第6話 親子の色
その後の送別会はユートが旅立つ三日間続けられた。
魔王城のみならず、その周辺の魔族の町までもが魔王の息子の門出を祝うためのお祭り騒ぎだった。
こういった祝い事には人間を使った料理も出されたりするのだが、
そういったものは一切出なかったし、そうしようとする者はいなかった。
それは他ならない半分人間であるユーマを気遣ってのことであり、
ユーマの存在はそうさせるだけ魔族に影響のあるものであった。
この送別会はユーマのためであるが、肝心の本人はそれを楽しむことはできなかった。
この後に来る人間との生活に不安を抱えるだけであっという間に過ぎてしまった。
旅立つ朝、ユーマは自室で準備をしていた。
準備といっても大方の物は向こうで用意されているため持っていくものはたかが知れていた。
二冊の魔導書、三日分の着替え、その程度の物だった。
その少ない荷物をカバンに詰め、ベッドの上に横たわり、天井を見上げる。
「いよいよか」
十三年間過ごした家、ほとんど外出しなかった彼にとってそこが全ての世界だった。
退屈に思うこともあっただろうが、いざここを離れるとなると寂しく思うのは必然だった。
これから新たな土地で生活をする彼には始めから持っている不安な気持ちだけがある。
そんなことを考えていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「ユーマ」
「なに? お母さん」
ユーマは起き上がり入ってきた魔王に体を向ける。魔王はニコニコした様子で手に持っている物をユーマに突き出す。
「ジャーン」
「何それ?」
「お守りよ」
「お守り?」
魔王の手には銀色のブレスレットが一つあった。それを差し出しながらユーマの隣へ腰かける。
「そうよ。あなたのために作ったの。これを着けていれば、あなたはいつだってお母さんと一緒よ」
「わざわざそんな物用意しなくたって」
「なに言ってるのよ。これぐらい素直に受け取りなさいよ」
魔王としての風格を滲ませながら詰め寄る。
その圧力にユーマはそれ以上拒否することはできなかった。
魔王はユーマの左腕を取り、その輝くブレスレットをやさしく嵌める。
「ああ、ありがとう。でも、銀色って……お守りにしては派手じゃないかな」
ユーマはまじまじとブレスレットを眺めていると、魔王は優しく微笑む。
「ユーマはユート似だからね」
「……どういう事?」
ブレスレットの色と父親似であることに合点がいかないユーマはすぐに尋ねる。
「フフフ、何で私たちの名前に色が入っているか分かる?」
「考えたこともないよ」
「ある一定の強さがある魔族にとって髪の色は一族の証明なの。マーデル・シルバー・アラサルトのシルバーの名の通り、私は銀色の髪をしているわ。でも、あなたは黒髪、それが悪いわけじゃないけど、今までの家系を考えると少しね」
「そんなことぐらいで……」
「あら、大切なことよ。だからこれはあなたが私の息子である証明、シルバーの名を持つ者としていつでも身に付けていなさい。それが家族の証よ」
「お母さん……」
ユーマにとって嬉しい物であった。
可愛がり方が異常な時もあるが、そのブレスレットが離れていても親子であると証明するものであることを意味していたからだ。
親に愛されているということを悪く思う子供はいない。
もらったブレスレットをしっかりと噛みしめるように右手で包む。
「ありがとう、お母さん。大切にするよ」
「フフフ、頑張ってらっしゃい」
渡すものをしっかりと受け取る様子を見て魔王は部屋をあとにしようとしたが、思い出したかのようにすぐ立ち止まった。
「そうだ。最後にもう一度抱きしめさせて」
「断る」
ユーマはキッパリと言った。
だだし、その発言は意味もなく、魔王に抱きしめられるのであった。
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