ある夏の日の恋のはなし

石田夏目

ある夏の日の恋のはなし

私は恋した 。

生まれてはじめての恋である。

草野拓也…それが彼の名前だ

クラスでは特に目立つ存在ではないが友達は

多い。勉強はあまり得意ではないようだが無遅刻、無欠席で授業態度もとても真面目だ。

私が彼を好きになったきっかけは、野球部の練習試合を見に行った時である。

その時の試合は気づけばかなりの点差が開いてゆき結局大敗を喫してしまった。

部員たちは皆気丈に振る舞っていたが彼だけは大声をあげ泣いていた。

彼はスタメンどころかベンチいりメンバーでもなかった。けれど彼は誰よりも大声で応援していたし試合中どんなに負けていてもチームメイトを力強く励ましていた。

その時彼のこと馬鹿だなと思った。

けれど同時に羨ましくも思えた。

彼は私にはないものをたくさん持っていた。

私はきっと彼と同じ状況にいても彼のようにはできない。

私はその日から彼のことを見ると目で追いかけるようになっていった。

その気持ちが恋心だと気づくまでそう時間はかからなかった。


その日は雲ひとつない快晴だった。朝の占いでは一位だったし、いつも押し潰されながら乗る電車にもすんなり乗れた。そしてそんな日に彼が私の目の前に現れたのである。

まるで神様が今告白しなさいと言っているかのようだった。

そして私は彼に告白した

けれど返ってきた答えははいとかいいえとかそんな簡単な答えではなかった

そこから先どうやって家に帰ったのかそれは正直覚えていない

ただ家に帰ると制服のままベットに体をなげ天井を仰いだ

彼のためにずっと伸ばしていた髪もひそかに買ったかわいい下着も

ぜんぶ。ぜんぶ。ぜんぶ。

私は考えるのをやめ目を閉じた

このまま永遠に目覚めなくなればいいのに

そして彼を好きな気持ち全部なくなってしまえばいいのに


「あれ?髪切ったのか?お前髪伸ばしてただろ?」

昔から春斗は私のどんな変化にもよく気づく

春斗がモテる要因はきっとこういうところなのだろう

「…まぁ短いのも似合うけどさ」

「伸ばす必要なくなったから切ったの。暑いし」

今日は本当に暑い。外に一歩でただけで思わず顔をしかめてしまったほどである。

春斗は黙ったまま正面の椅子に座り私の顔をじっとみた

「草野のこと好きだったんだろ?」

日誌を書く手が止まる

セミの鳴く声だけがやけに大きく教室に響いた

「気づいてたの?」

「そりゃ幼なじみですから。試合中いくらヒット打っても俺の方全然見てないし」

頬杖をつきながら窓の外を眺めている。

まだ外は明るい

「私じゃなくても応援隊がたくさんいるでしょ?」

再びペンを持ち日誌を書き進めた

今日の天気は快晴

気温は30℃

「なぁ…俺じゃダメか」

ぽきっと音をたてシャープペンシルの芯が折れた

まっすぐ春斗の顔を見る

あぁ春斗の目はこんなにきれいだったんだと今更ながらに思った

「俺さ…」

(やめて…)

「ずっとお前のことが…」

(お願い。言わないで)

「好きだったんだ。」

「どうして…」

「えっ?」

「どうして今言うの…?」

目から涙がこぼれ頬をつたった

「…お前なんで泣いて」

「春斗には言いたくない…春斗にだけは…」

「それってどういう…」

下を向き唇をぎゅっとつよく噛んだ。今は春斗の顔を見たくはなかった

「ごめん。私。帰るね。」


あの日のことが今でも昨日のことのように思い出せる

あれは一年前の暑い夏の日。雲ひとつない快晴だったのに夜から急に強い雨が降った。

「…俺お前の気持ちに気づいた。だけど悪い。どれだけ待ってもらってもお前の気持ちには答えられない」

「えっ…どうして」

「俺は…」

「春斗が好きなんだ。」


私は失恋をした。

生まれてはじめての失恋である。

けれど今でもどうしようもなく彼が好きなのである。

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