第2話 鬼の副長

「鬼の副長って誰の事よ。私は土方歳三ではない!」


 ネットの記事を見つめ体を震わせている少女が一人。

 彼女が見つめているのは、ビューティーファイブの時期隊長は誰になるのかを予想する記事だった。


 ビューティーファイブのメンバーそれぞれの項目に五段階評価で採点してあった。容姿や能力だけでなく、結婚相手にふさわしいかどうか等くだらない内容の物だった。


 彼女の名は相生あいおい香織かおり。その記事では次期隊長として最有力と記載されていた。


 相生香織……冷静沈着で状況判断に優れる知将。その苛烈な性格から鬼の副長と呼ばれている。


 そんな書かれ方をして喜ぶ女性はいない。香織は心の底からそう思った。


 他のメンバーはと言うと、それなりに美化して書かれているのだ。


 綾川あやかわ知子ともこ……類い稀な身体能力を持つ格闘家で、その計算能力は量子コンピュータに匹敵すると言われる航海士。美脚ナンバーワン。


 黒田くろだ星子せいこ……ぼっちゃり体形が可愛い巨乳娘。優れた空間認識能力を持つ操舵士。もちろん巨乳ナンバーワン。


 有原ありはら羽里はり……膨大な知識を駆使するエンジニア。機関士と電探技師を兼任。メガネっ娘萌えナンバーワン。


「はあ」


 香織はため息をつく。

 どうして自分だけこうなのだろう。他のメンバーのように容姿を褒められることは少ない。


 職務に忠実だが性格がキツイ。

 クソ真面目。

 ユーモアがない。


 そんなネガティブな表現ばかりが目立つ。これでも一応アイドルユニットの一員なのだ。


 香織は姿見の前に立つ。

 今はビューティーファイブの制服を着ている。香織専用の、白と青のツートンカラーのブレザースーツである。スカートの丈は短い。この青い制服が冷徹な印象をもたらしているのだと感じる。

 彼女は、自分のスタイルは良いと思っている。

 胸は大きくないが小さくもない。引き締まった腰回りとウエスト。すらりと伸びた脚も恰好が良いと思う。


 しかし、誰も褒めてくれない。


 香織は姿見の前でポーズを取り表情を作る。


 笑顔。

 どや顔。

 不貞腐れた顔。


 どれもそれなりに可愛いじゃないか。


 悔しくてあっかんべーをしてしまう。


 一人で何をやっているんだと幻滅してしまう。その時、誰かが部屋の前に来た。扉がノックされた。


「三谷だ。いいかな?」

「どうぞ」


 香織の同意で扉のロックは自動解除される。

 入って来たのはレスキュー部隊総司令の三谷みたに朱人あけひとだった。


 働き盛りの40代。宇宙飛行士にしては珍しい長髪にパーマをかけているもじゃもじゃの髪型が痛いと感じている。そう、その髪型はどこぞの音楽室にある肖像みたいじゃないかといつも突っ込みたくなるのだが、それを香織は我慢していた。


「直接部屋に来られなくても、呼び出されれば」

「すまない。ちょうどここを通りがかったものでね。新しい隊長の人選が済んだのだ。情報は管理システムにアクセスして確認しておいてくれ」

「分かりました。そのような用事であればメールで十分かと思うのですが」

「いや、新しい隊長は男性なんだよ」

「え?」

「だから事前に話をしておきたかったんだ」


 香織は無意識に三谷を睨んでいた。

 三谷は咄嗟に目をそらした。


 香織はその表情で察した。またやってしまった。

 この鋭い眼差し。これが自分が鬼と呼ばれる所以であることはとうに気付いていた。しかし、こればかりはなかなか直すことができない。


「分かりました。風紀が乱れないよう最大限注意を払います」

「そうしてくれ」

「それと……対外的にはどうするのでしょうか? 私たちはレスキュー部隊であると同時に美少女アイドルユニットでもあります。隊長が男性ではその意義が失われるのではありませんか?」

「その点に関しては心配しなくていい。こちらで対処する」

「分かりました」


 対処って。どう対処するのだろうか。香織には理解できなかった。

 しかし、隊長は男性である方がチームとしては動きやすいのではないかとも思っていた。エロい親父でなければ。

 

 その時、三谷の携帯端末から緊急時に発せられる警報が鳴った。

 同時に施設内放送がかかった。


『三谷総司令。CICまでお越しください。繰り返します。三谷総司令。CICまで』


 これは携帯端末の警報と施設内放送が重なる時は、緊急を要する事態が発生した事を意味する。三谷は自身の持つ携帯端末を操作し、それをポケットに仕舞う。


「何か緊急事態が発生したようだね。君もCICまで来てくれないか」

「了解しました」


 香織は壁に掛けてあった制帽を取り三谷と共に部屋を出た。

 これは一か月ぶりの出動になる。


 香織は直感的にそう感じていた。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます