第10話 エンカウント
5時ちょうどと言ったのだが、真司が部屋を出たのは4時40分。
ちなみに同じ一階にあるロビーまでは1分かからない。
それでもこの時間に出たのは理由がある。
モヒカンは例えネット上のゲームでも15分前には待ち合わせ場所についていることを真司が知っていたから。
あまり五月を待たせるわけにもいかない。
装備一式を持って真司は部屋を出る。
ちなみに装備一式とは、エアガン2丁(自分用、五月用)の他に、
・ 安物迷彩柄ディパック
・ 安物ダンプポーチ
・ 水2L(1Lペットボトル2本)
・ 行動食(カロ●ーメイト類似品×3食分)
・ 対魔物用BB弾2kg
・ 予備弾倉(BB弾補充済)
・ 剣鉈
・ ナイフ
・ 軍手
・ タオル
・ ポンチョ
・ スマホ
・ ビニル袋数枚(東京都指定ゴミ袋特大)
といったところだ。
コンバットナイフで無くて剣鉈なのは、別に真司のポリシーではない。
単に父親が昔アウトドア用に持っていたのを『恰好良くて便利そう』との理由でくすねただけだ。
他はよくある標準的な冒険者装備。
ロビーの方を見ると五月の姿は見えない。
だがこれで安心してはいけない。
あえて隠れて待っているような奴なのだ。
案の定真司がロビー前に到着すると同時に五月が姿を見せる。
女子トイレの方から。
「変に馴れ馴れしいのがいたから逃げてた」
しまったなと真司は思う。
魔物が一番多いのは朝まずめと夕間暮れ。
必然的に今の時間帯は冒険者も多い。
ロビー内だけで10人くらいいる。
そして五月は今見て思ったのだが異様に目立つ。
悪い言い方だとロリ系ツインテール美少女が米海軍特殊部隊用迷彩AOR二で決めているのだ。
正にサバゲオタ(男)ホイホイ。
今でもロビーにいる数少ない人間の視線を一身に集めている。
正直とっても居心地が悪い。
明日からは集合時間をずらそう。
真司は強くそう思った。
とりあえずこの場は逃げの一手だ。
真司は五月を促して外へ出る。
「悪かった。明日からは集合時間変える」
「そうしてくれると助かる」
相変わらず会話はスマホのメッセージを通して行われる。
現在地は峠から少し毛無山方向に登ったところだ。
ちなみに他の討伐者は反対側の破風岳方面に向かったらしい。
あちらは笹薮で見通しが悪いし、破風岳の先に牧場があるので魔物の数が多い。
一方、今いる毛無山側は毛無山までは草原なので見通しがいい分、魔物は少ない。
五月は初めてだし安全な方がいいだろう。
そう思って真司はこっちに来たのだが、どうも正解のようだ。
真司は立ち止まって五月のPS90HC改を掛けていた肩ひもを外す。
ここでエアガンの説明をしておこうと思ったのだ。
「ここが
さすがに銃の説明だけはスマホで打ちながらは無理だから口頭で説明。
五月は真面目な顔で真司の手元を見ている。
その視線にちょっとドキドキしながらも、真司はそれを出さないように続ける。
「あとこれが弾を入れる場所。千五百発入るから普通は一日持つ。でも弾を何度も連射したりした場合はここから弾の量を確認して少なかったら補充」
真司は今度はPS90HC改を構える。
「正しい構え方はこう。ここから見てレーザードットを基準に狙う。弾は放物線を描いて飛ぶから20メートルより近い場合は点より上、遠い場合は点より下に当たる」
構えを解いて肩ひもを目分量で五月サイズに縮める。
「あとバッテリーの充電や給弾ドラム関係やほかのメンテナンスは宿に帰ってから僕がやるから。説明はこれくらいかな」
そう言って真司は五月にPS90HC改を渡す。
五月は肩ひもを通すと、PS90HC改を構えたリ向きを変えたりしてひととおり確認すると小さく頷いて、セレクタをAに回し構える。
「あ。ここなら魔物いても見えるから構えなくても大丈夫……って、試射した方がいいか。今なら大丈夫だし」
五月は小さく頷く。
まずは普通に肩にストックをあてた普通の構え方。
カタカタカタ、と音を響かせBB弾が発射される。
五月はちょっと顔をしかめてストックを肩に当てている場所を変える。
思ったより反動があったらしい。
既定の数倍の威力がある弾をハイサイクル以上の発射速度で撃っているのだ。
当然結構反動はある。
五月は頷き、構えなおす。
再びカタカタカタというサイクル音。
20メートルくらい先の葉にビシバシ穴が開いた。
結構弾着が集束している。
五月は小さく頷いた。
手ごたえをつかんだらしい。
「じゃあ魔物狩り開始」
今の説明で声で話してしまったら慣れてしまった。
だから真司はスマホを使わないで五月にそう告げる。
五月は頷く。
了解のようだ。
二人で気配を殺してゆっくり静かに登山道を歩く。
ほどなくガサッ、ガサッという音が前方から聞こえた。
真司は立ち止まり、五月に右手を上げて合図。
第一獲物、発見だ。
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