100年先もずっと…
そよかぜ
第1話
”ヒューッドーン”
”パラパラパラ”
まるにしかく、どせいのかたち…形も様々な色とりどりの可憐な花火が夜空を飾る。
それを見上げる人々の顔も花火の色に染まり、とても綺麗だ。
今日はこの神社の夏祭り。
日が沈んだ頃から、神社は賑やかになりだしあちらこちらから笑い声が響いている。
屋台も沢山出て、食慾をそそる香りがしてくる。
わたあめを持つ子、金魚釣りをするカップル、手を繋ぎ花火を見つめる老夫婦…皆笑顔だ。
俺はこの景色が大好きだ。
俺はこの神社の守り神、九尾の妖狐。
もう何百年も生きている。生き続けている。
俺が生を受けたのは今からずっとずっと前、まだ刀を持つ人間達がゴロゴロいた頃だ。
あの頃はこの神社も新築だった。
毎日のようにお供え物はされるし、掃除はされるし、俺はその名の通り神様だった。
その時代から少したってこの神社はまだ使われていた。
この神社は少しこだかい丘の上に建っている。
だから待ち合わせによく使われた。
俺は楽しかったんだ。
頬を赤く染めた男女が手をつなぎながらここから去っていくのを見守るのが。
時計を何度もチラチラ見ながら彼氏彼女を待つ人間を見守るのが。
だけど今は違う。変わってしまった。
もうここは待ち合わせ場所に使われないんだ。
今は皆スマホ?とかいう薄い機械にしか興味がないらしい。そのスマホに向かって笑ったり、怒ったり…。友と会った時も互いにスマホをしている。現に今この瞬間も片手にスマホを握っている人間達がほとんどだ。あれで友と会っている意味はあるのかと疑問に思うのだがあれが現代の形なんだろう。
ここにはもう人は来ない。
悲しいけどしょうがない。
時代が変わったのだ。
だけど
この日だけが俺の楽しみなんだ。
だってこの神社を参拝するのは今では年に数人だけ。
下手したら参拝する人がいない年だってある。
この神社は縁結び、良縁…等縁起のいい神社なんだ。だからたくさんの人に来てもらいたい。
だけどそれは叶わない夢なんだ…。
だから
ここにいる全員を幸福にしてあげたい。
出来ればこれからずっと100年先だって俺はみんなを見守り続けたい。
だからお願い。
ここを無くさないでくれ。
ショッピングモールが建つのもいい、立体駐車場が出来るのもいい、
それはそれで沢山の人々の笑顔をつくることができるのだろう。
だけどここ、この神社のあるこの山だけは取り壊さないでくれ。
俺は知っている。
近々ここが取り壊される事を…。
この祭りはその決起集会の意も含んでいると。
俺はここの守り神。
山を取り壊すヤツらを祟る、呪うなんて事は出来ない。やりたくない。
だけどこの山に住む動物たちの守り神でもある。
もし人間達が森を壊しにやってきたら俺はお前達を攻撃しなくてはならないんだ。
だって森は動物たちの住処だから。
お前達だって嫌だろ?急に自分の家を壊されたら。
だから頼む人間よ。
もう一度考え直してくれ。
これ以上森を壊さなくてもいいだろ?
だってもう充分裕福じゃないか。
地球に有毒な排気ガスを出し続け、海にゴミを捨て、山を切り開いて高速道路を建て…もう十分じゃないか。
頼む。
もうよしてくれ。
俺は10年先も100年先もずっとずっと、この地域をこの山をここに住む動物たちをここの人々を守り続けたいんだ。
100年先もずっと… そよかぜ @skyoao
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