騎士としての日々
第13話 ユーマの牽制
ユーマが十四歳になり、再び人間と共に過ごす日がやってきた。
王都『ゴルクル』、前は魔王に個人的な恨みのある人間がいるところであったため、勇者とはほとんど縁もゆかりもない地が選ばれた。
二国しかない小さな大陸、周囲には緑豊かな環境で、魔族との争いも比較的少ない場所である。
ユーマがこのうちの一つの王都にある騎士士官学校に入学する手続きの際に、魔王が出向き、国王と直々に交渉した。魔王が王都を訪問することで住民はパニックになりかけたものの、第一民であることのゆとりから魔王の訪問を歓迎する余裕があった。
交渉内容もユーマの入学であったことに国王は魔王の息子を預かることを光栄に思い、自国の発展に大きくつながると喜び、国民もユーマを受け入れるに十分な心の準備ができた。
「皆、席につけ」
教官が百人の生徒を収容できる教室の教壇で生徒たちを着席させる。その横には、他の生徒と同じように騎士の制服を身にまとい、張りつめた顔をするユーマが立っていた。
「皆に連絡していたように、入学式には間に合わなかったが、今日から一緒に立派な騎士を目指す仲間だ。ユーマ様、皆に挨拶を」
教官がユーマに気を使いながら自己紹介をするよう促す。ユーマは表情を変えず、高圧的で誰も寄せ付けようとしない態度のまま口を開く。
「ユーマ・シルバー・アラサルト」
「……それだけ……でしょうか?」
「はい」
「いや……もっとこう、これから仲間になる彼らに自分の事を……」
あっさりとしすぎる紹介に教官はつい口に出る。教官の困り顔にユーマがため息をつきながらこれから共に学ぶ同期を見渡す。
「知っての通り、僕は魔王、マーデル・シルバー・アラサルトの息子です。去年、人間の街で二か月間過ごしましたが、イジメにあい、殺されかけました。それに怒った母はその街を周囲の村ごと消し去りました。だから皆さん、僕にあまり関わらないのが身のためです」
「ちょっ、ユーマ様!」
教官が突然の物言いに慌てふためく、生徒たちはドン引き、歓迎ムードから教室内が一気に白ける。
「これでいいんです。僕は半分魔族ですから、人間と仲良くできないことは知っています。みんなも僕に気を使いながら生活するのは窮屈でしょうから、勉強の邪魔さえされなければ僕は十分です」
人間として生きるため魔力封印したものの、『カルカサ』での経験はユーマの心に深く傷を作っていた。どんなことがあっても以前のような最低な状況に追い込まれるのだけは避けたいというのが心境だった。
ユーマが自分の気持ちを言い終えると、張っていた威圧的な気を消し、表情を暗くする。ユーマの行動に意味も分からず生徒も教官も掛ける言葉が見つからず、黙ってしまった。
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