汝は◯◯か……?

水月火陽

プロローグ

 蝉が忙しなく鳴き喚き猛暑日が続く8月。長期休暇期間で学生は夏休みを満喫し、社会人はクーラーの元で仕事に打ち込み、又は足を使って営業し、又は仕事などせず怠慢に身を浸している夏の日。某SNSの書き込みにこの様な記事が流れた。


『この夏をエンジョイしていない貴方へ……‼︎10日間の国内無人島生活を楽しみませんか⁈お値段はなんと食事代込みで3万円‼︎1人につき1つのテントでプライベートタイムも守られています♪この夏、見知らぬ誰かと青春の夏を……限定16名まで‼︎参加方法は簡単‼︎このアカウントをフォローするだけで応募資格が手に入り、その場で抽選を行います☆もし当選した場合、改めてこちらからメッセージを送りますので、確認の上記載日時に当選メッセージと荷物を持ってこちらが指定する場所に集まってください‼︎※尚、ペア招待や団体への対応は致しかねますのでご注意下さい。』


 よくある観光斡旋アカウントからの広告だった。それを見て参加する人、拡散する人、引用して持論を述べる人など多数見られたが最早SNSでは日常茶飯事だろう。それでも、特に社会人にとっては学生時代を彷彿とさせる夏のキャンプに興味をそそられ、学生達はもしかしたらの出会いを求めて参加しようと思ったりとするのかもしれない。それだけ、夏の誘惑というものは強かった。


 事実、そのアカウントは一夜にして10万人以上にフォローされ、結果を嘆く者、自慢する者、妬む者や非難する者などが多々現れ1時間も経たないうちにトレンド入りする程だった。とは言え、それ程まで勢いよく燃えた炎は直ぐに鎮火していく。人々の興味から消えていくのも数日と経たなかった。


 当選者以外はだが。



 当選した者に届いたメッセージにはある不可解な点があった。まず1つは『辞退が不可能な事。』これに関しては当選結果をその場で出している以上辞退が有ると補填が効かないからだろう。元々3万という破格の値段の旅行だ。下手に辞退されると赤字が加速してしまう。

次に『不慮の事故にあった際は観光会社は一切保証しない事。』これも金額的には理解出来る。だが、無人島である以上野生動物の被害や体調不良などは起きてもおかしくはない。前述の点も含めると気軽に参加すべきではなかったのかもしれない。

そして何より、『期間中における当選者の勤怠については国からの指示による有休扱い(無論所持有休日数は変化しません。)とし、それによる経営支障が発生する見込みがある場合こちらから代理人をで派遣します。』という点だった。これについては最早耳を疑うレベルでしかない。この観光会社の背後に何がいるのか分かったものではない。更に会社に対する補填面もおかしい。上2つの点で考えるならば、赤字覚悟の企業広告として理には適っている。(人道的ではないが。)しかし、最後の点を見る限り広告面としての参加強要というより、むしろである様に捉えれる。もし、冷静かつそこまで興味を持っていない人間がこれを見ればその時点でこの企画の『異様性』に気付き即刻通報していただろう。

 だが、現実から目を背けたくなる様な猛暑日が続くこの時期。当選した彼らはこれらの内容を読んでむしろ【仕事を休んでエンジョイ出来る上に社会的地位と給与が変わらない】というプラスイメージが勝り、喜んだとか。



 そんなこんなで当選者は日がな一日を過ごしつつ指定された日時。8月16日の午前4時を待ちわびて生活し、当日同時刻には誰1人欠ける事なく指定された場所に集まっていた。

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