第2話 首を突っ込んだら抜けなくなった話
「よーーーーし、よし、よし………」
誰のモノマネか妙にしわがれた声で大型三毛猫を激しく撫でまわすみかん。
三毛猫の方も完全にリラックスしているのか気持ち良さそうに喉を鳴らし、仰向けになりみかんに腹を見せている。
「スーー、ハーー、スーー、ハーー………この匂いが堪らんのですよ」
その腹に顔を埋め深呼吸を繰り返し、悦に入るみかんの様子を何とも複雑な表情で見つめる林檎がいた。
「あの馬鹿、何をやっているんだ………あいつには危機感って物がないのか」
「え~と………みかんさんらしいと言えばらしいのですが………」
「レモン、お前もあんまりみかんを甘やかすんじゃないよ? そうで無くてもあいつは危なっかしいんだから」
「あっ、ごめんなさい………」
「いや、だからお前も何でもすぐに謝る癖を止めな? だからお前は………」
そう言いかけて林檎は僅かにハッとなって口をつむぐ。
「ゴメン………無神経だった、こんな状態だから気が立っていたのかもしれない」
「いいんです、気にしないでください………本当の事ですから」
二人共目を伏せ黙り込んでしまった。
「何してんだよ二人共!! みんなでタマゾウをモフろうぜ!!」
「うわあ!! 何だ!?」
「きゃっ!!」
いきなり林檎とレモンにみかんが両手を広げて飛び掛かって来た。
そのまま地面に倒れ込む三人。
「危ないな!! ってかタマゾウって何だ!?」
「タマゾウはタマゾウだ、あたしが名付けた」
「あの猫の名前か!? 勝手に名付けるな!!」
やはり性分なのか長年染み付いた習慣なのか、呼吸をするように自然とみかんにツッコミを入れる林檎。
さっきまでの微妙な空気が嘘の様だ。
(やはり敵いませんね、みかんさんには………私と林檎が険悪になっているのを察して行動に出られるなんて)
レモンはふたりの口喧嘩を見ながら寂しそうな笑みを浮かべた。
「ほらほら二人共、タマゾウと挨拶しよう!!」
「挨拶っていったって猫とどう挨拶するんだよ!!」
半ばみかんに押し切られる感じで林檎とレモンは、みかんがタマゾウと勝手に名付けた大型三毛猫の所までやって来ていた。
「みかんよ、そちらの二人とは話は付いたのかニャ?」
ムクリと起き上がったタマゾウはこちらに近付いて来て、やたらと渋い声でこちらに話しかけてきた。
「しゃっ………シャベッターーーーー!!!」
あまりの予期せぬ事態に思わずタマゾウを指差し大声で叫ぶ。
レモンも泥期のあまり目を見開き、大きく空いた口に手を当てている。
「初対面の者に指差す行為はあまり関心しないニャお嬢さん…これでも私は男爵の爵位を頂いてるニャ
我はリチャード………このシャノワール王国の騎士だニャ
本来なら我は貴様らの様な下賤のものが軽々しく口を聞ける存在ではないのだニャン」
あからさまに林檎を見下したようなしたり顔の三毛猫………林檎のこめかみの血管が浮き出、顔が引きつる。
「みかんちょっと来い………」
「なに?」
みかんの肩に手を回し、猫に背を向け少し離れた。
「この猫がしゃべれるのを何で黙っていたーーー!!」
「いつつっ………そこまで怒る事ないじゃん」
拳を握りしめる林檎と湯気の上がる頭を押さえて痛がるみかん。
ここから林檎はヒソヒソ声で語り始める。
「あんな猫如きに大きな顔をされるのは我慢ならん、ここはアタイがガツンとだな………」
「あの、それは
「レモン? 何でだよ?」
「バタバタとして忘れさられてますけど、私たちが置かれている状況が分かりません
ここが私たちの住んでいた世界で無いという事は想像がつくのですが、どうしたら元の世界に帰れるのか、いえそもそも帰れるのかどうか………」
「ちょっと待て、アタイたちはもう元の世界には戻れないってのか?」
「それは分かりません、ですから今は少しでも多くの情報が欲しい………
あの猫さんはここの住人なのですから会話が出来る以上色々と情報を聞き出したい所ですね」
「それは………そうだな」
「だから例え理不尽でも猫さんの機嫌を損ねるのは得策ではないと思うんです、最悪は食べられたり殺されたりするかもしれません、そうなっては元の世界に戻る事も出来なくなってしまいます」
「ぐむむ………確かに」
「まずは拠点を確保しなければ………このままでは野宿をする羽目になるかも知れませんよ? 彼について行けば食料と寝床くらいは手に入るでしょう」
「分かったよ………」
唇を噛みしめる林檎、しかしここはレモンの言う通り我慢の時だ。
だが改めてこの異世界に飛ばされたのが自分とみかんだけでなかった事にホッとする林檎。
レモンがいてくれて良かった………彼女の冷静で的確な助言はこの未知の世界に遭って得難い安心感に繋がる。
『もうそろそろいいかニャ? 話が全く進まないのニャけど………』
タマゾウことリチャードが前足を舐め顔を洗っている、猫がよくやる仕草だ。
「先程は大変失礼しましたリチャード様!! アタシは林檎、青森林檎です!!」
「初めまして、私は瀬戸内レモンです、
ぺこりとお辞儀をする二人。
「あたしはみかん!! JKやってまーーーーーーす!!」
「みかん、それは初めて会った時に聞いたニャ………」
「そうだっけ、エヘヘ」
舌をちろっとだしウインクして誤魔化す。
「それでは本題に入ろう、先程の話ニャが………」
「先程の話? 何の事だ?」
林檎は首を傾げる、何せみかんを除いて彼女たちがリチャードと会話をするのはこれが初めてだからだ。
「勿論、お前たちがこの戦さを終結させるという話ニャ」
林檎の頬の筋肉が引きつる。
「みかん~~~ちょっとおいで~~~」
「なに~~~?」
又してもみかんの肩に手を回して彼女を連れだす林檎………今度は不気味なほどの猫なで声で。
「なに勝手におかしな約束してるんだお前はーーーー!!」
みかんの頬っぺたを両側から激しく引っ張る林檎………面白い程良く伸びるみかんの頬。
「
手を放すとゴムの様に一瞬で元に戻るみかんの顔。
「酷いな~~~暴力反対………」
「どっちが酷い!! お前の頭の中が一番酷いわ!!」
赤くなった頬をさするみかんに対して一歩も引かない林檎。
「で? 何でそんな事になった? 怒らないから言ってごらん………」
「林檎ちゃんとレモンちゃんが気を失っている時に喉が渇いたんで水を探していたんだけど、近くにある池でタマゾウと会ってね、聞けばタマゾウの国はもう一つの国と戦争してるんだって」
「うん、さっきの話で何となく分かる」
林檎は冷静さを取り戻していた、みかんに対して怒らないと言ったのはどうやら本当の様だ。
「困ってるようだったから、それならあたしたちに任せろっていったんだよ」
「………」
林檎の頭の中が真っ白になった………馬鹿だ馬鹿だと思っていたがまさかここまで筋金入りだったとは………少々みかんを見くびっていた自分を恥じた、勿論逆の意味で。
「バカヤローーーー!! いやお前は馬鹿じゃない、大馬鹿野郎だ!!」
「え~~~っ!? 林檎ちゃん怒らないって言ったじゃん!! それに野郎は男の人に対して使う言葉だよ!?」
「こんな時だけ正しい知識をひけらかすんじゃない!!
何でそんな事になる!! お前、戦争を終わらせる方法知ってんのか!?」
「それはさ………話せば分かるんじゃないかなと思って」
「対話だけで終わるくらいならそもそも戦争なんか始まんねーーよ!! 無責任にも程がある!!」
みかんの胸ぐらを捕まえて吊るし上げる林檎、彼女の血管は破裂寸前だ。
慌ててレモンが止めに入る。
「落ち着いて林檎ちゃん、今更みかんちゃんに常識的判断を期待してはいけないわ」
「レモンちゃん酷い、なにげに傷つくんだけど………」
「それもそうだな、取り乱して済まなかった」
「更に傷つくんですけどーーーー!?」
「君たち!! さっきから何なんニャ!! 少しは大人しく出来ないのかニャ!? これでは話も出来ないニャ!!」
「あっ、ごめんタマゾウ………あたしの国には「女三人寄れば姦しい」って言葉があってね? 女が三人集まったら騒がしくしなきゃならない決まりなんだ~~~特にあたしたちJKはおしゃべりを止めたら死んでしまうんだよ、しょうがない事なんだよ、うん」
「そうなのか? 君らJKと言う種族は難儀な生態をしているのだニャ」
「はっ!? おいみかん!! なに出鱈目な事を言ってんだ!!」
みかんの飛んでも理論に付いて行けない林檎………一刻も早くブチ転がさねばならないと心の奥で誓いそうなその時………。
「林檎さん、ここは私に任せて………リチャードさんから改めて詳しい話を聞いて来ます」
「悪いなレモン、あの馬鹿のせいで………」
「ううん、ここでリチャードさんに恩を売る事が出来ればこれから先の行動に繋がると思うの」
「へっ、へえ………結局戦さの仲裁はするんだ?」
「そうですけど………何か?」
「いや別に………」
レモンの意外に黒い一面が垣間見え、林檎は背筋に冷たいものを感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます