第14話 毛無峠戦線異状なし
ガガガガガガー
カタカタカタ
真司の中華AKと五月のPS90HC改は今日も絶好調である。
あれから更に改造を加え、対ゴブリン戦ならよほどの集団に出くわさない限り何とかなるようになった。
「ヒャッハー、汚物は消毒だぜ!」
五月がPS90HC改を連射しながら何やら言っている。
真司は特に気にしない。
見てくれはどうであれ五月=モヒカン様なのだ。
それくらいの台詞は当然である。
ゴブリン5匹を殲滅してから真司は思う。
「それにしてもさ、ここのところゴブリン増えてないか」
「ん、私もそう思う」
五月も頷いた。
以前ゴブリンは朝に2~3匹、夕方で4~5匹遭遇する程度だった。
でも最近は朝夕ともに10匹前後は遭遇する。
梅雨を控えてお金を貯める分にはいい。
それにしても多すぎる。
単に暖かくなったせいだろうか?
現在朝6時30分。
場所はいつもの毛無山頂上付近の岩場。
いつもならゆっくりと宿の方に向かおうかという時間。
だが。
ウーウーウーウーウー
各所に設置されたサイレンが鳴り響いた。
直後に緊急放送が入る。
「緊急放送です。緊急放送です。ゴブリン多数の侵攻が確認されました。ゴブリン多数の侵攻が確認されました。冒険者の応援を要請します。冒険者の応援を要請します。支所にご集合願います。支所にご集合願います。
繰り返します……」
講習で聞いてはいたが真司は緊急放送も応援要請も初体験だ。
五月も勿論同じ。
まず真司は周りを確認する。
ここから見る限りではゴブリン多数というのは確認出来ない。
何処にゴブリン多数がいて何処へ向かって侵攻しようとしているのか。
今の放送ではそこまでは判明しない。
「行くか」
真司の台詞に五月も頷く。
今の真司と五月の足ならここから峠まで急げば10分程度だ。
支所に行けば情報は手に入るだろう。
真司と五月は半ば駆け足で坂を下りる。
ここ二ケ月ほぼ毎日通っている道なので足が起伏を憶えている。
県支所裏手から支所内へ。
待ち合わせ室兼ロビーに情報案内のホワイトボードが出ていた。
真司はさっと内容を確認する。
ゴブリンの集団が見られたのは魔王城直近。
侵攻ルートは県道を経由してここ毛無峠方向と推定されている。
応援冒険者は毛無峠直下の県道でゴブリン集団を迎えうつようだ。
「応援冒険者受付は下の県道か。行くか」
五月は頷く。
そんな訳で2人は県道を魔城側へ下りていく。
峠から県道を下りて400メートル位先のカーブの手前に討伐者が集まっていた。
道はそのカーブでぐるっと度右へのヘアピンカーブとなっている。
その先は上方向が崖の区間がゆるいカーブを含んで500メートルほど続く。
ゴブリンが県道を進んでくれば、この区間は逃げ道が無い。
峠方向に行くには上方向への崖が障害となるし城方向は下へ切り立った崖だ。
更に四か所程鉄パイプ柵を横一列に並べたバリケードが出来ている。
ここでゴブリンが手間取っている間に撃ち倒すつもりのようだ。
「BB弾が不足している冒険者はここで配っています。今回の補充は無料です」
そんな訳で真司も五月もBB弾を補充。
真司は予備弾倉3を含めめいっぱい。
五月はボックスマガジン満タンにした。
「応援冒険者の方は白線内に入って待機して下さい。白線より前には出ないで下さい。なお退出は自由です」
冒険者はは真司と五月を含め14~15名程。
ほとんどがロッジで見かける面々だ。
更に自衛隊員が約15名。
装備は89式を模した改造エアガンに銃剣をつけたものだ。
なお銃剣は本物は威力が無くなるのでプラスチック製の玩具に銀メッキをした物。
これは真司と同じである。
他には役所支所の職員や警察官があわせて10名ほど。
真司は五月とともに一番山側の方に陣取る。
道路外を登ってこられたりする可能性も無い訳でないから谷側が多分一番危険。
中央は端よりは安全かもしれないけれど、左右両側から敵が来る可能性もある。
それに両側を他人に囲まれているのは正直真司も五月も得意ではない。
真司も五月も人が多いのは苦手なのだ。
メガホンによる指示を聞きながら前方の戦場予定地点を再確認する。
まず一番手前にパイプ柵があり下に白線がひいてある。
この内側が真司と五月、他の冒険者の場所だ。
その先20メートルにも柵。
ここをゴブリンが超えたら冒険者は県庁下のカーブ手前まで撤退。
その先35メートルと50メートルの柵。
主にここの障害で手間取っているゴブリンを倒すというのが作戦だ。
例によって本物の武器は使用できない。
だから武装は主にエアガン。
ボウガンを使用する何組かは道路の更に上、ここから見て斜め上方向から崖下のゴブリン目標で投射するらしい。
坂上に陣取った県職員で構成されているらしい投石部隊も同様だ。
「連絡、ゴブリン部隊1キロ手前まで接近。予定開戦時間午前7時05分。各部隊配置願います」
今までの単独討伐と違う緊張感があたりに漂う。
真司も予備弾倉3つを改めて確認。
大丈夫、ベストのポケットからすぐ取り出せる位置にある。
五月のPS90HC改もBOXマガジンに目いっぱいBB弾を装填済みだし、給弾ゼンマイもしっかり巻いた。
万が一の時の補充BB弾もあらかじめペットボトルに入れてポケット内だ。
真司は周りの冒険者の様子を横目で見てみる。
服装は結構バラバラだが森林迷彩系の迷彩服が多い。
一番多いのが五月と同じ米陸軍OCP。
通称マルチカムという奴でおおよそ半数がこれだ。
他はA-TACS3人、自衛隊の迷彩服二型2人、タイガー、全部黒。
真司と同じ人民解放軍はいない。
まあ人民解放軍八七式陸軍迷彩服も知らなければウッドランド迷彩に見えなくもないけれど。
銃《エアガン》はM4が多く、他は同系のM16、H&KのG3、自衛隊89式等。
五月とほぼ同型のP90系も他に2人いる。
銃、BDUともに共産国系は真司しかいない。
(共産党支持者では無いんだ! 安かっただけなんだ! 誤解しないでくれ!)
なんて真司が思った時だ。
「連絡、ゴブリン部隊まもなく。射撃用意願います」
見ると既にゴブリン部隊の戦闘は先の大カーブを超え、視界に入ってきていた。
あと400メートル。
ゴブリンの数はどんどん増えていく。
多い。
既に200匹はいるように真司は思う。
既に戦闘は開始されている。
投石部隊やボウガン部隊が始めているのだ。
倒されるゴブリンも結構いる。
それでも倒れた仲間を踏みつけてゴブリンが迫る。
でも改造エアガンでも、ゴブリンに有効な射程は最大で60メートル程度。
一番遠い柵の少し先あたりまでだ。
だから真司も五月も待つ。
待って、待って……
先頭のゴブリンが柵のすぐ向こう側にかかった。
真司と五月は同時に射撃を開始。
先頭のゴブリンが倒れる。
すぐ次が柵を超えようとする。
撃つ。
倒れる。
五月は完全な撃ちっぱなしではなく、ある程度ONOFFを分けて撃っている。
真司はその事にちょっと安心する。
撃ちっぱなしだとモーター焼けやバッテリー異常を起こす危険性があるから。
五月は結構冷静なようだ。
五月の射撃タイミングと併せて隙が生じないように注意しながら真司は撃つ。
既に10匹以上倒したがまだ最初の柵は超えられていない。
あくまで真司と五月の前方はだ。
他まで見る余裕はあまりない。
真司は300発撃ち尽くして次の
その隙に第一の柵をゴブリンが越えかける。
五月のPS90HC改の連射で倒れる。
でもまだゴブリンの後続は続いて……
でも次の瞬間真司には最後尾が見えた。
既にAKの側面はかなり熱くなっているがもう少しだ。
五月のPS90HC改もまだ異音はしていない。
既に異音を響かせているエアガンもある。
何処を守っているエアガンか見て確認する余裕はない。
遂に屍体の山を越えゴブリンが第2ラインに入ってくる。
ただ近い分威力があがったのかゴブリンが倒れやすくなった気がした。
でも横からこっちに向かってくる奴もいるから気が抜けない。
出来るだけ柵に近づく前に倒しきるつもりで連射。
連射しすぎないよう、少しでもモーターの過熱を防ぐよう、心がけつつ。
いつの間にか横の間隔が少し広くなっている。
エアガンのトラブルで冒険者が何人か抜けたようだ。
市販品に比べて大分カスタムしたせいで無理が生じたのだろう。
だが真司の中華AKも五月のPS90HC改も音を聞く限りまだ大丈夫。。
マメに整備しているし可動部分は徹底的に分解清掃しグリスアップしてある。
だからもう少しは大丈夫なはず。
真司は3本目の
横の間隔が更に広くなっている。
でもさすがのゴブリン部隊も終わりが見え始めた。
それから全滅まではあっという間。
その場で倒れているものだけではない。
右の草地の斜面を転げるように落ちていくものもいる。
でも真司も五月も射程からゴブリンが消えるまで撃ち続ける。
全部が死ぬまでは危険だから。
「連絡、状況終了です。冒険者及び投石部隊は任務を解除します。県支所へ移動をお願いします」
ついに終了宣言がアナウンスされた。
目の前に残るのは四列の柵と大量に重なったゴブリンの屍体。
冷静になると吐き気をもよおしそうだ。
臭気も酷い。
五月を促して真司は早々にこの場を去ることにする。
五月も同意見のようだ。
真っ先に県支所前に作られた受付へ。
列に並びながら説明を聞く。
説明によると今回の報償処理は後でもしてくれるらしい。
アクションカムに残されたGPS記録と時間記録で応援加算をつけることが出来るようだ。
なら……
「後にするか」
五月も頷く。
2人は何やらお祭りムードな感じの他の冒険者から逃げるようにロッジに戻った。
いくら侵略者で害獣でも、あの大量のゴブリンの屍体を見た直後に騒げる気分にはなれなかったのだ。
結局その日は解散してエアガンの分解整備をすることにした。
撃ち続けたエアガンの信頼性の問題もあるから。
真司も五月もほとんど言葉を交わせなかった。
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