第28話 レッドカーペット
最後の一人が来たため馬車は満員になり、御者はドアを閉めて御者台に乗り、手綱を手に取ってすぐさま発車する。
一方、車内では沈黙が続く。
するとフレイヤが遅れてきた人の紹介を始める。
「カズト、こいつはオリヴィアで女性初の近衛兵でヴィルヘルミナ様、つまりレナ様直属のメイド。」
続いてフレイヤはオリヴィアに俺の紹介をする。
「オリヴィア、こいつはカズトでエスターシュタットの領主になる予定の人。」
………えっ、それだけ?
まあ、特に何もしてないからそういう説明になるのか?
それともまだ俺を嫌ってるから雑な説明になってるのか??
「よ、よろしくお願いします………。」
俺はフレイヤの事は心に留めておいて、先にオリヴィアと仲良くなろうとゆっくりと手を差し伸べ、握手を求める。
すると笑顔でオリヴィアも手を差し伸べる。
「初めまして、よろしくお願いします。」
………あれ?予想していた反応と違った?
何か罵られると思っていたからちょっと驚いたな。
というか、初めましてって、まさか俺の事、気づいていないのか?
続いて俺の紹介に続いてヴァイスの紹介をする。
「んで、この子がヴァイスた……ヴァイスだ。」
今、『ヴァイスたん』と言おうとしたなコイツ。
「ごめんね、あの時に私は混乱していたからつい蹴ってしまって、体大丈夫?痣とか無い。」
オリヴィアは本当に心配そうな顔でヴァイスの身体をジロジロと怪我や傷、痣が無いか確かめていた。
あれ?
この人本当にあの時に暴れていたエルフと同じ人なのか?
こんなに優しいエルフじゃなかったはず、口調もこんな丁寧な感じじゃないはず。
………そうか!あのエルフとは違うエルフなんだろう、そうだ!そうに違いない!!
「だけど、あの変態ヒューマン野郎は絶対許せないからな………あのヒューマンに言っておいて頂戴ヴァイスさん、私がまたお前を見つけたらぶっ殺すってな。」
ひ、ヒューマンという事はま、まさか俺の事か!?
ふっ、だが今は俺の頭にはエルフになれるカツラを被っているからかバレてはいないけど、これを外したら絶対に、確実に殺される。
「ああ、それなら彼がその―――」
「ワアアッ!!!」
フレイヤが俺を指しながら、俺があの時にいた『ヒューマン』だと紹介しようとした為、俺は車内に響く程の大声を出す。
俺以外は俺の大声で耳を塞いだ。
オリヴィアは突然の俺の大声に怒り始める。
「な、何だよ、オマエ!まるでマンドラゴラみたいな大声出して!!」
そう言うフレイヤに俺は一生懸命に口元に指を当てて、聞こえない位に「シーーッ!」と息を漏らす。
というか、この世界にマンドラゴラ有るんだ。
フレイヤは最初は首を傾げたが、すぐに察し、微笑みながら軽く頷く。
俺はフレイヤに対して呆れと怒りが込み上げてきた………。
そんなに時間も経つこと無く、ホテルから出発して数分で首都のロツェルンの中心地にある講和条約締結記念のパーティー会場に着く。
車窓から見ると小さく、こじんまりとした宮殿が会場となっていて、名前はムーゼック宮殿だとフレイヤから聞いた。
入り口付近に到着すると、沢山の馬車やレトロな自動車が停車して列を為していた。
入り口にはレッドカーペットが敷かれていて、レッドカーペットが入り口から長さがおよそ数十メートルぐらいまであり、そのカーペットの上を多くの要人や軍人がぞろぞろとパーティー会場のある建物の方へと歩いていた。
要人の見た目やその周りにいた記者の見た目はエルフだけでなく人間、ドワーフ、ゴブリン、ハーピー族、獣人、ハーフリングなどの様々な種族がそこに居た。
特に俺が窓から見ても分かるくらいに、彼らの多くの記者はレナにカメラを向けて写真を撮っていた。
特にエルフの記者達は驚きを隠せず、その場で慌てふためき、ザワザワとしていた。
多分、多くの記者はレナが来るとは予想していなかったし、特にゲルマニアの記者はレナが生存していると思っていなかったのだろう。
多くのいろいろな馬車から要人が降りていくと、俺達が降りる番が来た。
馬車を止め、待機していたドアマンが馬車のドアを開く。
最初に俺とオリヴィアが出ていく。
だが特に注目はされていなかった為、写真はそれほど撮られていなかった。
続いてヴァイスとフレイヤが現れた途端、写真のシャッターの押す音や閃光電球や閃光魔石のフラッシュが増える。
電球や黄色の魔石は一回フラッシュさせると使い物にならないからか、記者の床には多くの割れた電球や灰色の魔石が辺りに転がっていた。
ゆっくりと建物の方へ歩いて行くと、フレイヤに対する歓声と問いかけが多く飛び交っていた。
「今回の会談について一言お願いします!」
「フレイヤさん、ゲルマニアは天下無敵と言われたが、今回でその言葉が使えなくなるようですが、どう思いますか?」
「話によれば、他の亜人国家も同時刻に講和会議が始まっているのは、ゲルマニアの影響でしょうか?教えて下さい。」
「キャー!!フレイヤ様!こっちを向いてください!!」
「フレイヤ様!!」
フレイヤは歓声には手を振って返したが、記者の問いかけには無反応でパーティー会場のある建物の方へと急いで歩く。
一方ヴァイスはフレイヤと一緒に出たものの、馬車から出てすぐ俺の背中に隠れていた。
多分、差別を受けていた事に恐怖心があるからだと思う。
まあ、そんな一日、二日で人の性格は変わらないさ、当たり前だ。
そういう訳で、俺はヴァイスと一緒に歩いてパーティー会場が催しされている建物の方へ向かっていく。
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