第226話コンクール予選

遂にコンクール予選日となりました。




朝からルイスが迎えに来る。




「おはよ!」


「あー!緊張するなー!」


だよなあ。人前で歌ったり舞台は楽しいんだが選んだ曲がな。




「自分で選んだのに不安になる。」


と言うとバカか!と頭をポンと叩かれる。


「気にするとまた変な記憶で歌えなくなるぞ?」


ルイスが言うのも一理ある。緊張し過ぎは前世の記憶を呼び起こす。


「そう言いながら俺がやっちまったらごめん。」


「そりゃお互いだ。スミスさんも結構レッスンしてくれたし。きっと大丈夫ー!」


うん。お互い信じあって行こう!




今年の予選人数は63人。勿論、通過は20人。


エントリーは早かったので10番。調度良い!




会場に到着し身体のアップを始める。


ルイスと一緒で良かった。


「よし!やるぞ!」


「ああ。来いや!」


組み手の相手としては最高だ。ルイスは攻撃してこないで受けたり避けたり。


私も本気で殴ったりはしないけど。


「流石、避けるねー!」


「当たり前だ。」


周りから見たら喧嘩に見えそうだけどジャれてるだけです。勿論、楽屋でやってます。


おー!身体温まったあー!


「うん。身体バッチリ!ぼちぼちピアノの部屋へ呼ばれるかな。」


去年の感じではそろそろ。




案の定、声がかかりピアノのある控え室に移動。


今回は1時間弱くらいの待ち時間でとても気楽。




ルイスのピアノで発声。


「今日も絶好調だな。相変わらず良い声だ。」


さらっと褒めてくれて嬉しい。


「ルイスのピアノも上手いしな。」


お互いに照れる。




スタンバイお願いします。と次の呼び出し。




ステージ裏まで通される。


ルイスと手を繋いで向かう。不思議と緊張が解ける。


9番目の方も凄く上手い。だけど勝つよ。




歌い終わり10番舞台へお願いします。と案内される。


『下克上!』


『おぅ!下克上!』


ルイスと日本語で。見詰めあって笑う。




うん。行こう下克上へ。コンクールも新時代を迎えさせる。




「10番、ルナリー・ウェールズです。曲はTime to say good bye。オリジナル曲です。宜しく御願いします。」




2人で一礼する。




審査委員が楽譜を見ている。




馬鹿にしてるか?全然、気にしないぞ。


それだけ自信がある。




ルイスと呼吸を合わせる。




出だしは囁くかのようにそれでいてハッキリと。



そう。これは愛する2人の旅立ちの歌。



ルイスと共に生きて行く歌。



1度、死んで離れてしまったコウジと再びこの世界へ来た様な。実際の歌詞はそんな意味は無いんだろうけど。




歌い手の解釈と言う事で。有りだろう。




高らかに歌い上げる。貴方への愛を込めて。




「ありがとうございました。」


一礼して舞台を降りる。審査は拍手などされないから何か最近としては物足りない。


やっぱり拍手喝采が良いよなあ。




「どうだった?ルイス的に。」


「迫力が凄くあったし声の伸びも美しさも良かった。確実に感動させたと思う!」




「褒めすぎー。」


嬉しいけど。ルイスが優しく頭を撫でてくる。




これから審査結果まで約3時間待ち。


歌うまでは会場から出られないが歌い終わった場合は多少の外出は許可されている。そこが去年と違って気楽な所。




「遠出は無理だからその辺で飯食うか。」


「うん。緊張解除と共に空腹だ。」


なんだそれ?と笑われながら徒歩圏内の会場外のカフェへ向かった。


パニーノとカプチーノを注文。美味そーう!


「去年、本当に暇だっただろ?」


「そーなんだよ。緊張はするし、直前まで発声も出来ないし。」


早めのエントリーは本当に必須だ。


「パニーノ美味いな。」


「うん。知らなかった。良い店だね。」


カジュアルで入りやすいちょっとお洒落なカフェ。穴場だったなあ。皆にも教えてあげたいねと言いながら食べ終わり店を出る。




予選会場に戻りロビーでぼーっと暇潰し。


「良いな。こう言うデートも。」


ルイスがボソッと呟く。


「コンクールデート?」


いや、ぼーっとするのもって事。予選が終わった人数が増えロビーでの待ち人数も増えているのでお喋りをペラペラする雰囲気では無い。


ぼーっとするに限る。


自信満々な顔の人、落ち込んでる人、寝てる人、様々。人間観察も楽しい。






暫くして会場に入る様にアナウンスが流れた。


「行くか!」


ルイスに促され一緒に会場に入る。


いよいよか。




「予選通過発表します。先ずはテノールから・・・・」




「予選通過。ソプラノ。」


ごくっと唾を飲み込む。


「9番、10番・・・・」


ルイスと顔を見合わせる。言ったよな?幻聴では無いよな?




騒ぎたい所をグッと我慢しての小さなガッツポーズ。よっしゃー!!!




発表が終わった。歓喜する人、沢山の落胆する人をかき分けロビーへ戻る。


「皆、来てるかな?」


「落ち込んだ顔で登場するか?」


ルイスがニヤっと笑う。それも面白い。




「ルナリー!!ルイス!」


キャサリンが声をかける。




冷静に真顔を心掛ける私達。




「姐さん?」


カインが心配そうな顔をする。




2人で頭を下げ。せーの!!!


「予選通過!!」




「もー!ふざけ過ぎ!」


キャサリンに怒られ、皆にも笑われ。


おめでとう!と声をかけられる。


「いよいよか。明日は本当のリベンジだね。」


王子が肩を掴んで大丈夫!と私達に気合いを入れてくれた。




「スミスさん来てないのかな?」


報告したかったなあ。後で電話するか。




「今日はプラゲ国から楽器が届くと言う事でしたよ?」


とエミリアが教えてくれた。なるほどそりゃ忙しい。


国立管弦楽団にも遂に和楽器導入か。面白くなりそうだ。




皆でさっきのカフェに案内しお茶をして今日は帰宅した。


明日は本選。

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