コウベヲモタゲテ、アユミヲススメヨ、

@tsuboy

序章

 僕の鼓動・・・とくり、それは闇に流れる唯一の音だ。こだまも前触れも無い空間で、僕はその音を聞いている。とくり、その音が僕を撫で溶かし、一つ打つごとに・・・真っ黒な海を落ちている。

 圧力に歪められた空間・・・とくり、そこに闇が浮遊している。物質になりきれなかったものが形象る闇。そこに記憶が波打っている。とくり、死んだ魚のように、闇を漂い、僕との融合を望んでいる。

 呼び誘う、それ、とくり、笑顔をつくり、応える。手を伸ばし、闇を押し退け、死んだ、その魚に近付く。指が触れ、とくり、記憶に手を浸す。それが手の内で弾け、指の腹をなでる。どくり、身体に染み込んで繊維を残し、どくり、僕を湿らせる。

 それは包み込み、皮膚に拡がり、膜のように閉じ込める。どくり、膜が粘りつき、身体を腐食させ、どくり、泥のような色に変える。どくり、それは、どくっ、僕を溶かし、どくっ、喰らって、いる・・・どぐっ。

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