勇者様は燃費がお悪い

餅々寿甘

プロローグ

 これは、勇者と魔王の物語である。



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 あるところに、2つの国があった。『ミスティリオ』と『アルセルク』。かつて長きに渡る争いの末に不可侵の契を結んだ両国家は、互いに干渉することなく平和に暮らしていた。

 しかし、穏やかな日々は突如として終わりを告げる。


 勇者歴1001年。

 ミスティリオで謎の病が広がり始めた。


 その病を発症した者はみな「フハハハッ」と笑ったり「たかが人間風情がぁあ!」と叫んだりをくり返した挙句、「我は魔王なり」などとのたまう。人々はその病をこう呼んだ。


 〝厨二びょ――――いや、〝魔王病〟と。


 ここまではただの滑稽な話だが、魔王病の真の恐ろしさは黒歴史生産力などではない。魔王病を発症したのは、すべて魔法使いだった。

 魔法は、使い手ならば一人の魔法使いが百の戦士を超える力である。そんな力の持ち主たちが魔王的思考を持った結果、ミスティリオは破壊と殺戮に染め上げられた。


 魔王を倒そうと立ち上がった者もいたが、ろくな成果は上がらない。魔王病は精神汚染に留まらず、身体をも魔王の名にふさわしい異形へ変貌させていた。

 アルセルクへの逃亡を試みる者もいたが、誰一人として叶わない。魔王の目をかい潜り国境を越えるなど、不可能だった。


 唯一の救いは魔法使いが千人に一人ほどの希少な存在あったため、患者の増加はすぐに止まったことだ。しかしその救いすら意味を持たないほどに、魔王たちの蹂躙は苛烈を極めた。


――――人類が滅亡の危機に瀕してから時は流れ、勇者暦1020年。

 今、ミスティリオで1人の勇者が生まれようとしていた。

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