた後。

 五月のパソコンで富●商店とカルデ●の通信販売のページを開いて、結構な額の食品を注文する。


 そして4日後。

 五月と真司は再び城に向かっていた。

 2回目のオーク引き渡しと今後の相談のためである。

 真司は今回も目いっぱいに荷物を詰め込んだ巨大アタックザックを背負っている。

 今回はコンパクトで重量級の中身が多い。

 ちなみに全部食材だ。

 パン用小麦粉、天然酵母ベース、岩塩、香辛料色々、ワイン、バター、チーズ、オリーブオイル、紅茶等々。

 別に依頼があったわけではない。

 単なる五月のおせっかいである。

 これだけやるから美味いモノよこせという訳では……

 無い訳でもないかもしれない。


 それより問題は……真司は思う。

 ゴブリン掃討以外の、もう一つの依頼の方。

 親書送達である。

 あれから何度か五月と検討して受けることは決めていた。

 いくつか作戦も考えた。

 ただどれが一番効果的か社会経験のない真司と五月では判断できなかった。

 それに不確定要素もある。

 そこでユーエンらに今日、それらについて相談するつもりだった。

 荷物が重いので毛無山山頂方向ではなく県道を城の方向へ。

 二つ目のカーブ手前で回りを確認する。

 他人の気配が無いことを確認して例のペンダントの石の部分を押す。


 押して30秒ほどでいつもの黒ずくめ姿のユーエンが現れた。

「おはようございます。今日はどうしますか。このままオークを持って帰るなら用意しますが」

「ちょっと相談したいことがあって。あと五月から渡したい荷物があるようだし」

「では城ですね」

 その言葉と同時にあたりの風景がぼやけ変化し始める。

 あっという間にこの前の会議室だ。

 真司はとりあえず背負っていた大荷物を下ろす。

 五月がだだっと荷物を仕分けし始める。

「これがユーエンさん宛。紅茶はとりあえず3種類お勧め入れておいた。後は乳製品が無さそうだからチーズ3種類。他におまけのクラッカー、オリーブ油。

 で後の塩と小麦粉と香辛料は」


「俺のかい」

 ふっとドアが音もなく開いて見知った顔が現れる。

「相変わらず地獄耳ですね」

「この城人気ひとけが無いからな」

 マーロンはひょいひょいっという感じでテーブルに近づくと品定めを始める。

「お、小麦粉。この5年で在庫なくなったからありがたいね」

「この国の寒冷地で栽培された準強力粉。発酵に時間をかけた硬いパンに適しているって説明にあったけれど」

「ハムに合わせる用か、いいね。この塩は」

「どんな種類がいいか分からなかったから見本用。一応ハムソーセージに適しているといわれている物を揃えてみた。香辛料も同じ」

「成程、あとで試してみよう」

「必要な銘柄が分かったら教えて。代金はまた肉加工品と物々交換で」

「了解した」

 完全に五月が材料販売仲買人になっている。

 まあ彼女の場合は商売のつもりではなく美味い肉が食べたいだけだろう。

 そう思っている真司も事実上の共犯だ。

 肉30キロ弱を持ち帰ったあの日以降毎日ハムやベーコン等に世話になっている。

 最近は朝食と夕食は五月の部屋で一緒に食べているのだ。

 五月が例の肉類で作る料理は、売店で売っている安い弁当より遥かに美味しい。

 生ハムをパンに乗せてオリーブオイル掛けただけとか、パンチェッタ炒めて太めのパスタに油で和えるだけとか簡単な料理が多いのだが、何故か組み合わせが絶妙なのだ。

 引きこもりの癖に何でそんなに料理に詳しいのかは真司は知らない。

 まあ見た目は相変わらずワイルドな男の料理なのだが。


 五月とマーロンが話しているうちにユーエンがお茶セットを用意してきた。

 前と多分違う紅茶だが、真司には高価そうな香りのする紅茶としか分からない。

 まあ地球産ではないだろうけれど。

 五月とマーロンも一通り終わったのだろうか。

 こっちに来て席に着いた。

 とりあえず紅茶を一杯やって一息つく。

 マーロンが土産の地元特産ワインを物欲しそうな目で見ているような気がする。

 でもここで気にしてはいけない。


 さてと。

 ここからが本題だ。

 真司は一息ついて、それから口を開く。

「今日は相談が1件。親書の件です」

 真司は結構緊張している。

 何せ元ひきこもり。

 見知った仲間内でも意思を持って会話をするのは苦手だ。

「前にも申し上げたと思いますが、受けても受けなくても構いませんし、結果がどうなってもあなたに責任はありません。だからもっと気軽に考えてもらって結構です」

 拒絶のようにも聞こえるが真司には分かっている。これでも助け舟なのだ。単に助け舟の船頭の経験値が足りないだけで。


 だから真司は続ける。

「どうせ勝負に出るなら、勝率は出来るだけ上げておきたいので」

「相談内容は?」

 珍しく真面目な顔でマーロンが問いかける。

 何か言いかけるユーエンを彼は手で制して続ける。

「相手の気を楽にしようと思って言っているんだろうけれども無意味だ。シンジはもう覚悟を決めている。だからここで必要なのは受けてくれたことに対する礼と、勝率を上げるための相談と方策だ。違うか、ユーちゃん」

 マーロンはやっぱり駄目で悪いけれど有能な大人だ。


「それに青年、気張るのは悪くないが独りで背負い過ぎるのも良くない。分担できるところは押し付けてでも仲間に背負わせればいいし、楽できるところは意識して楽しろ。頭をあげる余裕が無ければ周りが見えなくなるし結果つまらないところで躓いてしまったりする。実のところ多少過程が違ったところで辿り着くところなんぞそんなに変わりやしないしな」

「それでも、それは全力を投じない理由にはならない。違いますか」

 マーロンはにやりと笑った。

「シンジ君を見つけてこの依頼をしたという点については、ユーちゃんにも合格点をやろう。ただ気張り過ぎるなよと一応最年長者だから言っておく」

「ありがとうございます」

「で、相談内容は何だ」

 完全にマーロンが主になっているが一応補佐官だしいいだろう。


 それでもあくまでユーエンに向けて真司は口を開く。

「実はこの件で協力をおねがいしたい人がいます。もともと僕はこのあたりの出身ではないし、知り合いも決して多くはありません。それにその協力者にしたい人は割に最近知り合ったばかりの人で、親交もある訳ではありません。話は聞いてくれるとは思いますが」

 真司はそこで一息つく。

 大丈夫、この先言うべきことの整理は既につけてある。

「だからユーエンさんに相談というかお願いです。これから僕は、いくつかの案を出します。それを魔眼で見て、より勝率が高い方を選んでください」

「それはかまいませんが、案って何ですか」

「具体的な選択肢と選別条件はこれから出します」

 真司はアタックザック背面付近から何枚か紙片を取り出す。

 頭の中と紙片の一枚に印字されたメモを確認する。

 大丈夫、手順と内容は何回も試行しておぼえている。

「まずは第一の設問。僕がこの件をこの協力者に相談するかどうかです」

 真司は用意していた紙片を二枚取り出し机の上に並べる。

 紙片にはそれぞれ『相談する』、『相談しない』と書かれている。


「相談することでこの城が将来どうなるかが結果で、判断条件は僕です。僕自身がユーエンさんにどれだけ結果を誇れるか。それを絶対的な条件として選んでください」

 ユーエンは驚いて、頷いて、そして真剣な目をして紙片2枚を見る。

「こっち、ね」


「相談するですね。了解です。続いて第二の選択肢。この協力者にどこまで明かしてどこまで協力してもらうかについてです」

 真司は次の紙片を用意する。

「簡単な内容だけを話して親書を渡すべき相手もしくは仲介者の紹介だけをお願いする。これが1つ目。

 会ってきっちり今の状態を全部話して、そのうえで親書をどうするべきか手段込みで相談する。これが2つ目です」

 真司は紙片を2枚並べる。『簡単に説明』と『全部説明』だ。

「選択条件は先程と同じ、この城の将来結果に対して僕自身がユーエンさんにどこまで誇れるか。お願いします」

 ユーエンは紙片を真剣な目で睨み、1枚を選ぶ。

 『全部説明』の紙片だ。

 真司はふうっ、と息をつく。

「これで当座の方針が決まりました。目星をつけている協力者に詳しく説明をして、どうするかを含めて相談する。判断ありがとうございます」


「これで終わりか」

 マーロンがにやりと笑う。

 何か企んでいるような、つまりは例の駄目で悪いが有能な大人の笑顔だ。

 この状況で企むべき何かがあるとは真司には予想付かないが、いやな予感はする。

「そのつもりですけれど」

「いや何、ケチをつけるつもりじゃない。むしろ全面的に評価しているんだ。容赦なく逃げ場がない魔眼の使用方法にもな。

 だからちょっと、余計なお節介兼ねて余興をひとつ。

 マーロンはそう言うと今まで使った紙片を手に取り、裏にしてなにやら書き込む。

 そうして並べた紙片は四枚。

 それぞれの内容は、『シンジ』、『シンジ、サツキ』、『シンジ、ユーエン』、『シンジ、サツキ、ユーエン』だ。

「さっきのシンジの質問形式はなかなか秀逸だと思うので真似させてもらおう。選ぶべきは協力者に相談に行く人選だ。それぞれシンジ単独、シンジとサツキ、シンジとユーエン、シンジとサツキとユーエンの3人で行くの四択。選択条件は先程と同じシンジの満足度のみ。さてユーちゃん、魔眼の答はどれになる」

 ユーエンはため息をつき、それから真剣に4枚を見比べ、ちょっと迷って1枚を取り出す。

 3人の名前が書かれた紙片だ。


「ちょっと迷ったな」

「結果だけを考えると微妙に悩む選択肢がありました。でもシンジの満足度という条件を明確にした結果はこっちです」

「という事だ。諦めて分担できるところは分担しろ。あとあらかじめ言っておくが俺は行かないからな。そんな面倒なことしたくない」

 マーロンにしてやられた気分だ。

 真司はそれでも悪い気はしない。

 

 その後、行政にどのような条件を求めるのかとか、現状での日本の難民認定とか細かい条件をちまちま詰めていったら、いつの間にか夕方になっていた。

 まあ条件そのものは前の世界を脱出前に既に何度も話し合って詰めていたようではあるが。

 とりあえず城の住人については、難民に準じて国の保護を求めたい。

 城については、住民の当座の生活拠点としたいし生産や物品販売の拠点にもなるので手元に残したい。

 魔法を含めた技術については、調査をすることは基本的には許可をしたい。

 ただ権利が独占されて使用不能になると困るし将来的に他の城との関係もあるので異世界民については使用可能なことを前提に考えたい。

 そういったところだ。

 あとは……

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