第166話キャサリンのやり残した事

プラゲ国滞在最終日の早朝にキャサリンからそっと起こされた。


「御願い!こっそり外へ行きたいの。」


眠い目を擦りながらエミリアを起こさない様に静かに起きた。


「ん?まあいいけど?」


さっと着替えてそーっとドアを開ける。


誰も居ない。




「よしゃ、行くぜ!」


「ありがと。外出たら詳しく話すわ。」


キャサリンとこっそり外出。こう言うのはスリルがあって楽しい。誰かに会うかと思ったが何とか脱出。門番さんにだけは散歩に行ってきますと告げた。




ちょうど日が昇るくらいの薄明かりの早朝。涼しくて気持ちの良い朝だ。


「全く、どうした?何かあったのか?」


「うーん。昔住んでた辺りに行きたくてさ。」


皆とは行きにくいしでも、行きたい。そんな葛藤で目が覚めたそうだ。


「何も無いと思うけどルナリー居たら安心だし。」


「私は護衛かよ!」


笑いながらキャサリンの住んでいた家の方へ行くことにした。


「流石に何も無いわねー。」


プラネットの城下町に比べると民家はあるが店や飲食店とかが少ない気がする。


「良く迷わず行けるなあ。」


私は変わりすぎててプラネットの何処がどの辺か解らなかった。


「東京ほどは変わってないわよ。」


まあ、確かにそうだろうなあ。今はプラゲ国だけど元琉球国だったから町の雰囲気とかが改めて違うなあと思う。瓦とか家の造りとか。


「懐かしいなあ。」


キャサリンは1歩1歩踏みしめる様に琉球の町を歩いている。


「ルナリーって前世の名前はサキちゃんだっけ?」


「うん。ちなみにルイスはコウジ。」


キャサリンも沖縄出身の事を思い出した時に名前も解ったと言った。


「私はナツキって言うの。」


そっかあ。良い名前じゃん!ナツキちゃん。


あぁ。でも、名前思い出したって事は死んだ時の事とかも思い出しちゃったんだろうな。ルイスもローズさんもグレンさんも語りたがらないし。そこは聞かない事にしとこう。




30~40分程歩いただろうか。


「想像してたより田舎だわー!」


キャサリンは民家が数軒で後はサトウキビ畑の辺りを指した。


「この辺りよ。社宅があったの。」


ゆっくり思い出す様に目を閉じた。


割とね沖縄では都会っ子だったのよ。でも、東京と比べたら天と地との差ね。


涙が頬を伝う。


都会の子ってお小遣いも多いし放課後の遊びも派手でさあ全然付いて行けなかった。そのうち方言を弄られたり弁当が田舎臭いとか言われだしてねー。


「キャサリン!もう言わなくて良いよ。」


聞いてる私も苦しくなって来た。昔から苛めてる奴見ると虫唾が走る。


「ごめんね。」


「いや、謝る必要は無いし。何と言うかなあ!聞いてたらナツキを助けに行けなかったのが悔しくなる!」


キャサリンは涙目をパチパチさせながら私の顔をまじまじと見て笑いだした。


「まさか、そう言う反応が来るとは思わなかったわ。」


ヤンキーの癖に何か真面目よね。クスクスと泣きながら笑っている。


「おかしいかなあ?」


生まれた時代も生きてた時代もズレてるのに、前世で会えてたら良かったね。2人でサトウキビ畑を見ながら呟いた。




「ルナリーとこの世界に生まれてきて良かった。」


「うん。私もそう思うよ。変な世界だけどなあ。」


日が昇り蝉の声が聞こえる。




「先に進む!!」


「ん?どうした?」


キャサリンが空に向かって両手を翳す。


「やっと進める気がするー!ありがとう!沖縄!ありがとう!私の故郷!」


元気をいっぱい貰えた!満面の笑みで私を見詰めたキャサリンは最高に可愛いかった。




「帰ろっか!」


「皆、ぼちぼち起きてそうだしなあ。」




来た時と違ってキャサリンの足取りが軽い。




「後、やり残した事ってソーキそば食べたい!」


「それを言うなら私も寿司を食い損ねた!」


あー。それは私もだ!!とキャサリンは言う。




何か知りすぎてるからリクエストしにくいんだよね。


「次来た時は外食巡りしたいな。」


「だよねー。」




「ラーメンだろ、牛丼だろ、日本の家庭のカレー!唐揚げに焼きそば!って全部まだ無いじゃんかー!」


「ルナリー、食べ物ばっかり。」


確かに。




首里城に戻ると皆、起きてちょっと心配していた。


まあ、起きたら居なかった程度にしか思われて無いけど。


「キャサリン、ルナリー何処行ってたんですか?」


王子が駆け寄って来たのをキャサリンが嬉しそうに見詰める。


「朝の散歩です!」


王子も安心した様に笑顔になる。




もう、大丈夫そうだ。1歩前へ。先へ進もう。

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