果てを目指して

椎名透

 世界の果てにはハジマリとオワリがあるのだと言われている。

 人類の敵である魔獣のハジマリと、人類と魔獣の争いのオワリ。


 大陸の北西にあると言われる魔獣の森の向こう側。人類未到達の世界の果て。そこにたどり着けたならば、【魔獣の母】を殺し、すべての魔獣を消し去れるだろう。


 ずっと昔から伝わるその話を信じて、多くの勇者が世界の果てを目指して旅立った。

 けれども、誰一人として帰ってきたものはいない。森に――果てに近づけば近づくほど魔獣は強くなる。彼らはみな果てを目指して、おそらくは魔獣の力の前に散っていったのだろう。

 魔獣が現れてから、千二百年。それも記録が確認できる年数というだけであって、記録が残されなかった時代から魔獣がいた可能性も否定できない。

 それだけの長い間、人類は魔獣と闘い続け、世界の果てを目指し……一つの成果も得られずにいる。


 もしかしたら、世界の果てにはハジマリもオワリもないのかもしれない。

 それを見つけられなくて、あるいはもっとひどい何かがあって、みな帰ってこられないのかもしれない。


 その可能性はずいぶん前から考えられてきた。

 果てを目指してもどうしようもない。そこにたどり着いたって魔獣が消えることなんてない。

 そんな考えにたどり着くのも当然といえるだろう。

 それでも果てを目指す勇者バカは絶えない。

 理由は単純。人類には、それしか縋るものが残っていないのだ。


 果てに何があるのかわからない。

 わからないからこそ、という可能性に縋らずにはいられない。

 世界の果てにはきちんとオワリがあるのだと。【魔獣の母】を殺せば、人類と魔獣の戦いも決着するのだと。

 そんな夢物語を信じずにはいられないのだ。


 そんなことを信じているなんてバカだと言う人もいる。そんなことあるわけないと否定する人もいる。

 そして、そう言われても果てを目指そうとする大馬鹿者も、当然いる。


 ――天歴一二一九年。

 そんな六人の馬鹿が、旅をはじめた。


 奇跡も、どんでん返しもない、果てを目指す旅をはじめた。

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