第6話 魔族の末裔
首都ロツェルンの都心部から少し離れた首都内の小さな町を俺は歩いていた。
今まで見てきた景色は大きく聳える門以外は廃墟の多い戦場や深い森、山脈などがずっと続いていたから
アニメや漫画に出てくるこの異世界の様な光景に喜びを隠せなかった。
そういえば自動翻訳するグロッサ石を着替える前の服のポケットに入れたまま忘れたのに何故だろうか、話している彼らの言葉がわかる。
いや、全員レナが言ってた日本語にそっくりだと言うユーラ語を話しているんだろうか、
それとも転生したら緩やかだが他の言語が分かるようになるのか。
ユーラ語ならまあ成程な、と感じるが。
いや、それもおかしいが、
後半なら異世界感が感じられて面白そうだ。
そう思いながら歩いていると自分の最初の目的を思い出す。
そうだ、まずは誰かからこの世界の情勢を聞かなければいけない。
まずは近くの人に聞こうか。
そう思い、俺は一人の通行人に話を聞こうとする。
「すみません!!ちょっとお尋ね――――」
ドンッ!
突然、背中から鈍い音が響き、すぐに痛みと強い衝撃で突き飛ばされ、その衝撃で俺はバランスを崩し、地面に頭をぶつける。
「イテェー!!な、何だよ………ってハッ!!」
俺は起き上がると同時にカツラが取れてないか急いで確認する。
―――取れて………ない。
ふう、良かった。どこも怪我もないし、カツラも取れてない。
俺はカツラの確認が終わると、何がぶつかったかすぐに後ろを確認する。
後ろを振り向くとそこにいたのは薄汚れた服を着ていて、
帽子を被っている幼い女の子がそこにペタンと足を広げ座っていた。
その女の子は顔を押さえて痛みを堪えている仕草をしている。
「イタタッ………」
「おい、大丈夫か?」
俺は彼女を心配して、右手を差し伸べる。
「あ、はい、大丈夫なのです」
俺は転けた彼女を立たせようとすると、彼女の後ろから二人の男の子が追いかけてきた。
「居たぞ!あそこだ!」
すると、突然彼らは彼女を見つけるや否や殴る蹴るなどの暴行を始めた。
「この野郎、逃げやがって!」
「や、止めて!誰か助けて………」
俺はこの光景に絶句する。
吐き気を起こす位、気持ち悪い光景だった。
俺はそれを止めようと走って彼女に近づき、守ろうとする。
「おい、止めろ!一人の少女に集団で何て酷い事をするんだ!」
俺は彼女を殴る集団に飛び込んで、その中の一人を殴り飛ばす。
そして彼女の腕を引っ張ると、俺はその薄汚れた彼女の前に立ち、彼女の盾になる。
彼らを見ると、人間やエルフの子供がその彼女に暴行をしていた。
殴られた奴も人間で、その人間も起き上がりなから怒りを表していた。
「何すんだてめぇ!その女から離れろ!」
「その前に彼女が何をしたのかを聞いてるんだ!答えろ!!」
俺が殴った彼は殴った衝撃で口を切ったのか血が混ざった唾を吐く。
そして彼は俺に対して睨みながら話す。
「そいつはな、魔族に魂を売った民族の末裔なんだぞ」
エルフの少年がそう言うが、
だか、俺はその意味が分からなかった。
彼女の見た目は普通の女の子にしか見えないし。
第一、末裔だろうと何だろうと、
彼女には関係が無いことだ。
すると突然、後ろからこっそりと違う人間の少年が近づき、彼女の手を引っ張る。
「キャッ!やめて!引っ張らないで!!」
彼女は抵抗するが、彼は自分の片方の空いた手で彼女の被っている帽子を取る。
「イヤっ!」
そこには山羊か何かの角が生えた女の子がそこにいた。
彼女はもう一方の片腕で隠そうとするがもう遅い。
「見たか!これが、この角が魔族に魂を売った民族の末裔の証拠だ」
それを見た周りの人は冷たい目で彼女を見る。
「まあ!なんて醜いのかしら!!」
「頭に角なんて気持ちの悪い………」
「やっぱりあんな人達を俺らの政府が受け入れるなんてどうかしてるぜ」
その時、彼女の目には涙が浮かんでいた。
彼女は小声で泣きながら、何度も何度も「止めてください、止めてください………」と繰り返す。
この時、俺の中に先程まであったあの素晴らしかった異世界の幻想が崩れるような音がしたように感じた。
「ふざけるな………。お前らは中立国家の民族じゃないのかよ!!」
俺は我慢が出来ず、心の中に隠していた思いをぶちまける。
だが、周りの反応は一瞬の静寂がやって来るが、次第に笑い声が聞こえてくる。
「お前、正気か?国が中立だからと言ってるが、このヘルヴェティアではな、この国出身の奴等以外に他の国からやって来た俺たち難民や移民もいるんだ。ヘルヴェティアのハーフエルフが魔族の保護に賛成しても、俺らエルフは許す事はできねぇんだよ!」
「そうだ!もちろん、俺たち人間もな!!」
魔族は昔、彼らに対して戦争をしていたのはレナから聞いていたから知っているが、
そんな事は昔の話だ。
俺はそれを聞いて馬鹿馬鹿しく感じた。
「それならば、何故今戦争をしているエルフと人間同士で争わないんだ。今も戦争中なんだろ?」
すると、一人のエルフが前に出て話す。
「ヘルヴェティアの法律では国内ではエルフ、人間、鳥人同士は争わない約束なんだ。もし争えば国外へ強制退去だ。だがな、魔族に関しては触れていないからな」
「だからって、法律が無いからと言って、そんな事警察が………」
「勿論、だからあえて見せないように周りの人は我々の味方する民衆を呼んでいるんだ」
つまり、最初から彼女をここに誘い込み、リンチにすることを事前に考えていたというのか………。
どいつもこいつも狂ってやがるぞ、クソッタレ。
エルフも人間もそうだが、幼いこの彼女には何も罪は無いだろ。
「だから、魔族は今差別されているし、今行われている戦争だって………って!今そんな話をしている場合じゃない!………おい、あいつをどこに逃がした?」
「あいつって、あの女の子か?それなら俺の後ろにいるだろ?」
俺はそう言って後ろを振り向くとそこには彼女は居なかった。
「そういえば、今さっき戦争って、戦争がどうしたって?」
俺は彼にそう尋ねるが、彼らは俺を睨み、一人が俺に激怒する。
「クソ、見失ったじゃねぇか!コイツとの話が長いから………てめぇ覚えておけよ!お前ら探せ!そんな遠くに逃げてはいないはずだ!!」
そう言いながら彼らは走り去っていく。
というか、話が長いのはあいつらの自業自得だろ?
ふぅ、こんな事を知ったら、この地域は居心地が悪くなった。
というより、気分が悪い。
よし決めた、この場所以外の地域を探索する。
首都の他の地域ならこんな光景が無いはずだし、まだ戦争についての話もあいつらから聞けなかったし。
あいつも待ってるだろうな、早くしないと何されるか分からないし、急がなければ。
そう覚悟し歩き始めた矢先、突然、右側の薄気味悪い路地から手が現れる。
俺は恐怖で咄嗟に避けようとするが、掴まれた俺の服の右袖の端を人間の力とは思えない強い力で引っ張られる。
というより、この力でなんで服が破けないんだ?
「助けてくれ!」と、俺は叫ぼうとするが、周りが聞こえる前にその路地の奥に吸い込まれていく。
もちろん手で口を塞がれながら、
路地の中から数メートル歩いた先で止まった。
俺は頑張って声を出そうとする。
「はへは、はふへへふへ!(誰か助けてくれ!)」
だが、塞がれてるからか上手く話せない。
するとアニメ声の様な可愛らしい声で耳元で囁く。
「こ、声を出さないで下さいなのです!」
彼女は声を出させない様に俺に話す。
俺は聞いた瞬間、彼女の言う通り、声を出すのを止める。
数秒後、塞がれた口も解かれる。
即座に振り向くとそこに居たのは角が生えた先程の少女だった。
角が生えた先程の少女の見た目はよく見ると背丈は中学生と同じ位の背で、短いボブカットのような白色の髪の毛に小さなアホ毛と黒い宝石のように輝く、まるで羊のような曲がった角が生えている。
耳はエルフのように尖っていて、目は路地の微かに漏れた太陽の光で綺麗な赤色の目がキラキラと輝いていた。
肌の色はまるで雪のようだと思うくらい、とても白い肌である。
だが、風呂などに入っていないからか髪の毛は皮脂の光沢で光り輝き、肌も一部分だが、泥や煤などで黒くなっていた。
服もボロボロのドロドロで一部が破れていた。
「ま、守ってくれて、ありがとうなのです。」
彼女はすぐに離れて慌ててぺこりと一礼し、俺に感謝をする。
彼女は頭を上げるが、顔は下を向いていて、手はモジモジとしている。
俺は今の感謝が先程のリンチに関しての事だと理解し、優しく接する。
「良いよ、別に普通の事だよ、それにしても君が無事で良かったよ。」
「でも、貴方は何故私を助けてくれたのですか?」
「何故って………。」
俺はとても困った。
普通の事をしただけなのに、助けた理由を述べるなんてどうすれば。
俺は腕を組み、絞り出して考えた結果、俺はこう言った。
「女の子一人が集団暴行を受けるのが可哀そうだから、かな?」
そう俺は言うと、彼女は首を横に振る。
「違うのです、『魔族の末裔』と言われてるのですよ!それなのに何故、何故助けるのですか………」
「そんな事か………」
その事に関してはすぐに答えが出てきた。
「そんな事を気にしてるのか?」
「えっ………?」
彼女は俺の発言に固まる。
俺はため息を吐きながら、後頭部近くを無自覚に掻く。
「俺は別にこの世界の事なんて知らないし、『魔族の末裔』とか昔恨んでたとか、そんな事興味ないんだよ。第一、こんな可愛らしい女の子を殴ったり蹴ったりなんて、俺には考えられないよ、本当に」
彼女は顔を上げ、驚くが、同時に不思議そうな顔になる。
「ん?でも、貴方はエルフなのですよね?『この世界の事なんて知らない』なんて、おかしくないのですか?」
その発言にドキッとする。
そういえばそうだった、今はエルフを演じていた事を忘れていた。
何とか誤魔化さなければ。
「いや、それは俺がニュースを見ない主義で、あと国際事情とか世界史には疎いんだよね、ハハハ!」
彼女はジト目になり、俺をじっと見る。
俺は体中から冷や汗が溢れ、心臓の動悸が激しくなる。
「ふぅーん、そうなのですか。………まあ、いいでしょう。その前に先程、私を、か、可愛いって言ったんですか?」
彼女はそれを聞いた途端、彼女の顔は赤くなり、照れていた。
「ん?あ、ああ、言ったよ」
それを言った途端、彼女の死んだ目が輝くような目になり、
表情がやわらいでいた。
「ホントですか!あ、ありがとうなのです」
よかった、全然問題が無いな、多分。
そういえば、今俺はこんなことをしている場合じゃない。
早く今行われている戦争の詳細を調べて、レナの所に戻らないと。
俺は彼女から手を離し、そこから去ろうとし、振り返る。
「じゃあな、俺は急いでいるから」
そう言った途端、彼女がいきなり突撃し強い衝撃でぶつかりながら抱きつく。
「い、嫌です!行かないで下さいなのです!!」
………この衝撃懐かしいな。
なんだっけ、この痛みは。
俺の記憶では一度も交通事故は起こした事無いし、まあ、転移した時の記憶は無いけど。
………そうだ!思い出したぞ!!
北海道での修学旅行の時だ。
牧場で調子に乗って山羊にちょっかいかけてたら、突き飛ばされたあの衝撃。
あの時は角が無い山羊だったからそこまで大事には至らなかったが、
今回は角が在ったし、ダメかもしれないな………。
―――目を覚ます。
強い痛みがあるが、今回も大丈夫のようだな。
時間も太陽の位置を見て、差ほど経ってないし、起き上がるか。
俺は起き上がろうとすると、泣きながら服を強くしっかり握った女の子がまだそこにいた。
彼女は「ごめんなさい、その、大丈夫ですか?」と小声で尋ねる。
俺は「大丈夫だよ。」と答えた。
起き上がると、彼女はまた手をモジモジしながら、下を向いていた。
「ごめんなさいなのです………」
彼女はまた謝る。
俺は自分の服を叩いて埃を落とした。
「別に大丈夫だし良いけど、付いていってどうするんだ?」
「それは、私が好きになったからです」
「そうか、俺を好きになったからって………え??」
マジで?いや、うれしいけど。
いや待て、早まるな。
これは恋愛とかではなく、助けたから好意的に見ているだけだ。
そうだ、そうに違いない。
なら気にしなくても大丈夫だよね!
………ん?そういえば、着いていく前に聞かなければ。
「待ってくれ、そういえば両親や家族が心配するだろ?家まで送るから場所を教えてくれ」
「………親は居ないのです」
おい嘘だろ、マジかよ。
ということはまさか………。
「い、今まで一人で生きてきたのか?」
「………判らないのです、私は1か月前より前の記憶が無いのです。だから、以前にお父さんやお母さん兄弟や姉妹が居たのかは知らないのです」
おいおい、ロリで角アリ魔族で記憶喪失か、なんか要素てんこ盛りだな、オイ。
………なんて思っている場合か。
そうだな、考えてみればこんな子を一人でこんな場所で過ごすのは可哀想だ。
だが、レナにはどう説明すれば良いんだろうか。
まあ、そういうことは後にしよう。
今はこの角の子の服などを用意したりしないといけないけど、金が無いからな。
そう思いながらポケットを探すと、右ポケットに長財布が入っていた。
女性物の様な財布で取り出した瞬間、何かメモのような物を落とした。
メモには何か書いているように見えるが、読めない。
多分、女性っぽい書き方だから、レナの財布で、自由に使ってもいいよ、と書いているに違いない、分からないけど。
まあ、俺のポケットに入っているから使って良いと思うんだけどな。
しかしエルフの文字で書いているものが読めないのか、これは辛いな。
話し言葉は理解できるのに。
「よし、じゃあまずは君の服を買いに行くとするか」
「そ、そんな迷惑掛けたくないのです!」
「いいよ、いいよ!気にするな、お金は沢山あるから………(多分)」
「あ、ありがとうなのです。あの、そういえば私、その、自分の名前が分からないので、どうすればいいのでしょうか?」
おいおい、名前まで思い出せないのは重症だな。
でも、突然名前を決めろと言われてもなー。
見た目とかで決めるとか、角、髪、うーん難しいな。
そういや、見た目が雪のように真っ白だな。
山脈の名前を使うか、いやイマイチだな。
国名とか街の名、あとは………。
その時、ある事を思い出した。
ここまで来る間にある綺麗な白い花を。
「そういえば、この辺の山に咲いている白く綺麗なな花の名前は何だ?」
「えっとですね、エーデルヴァイスという花です」
「………エーデルヴァイスか。なら、エーデルヴァイスのヴァイスにしよう」
「ヴァイスなのですか?」
「ああ、ヴァイスだ。いい名前だろ?」
「はい、嬉しいのです!」
ヴァイスはその場をぴょんぴょんと可愛らしく飛び跳ね喜ぶ。
「じゃあ、服などを一緒に買いに行くか、ヴァイス!」
「はいなのです!えっと………」
「おっと、俺の名前を名乗るのを忘れてたな。俺の名前は
「かしこまりましたなのです、それではカズト様、一緒に行くのです!」
「………あの?様付けはやめてくれないか?」
「ん?何故ですか?私はこの呼び方が好きなのです。嫌と言っても呼ぶのです」
「そ、そうなのか………」
こうして俺とヴァイスはこの世界の情報を得るのと、ヴァイスの衣服を買う為に俺はヘルヴェティアの首都のロツェルンの都心部へと向かうのであった。
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