第36話 年代物
埃を被った
食器は使われた形跡が殆ど残っていないほど放置され、埃っぽかったが、それでも男六人が
然し、温飯とはいえ
故に食事は怠惰なもので、作戦会議のついでにされていた。
「……で、結局パートナーはどうすんだ? 因みに、俺の知り合いには『戦闘技術に覚えがある』なんていう物騒な女は居ないからな。」
ヨハンが夕飯を運ぶや否や、口を切ったのはプシエア。続いて、まだカトラリーにすら触れていないデル署長が口を開いた。
「だから言っただろう? 引き入れる――だが
その質問に対し、ヨハンは苦笑。続いて視線を向けられたズミアダは、手を払うジェスチャーをし、ハシギルは首を横に振った。
そして次は、俺――
然し、俺は久しくその話題について考えないようにしていた――と謂うより、彼女のこと自体を、平生から剥離させていたのだ。
だから俺は、無用な質問をされないようにと、署長の口が再び開く前に、自ら話を切り出した。気分は決して良いものではなかった。
「“彼女“なら消えましたよ。貴方も知っているでしょう? “ジョディ“のことを。」
「……あぁ、ルディマフィアのボスである“ジョン・パルコ・ルディ“を殺し、追われていた『Joe殺しの“Jodie“』だね?
そういえば、私の友人から依頼されたジョディ護衛の仕事を、
「――それについては、話せません。彼女を捜そうにも、ジョディは仮名ですから手間がかかる。それに彼女は賞金稼ぎだ。仕事上、雲隠れはお手の物。
……とはいえ、何でも屋は当てにならないでしょう。奴等の殆どは金だけを信じているが、命と金を天秤にかけるほど馬鹿じゃない。今回の様な大仕事に、命を賭けて働くような何でも屋を見つけるのは、ほぼ不可能。
それも、明日の夜までに見つけなければならないというのなら、尚更ですよ。」
「ふん。結局、皆アテは無しか……一人で行くか? 然しそれでは……」
署長はそう呟くと、夕飯を口に運びながら暫し黙考した。それに連れて、皆も策を練りながら一先ず、夕飯を食べ切ることにした。
そして時は過ぎ。丁度夕飯を食べ終えようとした時。ふとプシエアがカトラリーを置き、頭を
「ズミアダ……お前、女装しろ。」
皆の手が停まる――普段は無表情なハシギルも、これには
「ん? 今、何て言った???」
「女装だよ――お前はチビだし、
プシエアの心情を
「今年で26だよ。」
「そうだったな、こん中じゃあ一番若いだろう? お前が適任だ!」
『「はぁ……」』
そんな、プシエアの突拍子もない机上の空論に対する、皆の
然し俺は、そんな突拍子もない話に賛成していた。
俺は少し推考してから、直ぐにその意思を言葉にした。
「アリだな。」
その言葉に
「ハ、ハァア〜?!?!」
「だよなぁ? アリだよなぁ?!」
「そう
然し、ズミアダをパーティーへ参加させ、サーバールームへ侵入出来たのなら、サーバーへアクセスし、そこから様々な支援を受けられるだろう。
特に――大胆な計画を実行するのなら、この支援は必須となるだろう。GCAタワービルにも、警備・傭兵ロボは居る。それも、人間の傭兵より数多く、な。
これは人間よりも厄介だ。戦闘に陥った際は、最大の脅威となる――が、サーバーからの乗っ取りが成功したのなら最強の味方となるだろう。」
俺がその奇策を言い終えると、今度はハシギルが重い口を開いた。
「無茶だな――サーバールームは恐らく監視され、入室するにも生体認証等の“鍵“が必要だろう。仮に生体認証だった場合、登録されているGCA社員を連れ、解除させる必要がある。
勿論、そこにズミアダがたった一人で侵入することは、ほぼ不可能だ。
そして、監視・制御等を担う
加えて、俺達はGCAタワービルの見取り図を持っていない。つまりサーバールームの位置も、中央管理室の位置も把握していない。登録された
この問題をどう解決する?」
確かに彼の言う通りだ――敷居は高く。装備が如何に潤沢だったとしても、たった6人では勝てる見込みは無いに等しい。問題を解決しようとすると、更なる問題が露呈する。
然し、「“エグカ・ジンス“の死体」と「GCA内で“エグカ・ジンス“を示すもの」を見つければ、GCAと“エグカ・ジンス“の関係性と、“エグカ・ジンス“が受けた人体実験を示すことが出来る。
それが成功したのなら「GCAと“組織“の関係性を示すもの」を見つけ出す。そうすれば、この戦いは終わる筈だ。
これはその第一歩である「GCA内で“エグカ・ジンス“を示すもの」を見つける作戦だ。だが、“エグカ・ジンス“の死体が処分される前に作戦を終わらせる必要がある。
いや、厳密には“エグカ・ジンス“を含む、“被験者“の死体とデータが消される前に済ませなければ――全てが水泡に帰す。
『せめて……見取り図が有れば……』
俺がそう切望していた時。署長が食後の一服の薫りを、食卓上に漂わせ始め、それから煙と共に興味深い話を始めた。
「私なら手配出来る――古いものになるだろうが、私が見取り図を入手してこよう。」
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