第246話ダミアン皇太子とエリザベス様

主旋律しか書いていない楽譜だがまあ、ハモれるだろう。


食事中にもう1部作ってと言われた分の楽譜をクライスとカインに渡す。私と会長は見ないでいける。


ア・カペラだけど。


《いとしのエリー》



皇太子が歌い出す。初見だがきちんと歌えている方だ。音域はバリトンだね。後はカバーする様に私達が主旋律とハモりをお手伝い。


皇太子、心から歌えている。本当にエリザベス様の事好きなんだろうな。


エリザベス様が幸せそうな顔で聞き入っている。歌詞に感動しているのか男性陣の密着具合に感動しているのかは不明だが。



曲が終わり薄らと涙目のエリザベス様は


「こんな趣味の私ですがこれからも宜しく御願いします!」


と深々と頭を下げられた。




「あの。エリザベス?聞きたい事が沢山あるんだけど。」


歌い終わった皇太子はエリザベス様をまじまじと見詰めた。




「初めてこの国に来た時に君はジェファーソンを熱い瞳で見てたよね?あれはそのー。もしかしてジェファーソンがカッコいいから見てたんじゃなくて?」


尋ねにくそうに皇太子はボソボソと呟く。


「ダミアン様とジェファーソン様が余りにもお似合いだと思って妄想に耽ってました・・・・。」


エリザベス様は気まずそうに視線を逸らした。




皇太子は頭をポリポリ掻きながらプッと吹き出した。


「じゃあ、えーと。うちの弟を見詰めていたのは?」




「それは兄弟もアリだなあと思って!!」


エリザベス様は熱く語る。




皇太子は両手で顔を覆って肩を震わせて必死で笑いを堪えている。


「あはははは。ダメだ。笑いが・・。止まらない。」


お腹を抱えて爆笑しだした。一頻り笑った後、皇太子は心の氷が溶けた様に今まで見せた事が無いような笑顔で




「エリザベス。そんな君でも僕は大好きだよ。」


と言った。




エリザベス様はダミアン様の元へ駆け寄り


「ありがとうございます。」


と言って抱き着いた。おー!!私達は皆で拍手で2人を祝福。




「ツンデレと腐女子のカップルだねー。」


会長が私の横でボソッと呟いた。


「卑屈男子と妄想女子のカップルじゃないか?」


私も呟くと会長はそれもそうだねとクスっと笑った。




後は王子との関係性かな。見た感じではもう王子は恨み無しって感じがする。面白い事が大好きな王子にとってこの2人って多分、ツボだろう。




「私、やっぱりダミアン様とジェファーソン様ってお似合いだと思います!」


皇太子の手をそっと取るエリザベス様。その意見に固まる皇太子。


見ていて本当に面白い。


「だから仲良くして下さいね!」


エリザベス様にニッコリ微笑まれて皇太子は小さく頷いた。




尻に敷かれそうだなあ。




思った通り王子が悪ノリして皇太子の元へ。


「僕ら仲良しですよ?」


と皇太子の手を取る。


それを見てエリザベス様は顔を赤らめて幸せそうな表情を見せた。




「解決したのかな?」


「かなあ?」


「ほら、僕が言った通りになったでしょ?」


3人を見ながらカインの意見に皆、うんうんと頷く。




皇太子とエリザベス様も交えて客間に移りお茶を入れてもらって少し話をしようと言う事になった。




「何と言うか申し訳ない。」


皇太子が溜息を付きながらそう言って席に付いた。




「エリザベス様。申し訳無いのですがどうしても許せない事が1つだけあるのでダミアンと喧嘩します。」


王子がそう言って立ち上がった。




皇太子は王子を見詰めた。横のエリザベス様は何事?と言う顔をしている。




「うちのキャサリンは世界一可愛いんです!!そこは絶対譲れません!!」


王子がキッパリと言い放つと今度は皇太子が立ち上がった。




「いや!うちのエリザベスが世界一だ!こんなに美しい令嬢は他に居ない!」


キッと王子を睨みつけた。


2人とも見事な婚約者バカだ。




「自分が好きな女が世界一に決まってるだろ?そうじゃなきゃ付き合わないし結婚もしない。」


ルイスがニヤっと笑いながら私の頭を撫でた。


「別に世界中の奴に認めさせる事はねーよ?」




「そうだな。価値観って言うのはそれぞれだし。」


会長の顔、冷静モードだ。




「価値観は人に押し付けるものでは無い。皇太子様はそれが1番理解していて本当は嫌な筈。」


皇太子様は少し苦い顔をされて俯かれた。




「そして、ジェファーソン。ぶっちゃけダミアン皇太子の顔どう思う?」


会長は直球勝負。皇太子は俯いていた顔を上げて王子の顔をムスっとした表情で見た。




「え?ダミアンの顔?ぶっちゃけるんですか?」


王子が会長に向かって苦笑いしながら


「今まで色々ありましたからねー。それが無ければ良い顔だと思いますよ。色々を含めるとムカつきます。」


王子、正直過ぎる・・・。


「良い顔?嘘つくな!!僕は髪は赤いし顔は全然かっこよくない・・。」


勢いよく否定したが、語尾は小声。コンプレックスの塊ってなかなか治らないもんだ。




「え?可愛い顔してますよ。それに赤髪良いじゃないですか!珍しくて!僕なんて何処にでもいる金髪ですよ?髪の色変えれるなら緑色とかにしたいなぁ。」


流石、王子だな。緑ときたか!




「ジェファーソンが緑なら私、ピンクにしたいわ!」


キャサリンが笑顔で言う。キャサリン可愛いと思いますよと王子笑顔だし。




「私なら赤メッシュ入れたいなあ。」


金髪に赤メッシュめっちゃカッコいい感じ。




「メッシュ良いな。俺、前髪に金髪入れるかな。」


ルイスが黒髪の前髪を触りながら言う。




「知ってる?皇太子様。こう言うのってね。無い物ねだり。」


って言うんですよと会長がニヤっと笑う。




「無い物ねだり。」


皇太子は反芻する様に呟いた。




「後はそうだな?隣の芝生は青いとか?皆、何かしら他人と比べて羨ましい部分があるって事。」


会長って相変わらず大人だ。




「そうですわ!だって私、ダミアン様に一目惚れしたんですもの!」


エリザベス様は嬉しそうにそう言った。


「その後、仲良くして頂ける様になって優しくて益々好きになりましたの!」




「エリザベス・・・。」


皇太子は頬を赤くして照れたような複雑そうな顔。




今はまだ無理かもしれない。でも彼の意固地な心の扉は確実に少しずつ開いている。




「さてと。明日も僕らはコンサートですよ!」


「おぉ!もうこんな時間だよ!」


寝るかー!と言う話になりお茶会は解散となった。




最後に皇太子が王子に


「ありがとう。今までごめん。明日も頑張って!」


とちょっとだけ笑顔を見せておやすみ!と言った。




王子は満面の笑みで


「うん!おやすみ!」


と幸せそうだった。




もう少し。きっとこれから仲良くなれる。

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