第65話 根室重光が根室容保と再会すること④

 突然の参戦宣言に独特な間が流れた。

 『岡田先生がですか……?』

 「信南子……おまえ何を言っとる?」

 「信南子さん悪い冗談は……」

 身内の住職と埜口の父上はおろか、今日が初対面である我が父からも〝無理だろ?〟な反応を返されたのもお構いなしに先生は続ける。


 「幽香ちゃんが攫われたのはわたしの責任です。ロッくんたちと一緒に行きます」

 「駄目ですよ。先生はここで待っていてください」

 「なぜですか? なぜわたしは連れて行けないんですか?」

 「だって……危険ですよ」

 「女はひっこんでろとか言うつもりですか?」

 「言いませんよ。でも」

 幽香ぐらいの馬鹿力や打たれ強さがある女性なら喜んで同行してもらう。しかし、自分が修羅場にそぐわない人間という自覚はないんだろうかこの人は。


 「信南子姉さん、昔ふたりでお住持さまの妖魂祓いを手伝ったとき、妖魂を見ただけで泣きわめいて逃げたのを覚えてる?」

 半六なりの優しさで古傷をえぐる。

 「あ、あれから少しは胆力もつきました」

 俺も身を切る思いで大量発生した妖魂の襲撃時の醜態を指摘した。

 「今朝はやたら取り乱してましたよね?」

 「で、でも……!」


 一瞬泣きそうな顔でたじろいだが先生は執拗に食いつてくる。

 「教え子が危地へ向かうのを黙って見送るだけなんてできません! 皆さんに何と言われようと一緒に行きます!」

 「とにかく駄目です!」

 「行きます!」

 「駄目ったら駄目です!」

 「行くったら行くのー!」


 「信南子さん、根室くんたちを困らせては駄目だよ」

 駄目×行くを繰り返すこと数回、見かねた埜口パパの栄之助さんが背後から包むように先生をなだめにかかってくれた。

 「人には各々ふさわしい戦場があるんだ。君は僕とここでお住持様の御祈祷をお手伝いする。より多くの観音力が溜まるようにね」

 「お義兄にいさんがそうやって子供あつかいするから、わたしはいつまでたっても皆の足を引っぱってばかりなんです!」

 栄之助さんの手を払いのけて、先生は肩で息をする。

 どうやらこの人にも乗り越えたい人生の課題があるようだ。


 「もうよい栄之助、好きにさせてやれい」

 「お住持さま?」

 「ありがとうございます伯父さま!」

 「しかし信南子、反対を押し切って行く以上は」

 「はい、絶対足手まといにはなりません」

 どうしたものかと半六を見ると納得してくれと頼む仕草をされた。もう水掛け論に費やす時間も惜しい。ここは住職の鶴の一声に従おう。


 「仕方ないなあ。姉さん、自分の身は自分で守ってよ」

 「もちろんです。六くんと根室くんもわたしが守ってあげますから、大船に乗ったつもりでいてくださいね」

 失礼ながら彼女は泥船にしか見えない。

 「心強いことですね」

 『先生には私を運んで行ってもらいましょうかな。現場で重光たちに色々とアドバイスをしてやりたいので』

 親父が妥当な仕事を考案しパーティーのメンツは決まった。


 戦支度は十五分とかからなかった。

 背嚢リュックの中には三光大明神と日天・月天を初めとする所有の神電池を全種2本ずつ、埜口おすすめの電池式玩具を一式。先生の手には父を映す水晶玉。

 少なからぬ不安要素を含みながらも、幽香の奪還、鬼神復活の阻止、青銅の孔雀討伐の使命を背負った突撃部隊が境内の古井戸の前に集まる。


 結界のドームに覆われた学校へどう潜入したものかと問うと、お住持さまに一体何を迷う必要があるのかと即答されたのだ。

 「おまえさんの学校へ直行の道がある」

 まさかこの井戸が立誠高校の枯井戸へ通じているとは。

 「立誠高校が元は星願寺の敷地に建てられたことを考えれば当然じゃろう。今は民家が複雑に入り組んで遠く感じるが、地下から行けば案外近いぞ」

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