第20話 真司の異常な愛情 またはいかにして私は心配するのをやめ、エアガンを……(略)その2

 5人用の応接セットに大型テレビがある。

 それでも狭く感じない程度に広い部屋。

 全開にされた掃き出し窓からは青空と山並み、立てば魔王城まで見える。

 入り口側にはトイレと洗面所&浴室へのドア。

 簡単なキッチンもあるし冷蔵庫も400リットル位のが置いてある。

 後はふすま状のパーテーションの向こうに寝室があるらしい。

 真司の狭い部屋とえらい違いだ。


 割と大きい応接テーブルの上に新聞紙を敷きエアガン5丁が並んでいる。

 その前で真司が工具を操っていた。

 どうやら彼はとてもご機嫌な様子だ。

 部屋に入った当初は女の子の部屋に入るという緊張を隠すのに必死だった姿は、メカいじりの前に飛散した。

 今やっているのはマルイの3000モーターからピニオンギアを抜き取る作業。

 今回はマルイの純正ギアボックスをそのまま使うので、相性のいいマルイ純正のピニオンギアをA2モーターに移植するのだ。


 真司は何やら大掛かりな工具を操作している。

「そんな工具、誰でも持ってるの?」

「サバゲーする人なら」

 もちろん嘘だ。

 ピニオンギアリムーバーなど専門店かごく一部のマニアしか持っていない。

 ただとにかく真司はご機嫌だ。

 鼻歌までフンフン聞こえてくる。

 ちなみに真司は音痴なので何の曲か本人以外誰にも分らない。


 真司は抜いたギアにスプレーをかけたリ、もう一つのモーターを部分的に分解したりしている。

「何をしてるの?」

「脱脂してグリス塗りなおしている。これだけでも結構持ちやパワー感が変わる」

 そう言って筆でグリスをちまちま塗る。

「日本製のエアガンなら基本的には大丈夫なんだけどね。それでも少しでも摩擦なんかの損失ロスを減らせばその分能力パワーあがるし耐久性も上がる。組み付けと潤滑グリスワークだけでも大分変わるからさ」

 見るとグリスも三種類くらい使い分けている。


 五月は趣味の世界に行ってしまった真司をぼーっと見ている。

 一応紅茶を淹れて出してあるが真司は気づいてさえいないようだ。

 楽しそうなのはいいのだけれど五月は暇だ。

 手伝おうとしても邪魔になるだけだろう。

 五月はノートパソコンを隣りの部屋から持って来て、ソファーの肘掛に置いてブラウジングを始める。

 五月はお気に入りのサイトをほぼ一周。

 ついでに通販で2点買い物をしてしまった頃。

 ようやく5丁の銃が完成形でテーブルに並んだ。

 1丁は五月のPS90HC改で、残り4丁はユーエンに渡す予定のM4CRW改。

 M4CRW改のうち2丁は五月のPS90HC改と同じような短い形。

 残り2丁は真司の中華AK程ではないけど長い形だ。


「これで完成?」

「あとは威力を測定してHOPとサイト調整を外ですれば完成」

「HOPって?」

「エアガンの弾を回転させて真っすぐ飛ぶようにする装置。ところで使っていない毛布ない。あれば貸してほしいけど」

「ん、分かった」

 五月はパーテーションの一部を開いて寝室に入り、毛布を取ってくる。

「これでいい?」

「ありがとう」

 真司はソファーの肘掛に毛布を折って重ねて掛け、その前に脚付きの装置を置く。

「それは?」

「弾速測定器。これでゴブリンを倒せるパワーが無ければ部品を変えて組み直し。まあ大丈夫だと思うけれど」

 まずは五月のPS90HC改を取り出す。

 銀メッキ仕様のBB弾を装填して連射。

「うーん、198m/sか。前より8m/s落ちたけど充分かな。秒あたり25発出てるし」

 ちなみに再改造後でも銃刀法制限値の約6倍以上の威力である。

 それでいてマルイ純正ハイサイクルと同等の連射速度。

 相変わらず異常な仕様だ。

 次にM4CRW改の長い方を測定する。

「これだと201m/sか。思ったより効率いいな。秒あたり19発だけど充分だろ」

 耐久性と部品交換性を考えPS90HC改ほど内部を大幅にはいじっていない。

 その割には結構強力な数値になっている。

 真司はもう1丁の同仕様のM4CRW改も測定。

 弾速はコンマ以下の違いだった。

 作動音も割と静かで異音は聞こえない。

 組み付けも良好なようだ。


 最後に短い方のM4CRW改を測定。194m/sで秒あたり20発。

 これも2丁とも差はほとんどない。

「とするとあとは調整だけで大丈夫か」

「調整は今日のうち? それとも明日?」

「明日の天気どうだっけ?」

 五月はノートパソコンで調べる。

「曇りで午後一時雨、降水確率50パー」

「なら今日のうちにやっておこう」

 真司はPS90HC改を五月に渡し残り4丁を持とうとする。

「1丁は持つ」

「ありがと。ところで着替える必要あるか」

「今日は戦闘しないつもりだし、そのままでいいよ」

 真司はいつもの中華BDUのままだけれど。

 

「まずは真っ直ぐに飛ぶ調整をしてと」

 真司と五月がエアガンの調整にやって来たのは、この前ゴブリンの侵攻を食い止めた県道だった。

 なにせ山の中。

 開けた直線なんて場所はバスターミナル周辺を除くとここ位しかない。

 同じ県道でも高山村側ならバスやタクシーや公用車が通ることもある。

 でも魔城側はまず車は来ない。

 人もほとんど来ない。

 強いて言えばオーク狩りの隊列パーティが通ることがある位だ。

 それに崖側がコンクリで土留めをされていて、内部にたまった水の放出口が水平にほぼ10メートル間隔で並んでいる。

 これが目印になるので銃の調整にちょうどいい。


 真司はまずはPS90HC改を構える。

「これは前に調整してあるからそんなに狂いはしていないだろうけれど」

 連射してみる。

 弾の軌道は100メートル先で落ち込む感じ。

 もう少しHOPを強めにしても距離は変わらない。

 なら若干弱め、素直な軌道を描いてくれた方が色々狙いやすい。

 サバゲーと違って弾が当れば勝利なのではない。

 ある程度威力のあるうちに当たらなければ意味は無いのだ。

 実質的な最長射程はせいぜい60メートル位だろう。

 前にここで侵攻してくるゴブリンを食い止めた時もそんな感じだった。


 次に弾道を見ながらサイトを合わせていく。

 PS90HC改は以前に合わせた時と同じ状態にしてあるから実際はほとんど狂っていない。

 少なくとも左右方向と100メートル先の上下方向はOKだ。

 今度は10メートル先の放出口を狙う。

 ちょっと上に飛ぶ感じだったので更にHOPを弱める。

 次は60メートル先、大丈夫ほぼ合っている。

 更にもう一度100メートル先を狙ってみる。

 どうしてもちょっと弾はサイトの中心より落ちる。

 でもまあこのエアガンは実質射程60メートルだしこんなものだ。


 真司は同じ要領で他の4丁のエアガンも調整していく。

 銃身が短い方のM4CRW改の調整にちょっと手間取った。

 でもHOP強めで絶対飛距離重視でセットするより、飛距離が若干落ちても素直な弾道にした方が使いやすそうだ。

 どうせ100メートルも飛ばしてもBB弾の威力はほとんど残っていない。


 最後にPS90HC改を五月に渡して、使い勝手を確認してもらう。

「うーん、こんな物かなあ。ちょと短くなったし軽くなったけれど、前が上がりやすくなった。注意していれば大丈夫な範囲だと思うけれど」

 バレルが大幅に短くなって、前方向が軽いというか無くなったのでその分後ろ下がりになりやすくなったのだろう。

 それは想定内だしバラスト入れてバランスを取るまでもないかな、と真司は思う。

 ついでに2タイプのM4CRW改も五月に試してもらう。

「長い方は重い。短い方は軽いし小さくて良いんだけれど私の方が構えやすいし狙いやすい。慣れかもしれない。このレーザー出るのはもう少し周りが暗ければ使いやすいかもしれない」

 まあ真司の想定内の感想だった。

 

 ちなみに自分の部屋に帰った後。

 真司は自分の中華AKの弾速と発射速度を測定してみた。

 弾速が200m/sと長いインナーバレルを使っている割には短いPS90HC改とほぼ同等。

 発射速度が1秒あたり10発とPS90HC改の3分の1でM4CRW改の約半分。

 真司は悲しみの涙を流すとともに更なる改造を胸の内で誓ったのであった。

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