第22話 城内掃討戦

 ゆっくり1階への階段を下りる。

 ここから危険地帯だ。

 早速ゴブリン3匹がこっちに向かってくる。

 階段の下にいたようだ。

 先頭を歩くユーエンと真司のM4CRW改がBB弾をばらまき3匹を秒殺。

 倒れたゴブリンは血しぶきを上げることなく存在が次第に薄くなり消えていく。

 まだ生成されたばかりで存在が定着していないからだとのことだ。

 追撃はない。


 4人はゆっくり階段を下りきった。

 現在地は城の正面から見て左手前側の階段。

 階段は四方の隅と中央の5か所ずつ設置してあり、通常は1階から2階への階段の全てを魔法で閉鎖しているらしい。

 そうすれば万が一ゴブリンが大量発生しても、外へ出ていき居住空間は荒らされないからだそうだ。

 その万が一が起こってしまったのがこの前のゴブリン侵攻という訳だろう。


 1階の照明は点いていない。

 でも吹き抜けとなっている中庭と窓のおかげで暗くはない。

「ここから右回りで回っていきましょう。隊列はどうします」

「ここの廊下が幅3メートル、メインの廊下幅が4メートルなら、前3人で後ろで周辺警戒兼支援が1人。いざという時風操作で敵を阻止できるマーロンさんか移動魔法で逃げ出せるユーエンさんが後衛の方がいいと思うけど」

「ならばマーロンが後ろの方がいいでしょう」

 とのことで、右を五月、左をユーエン、中央を真司という形で進む。

 ちなみに武装は、五月がいつものPS90HC改、ユーエンとマーロンがM4CRW改の短い方、真司がいつもの中華AKではなくM4CRW改の長い方だ。

 真司が中華AKではなくM4CRW改を使う理由は簡単。

 こっちの方が連射速度が速い分威力があるからだ。

 特に狭い場所で多数を相手にする場合、このメリットは大きい。


 ちなみにユーエンとマーロンが短い方を選んだのは、単純にこっちの方が使いやすいと思ったからとのことである。

 特にレーザーサイトの評判が良かった。

 マーロンによれば、レーザーの光点と弾着にある程度の誤差が生じるのも当然で気にならないとのことだ。彼はかつて鉄砲を使っていたらしい。それに比べれば、威力こそ大したことは無いが軽くて連射きいて命中率もいいし、なんと言っても結界内で使用できるのがありがたいとのこと。

 ちなみに弾倉はユーエンとマーロンが900発仕様を、真司が300発仕様を装填。

 他に予備弾倉がM4用900発仕様2個、M4用300発仕様3個が真司のポーチに入っている。

 これはハイサイクル仕様だと慣れないうちはヒャッハーしてあっという間に弾を打ち尽くしてしまう可能性があるからだ。

 まああんまりヒャッハーしたら普通は普通はモーターが焼き切れるかバッテリーがご臨終してしまうけど。

 例外はモーターにヒートシンク付けて更にペルチェ素子付けて強制的に排熱するという何かもう間違った改造までしている五月のPS90HCくらいだ。


 最初に真司が思っていたよりもゴブリンの数は少ない。

 この前の侵略でかなりの数が出て行ったせいだろうとユーエンはいう。

 ゴブリンは本能として人間に対して攻撃的なので、より積極的な選択肢があれば基本そっちを選ぶとのことだ。 

 また待ち伏せ等を行うこともまずないらしい。

 基本、人間への攻撃衝動だけで生きているそうだ。

 まあゴブリンメイジやゴブリンリーダー等の上位種の場合は必ずしもそうではないらしいので、気を抜くわけにもいかないのだが。

 真司がそんな事を考えていると明らかに自分たちで無い足音が聞こえた。

 1階内にいるゴブリンがこっちに気づいて向かってくるのだ。

 幸いここは階段が後ろにあるだけなので背後から襲われる心配はない。

 廊下の幅も3メートル程度で両側が壁。

 とにかく前だけに注意していれば大丈夫だ。

 3人で見えたゴブリンに対して連射する。

 続々出てくるからとにかく連射する。

 距離は10メートル弱でかなり近いが、その分BB弾の威力も減衰せずに届く。

 それに侵攻の時ほどの数はいない。

 1分弱の戦闘でゴブリンは屍体の山となり沈黙した。

 その屍体の山も既に半ば存在が薄れ始めている。


「この武器エアガン、便利ですね。何か癖になりそうです」

「あまり連射すると壊れるからせめて10秒に1秒は、というか本当は5秒撃ったら5秒休む位を心がけてください。モーターとバッテリーが過熱で壊れます」

「メイはずっと連射していたようですけれど」

「あれは独自部品を使った異常仕様だから。一緒にしない方がいいです」

「ちなみにこの世界では、連射で相手を殲滅する時は『汚物は消毒だ~!』と叫ぶのが約束事」

「メイ頼むから変な慣習教えるな。ユーエンさん本気にしないで」

 何か変な空気になっている。

 後ろでニコニコ3人を見ているマーロンが唯一の救いだろうか。

 マーロンと一時的に前衛を後退してもらい、真司はフォローに回る。

 まずは取り合えず連射しまくったユーエンの弾倉を交換。

 1500発をあっさり撃ち尽くした五月のPS90HC改を取り上げ代わりに弾倉交換済みの真司のM4CRW改を渡す。

 そして、PS90HC改のボックスマガジンにBB弾を給弾し、ユーエンから交換した弾倉にもBB弾補充。

 900発弾倉も残弾はわずかだったようだ。

 これがサバゲーだったら何日分なんだろうな、と真司は思わず考えてしまう。

 もちろん威力が無い弾でも1発でも被弾すれば終了のサバゲーと、とにかく相手を物理的生理的に倒さないとこっちが危険な討伐とではかなり条件が違うのだが。

 ちなみに真司の300発弾倉はまだ残弾が結構残っていた。

 まあ真司は生まれついての貧乏性なのでしょうがない。


 真司が五月にPS90HC改を返しマーロンと前衛を交代。

 一行は再び前進を始めた。

 ただ今ので1階の敵はほとんど壊滅したようだ。

 ゴブリンは出てこない。

 建物の造りは豪華なショッピングモールの一部のような造りだ。

 中央に中庭がありその両側に広めの通路。

 その外側に今はがらんとした空きスペースが左側5か所、右側4か所並んでいる。

 ひとつひとつのスペースもかなり広い。

 1つのスペースだけで標準的なコンビニなら2軒分はあるだろう。

「ここはもとは共用スペース、店や病院や集会所等があったところです。20年前は街道の結節点にあって結構賑わっていたんですけどね。脱出寸前にはもう半分も使っていませんでした」

 ユーエンが懐かしそうに言う。


 え、待てよ。

 真司は気づく。

 って20年前って言ったよね。

「ユーエンさんって何歳なんですか?」

「えっ」

 ユーエンが不意に絶句する。

 明らかに動揺しているのが目で見てとれる。

 ん、僕いま地雷踏んだ?

 別に悪くないよね年齢聞いただけだよね。

 自分で自分を弁護しつつ真司は五月とユーエンを交互に見る。

「真司、女の子に年齢聞くのは反則!」

 そういう問題だろうか、シンジにはわからない。


 後ろで苦笑の気配がした。

「ああいう世界だから個人ごとの正確な時間経過は数えられないけど、概して元の世界の方が寿命が長いな」

 マーロンが助け舟を出してくれたようだ。

「この世界は寿命が80歳前後らしいがこっちは200歳以上もザラだ。大体寿命が2倍以上3倍未満といったところだな。

 ちなみに外見は50歳程度で成人となり100歳超えればほぼ中年、150歳を過ぎればさすがに年は隠せないという感じになる。

 さてそこでだ」


 ふと真司はいやな予感がした。

 マーロンの方をちらりと見る。

 彼はにやにや笑っていた。

 この笑い方は何となくわかる。悪い大人の悪い微笑みだ。

「知っての通り元いた世界は空間が歪んでいる。時間経過も場所によって違うし、移動すればさらに変わる。よって同時に生まれたとしても必ずしも同じ長さの時間を過ごしたとは限らない。つまり個人固有時間での年齢とはかなりの個人情報な訳だ。そこまでが前提条件で」

 あ、この説明のわざとらしさは完全にますい前振りだ。

 真司は観念する。

 ユーエンは更に同様というか挙動不審な感じになっている。

 手と足がちぐはぐに動いているし目も泳いでいる状態だ。


「向こうの世界では『君の事を知りたい』という意味の定番のプロポーズの言葉だったりする訳だ。相手の年齢を聞くのは」

 ちゅどーん、と爆弾が落ちた。

 真司は頭をかかえたいが頭を抱えるわけにも逃げるわけにもいかない。

 何せ今は掃討戦実施中、敵地の真っ只中なのだ。

 もっともこっちの戦いも敵地の真っ只中のようだが。


「いやあ叔父さん、ユーちゃんにやっと春が来たかとおもうと嬉しいよ」

「シンジ頑張れ。私は愛人1号でいい」

「何かこの前からいきなり楽しそうになったり落ち込んだり感情豊かになって、ああもうユーちゃんもやっとそういう時期迎えたんだなねと」

「愛人だから1号でなく2号か」

 何もかも全くかみ合っていない。

 誰もかみ合っていない。

 勘弁してくれと!

 さすがに真司も匙を投げかけた時だ。

 不意にマーロンが視線を前にやる。

 空気が変わる。

 軽く何かを唱えた気配。

 床に何かが落ちる音と同時にカタカタカタと聞き慣れた音が響く。

 同時にマーロンがM4CRW改を連射したのだ。

 レーザーサイトの赤い点が醜い小柄な姿を捉えている。

 次の瞬間それは倒れて動きを止めた。

 ゴブリン上位種の弓での攻撃と、それを察知して風操作で矢を落とした上でのエアガンのカウンター射撃。

 真司が気付いたのは全て終わった後だった。


「いやあ誘い出し成功。油断したふりすれば出てくるかなと思ったら案の定。やはり上位種といってもゴブリンだな」

 単なる誘い出しのネタかい!

 真司は猛然と突っ込みたい気分にとらわれる。

 出来ればマシンガン一斉掃射込みで。

 そんな真司とユーエンの視線をさらりと受け止めてマーロンの口元が笑う。

「もちろん補佐役としてこんなおいしい機会も逃すつもりはない」

 あ、駄目だ。こいつ多分有能で駄目で悪い大人だ。

 真司はそう思うが既に手遅れだった。

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