第12話 根室重光が埜口半六に会うこと②

 これはどういう分野に属する現象だろう? 科学か? オカルトか?

 掌で電池を転がし、とぼとぼ家路を歩きながら俺は思案する。

 神棚のミニ燈篭から乾電池を出してみると、商品名や製造元やその他の記述は消えさっており、代わりに三光宮の神紋である日月星の紋が印刷されていた。

 城南宮の社紋を圧縮したような月輪の中に大小の星が並ぶデザインである。


 「学校で詳しそうな奴に聞いてみる」

 幽香にはそう言ったので、実際に聞いてみると異口同音にB組の埜口くんなら知っているんじゃないかという返事であった。

 まずはエレクトロニクス研究会へ持ち込んでみたが、埜口半六も転入したきた日に同様の電池を持ち込んで大事な機械をショートさせたので退会処分になったと聞いた。

 続いて降霊術クラブで意見を求めると、部で一番の的中率を誇る女子の占星術で、B組の埜口半六に問うのが最善とのお告げを賜った。


 (埜口半六やぐちはんろくねえ……)

 なぜか看過される緑の頭髪と人懐っこい笑顔が印象的な細見の男子。

 奈良市の仏教系スクールからの転入生で、家は星願寺という寺院の檀家というから、この種の相談を持ち掛けるには適任と思える。

 しかしB組を訪ねてみると学校を休んでいるという。今日は金曜日だから、次に会える機会があるのは早くても明日後になる。

 何にせよ放置しておくとまずい予感がするので、来週は絶対聞こう。


 金色の円筒を握りしめて決意した後の出来事に俺は一種の天啓を感じる。

先に帰宅しているはずの幽香の悲鳴が聞こえてきたのだ。

 うっかりしていると聞き逃すほど遠方からであったが、間違いなく我が従妹が危急時にあげる声だった。

 まさか寄り道でもして、痴漢の類に絡まれてるとか?

 (まったく! 異常者ならぶっとばしても許すと教えてるだろ!)

 俺は声のした方角へ全力でダッシュした。


 あいつの怪力を知ったのは俺の家へ来た翌日だった。

 荷物の運送を頼んだ業者の質が低く、途中でトラックが追突事故を起こすや、品の悪いドライバーは悪態をついて逃げてしまった。

 こっちの手落ちでないことは警察はすぐに理解してくれたので、事情聴取に長く拘束されずに済んだのは助かったが、問題は荷物をどうするかだった。

 清貧を旨とする家庭で育った娘だけに大して物持ちではなかったけれど、荷物はそれなりの量がある。


 「仕方ない。人力で運ぼう」

 同乗していた俺は、ちょうど衝突現場の近くにあった小学校で事情を説明してリヤカーを借りて、それに荷物を乗せると引手を握って前進した。

 想像以上に重い。一歩進むごとに汗が噴き出す。

 「変わりましょうか?」

 幽香がのほほんと言ってのけたのを俺は侮辱と受け取った。

 「女一人にはあまる仕事だ。せいぜい後ろで押してくれ」

 「いいえ、わたしの荷物なんですから、わたしに任せてください」

 割り込んできて引手を持つ。たちまちリヤカーはスイスイ進んだ。

 片手でキャリーバッグでも引くかのように坂道も物の数とはしなかった。


 「おまえ……すごいな……」

 「人よりちょっと力持ちなだけですよ」

 「ちょっとじゃ積載量100㎏は動かせんぞ」

 「普通の女の子には無理なんですよねー、不思議ですねー、持ってみると案外軽いものなんですけどねー。みんな鍛え方が足りないんじゃないですかねー」

 後はもう、ただただ幽香の怪力に舌を巻くばかりであった。


 俺が他人からは過激と受け取られそうな折檻をくわえがちなのも、我が従妹には常人の枠を超えた怪力が備わっていると理解した上でのことなのだ。

 本気を出せば、大抵の男など問題外のはずだ。事実、後にミスター凶悪をワンパンで倒している。

 故に万が一、つまらん理由で悲鳴をあげてたら殺す。

 たかの知れた与太者に怯えていたら埋める。

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