2 【第邇(に)話】 (約1200文字) 【なかから 解明編】
【一口ショートホラー】
2 【第邇(に)話】
【なかから 解明編】
小学校に不法侵入した人間は、当然のことながらその後逮捕された。
それから数日して、ある日の日没後、わたしは例の小学校へと足を向けていた。胸にわだかまったものを解き明かすために。
出迎えてくれた教師に名刺を渡し、事前に連絡しておいた通り、話で聞いた教室へと案内してもらう。
明かりの乏しい廊下を進み、足元に気を付けながら階段を上ること数分。目的の場所へとたどり着く。昼間は子供たちの声で騒がしいはずのその教室は、いまは打って変わって静寂に包まれている。
電灯をつけようとする教師にすぐに済みますからと言って、雲間から覗き込んだ月明かりだけが照らす中、黒板へと近付く。滑らかなその表面にそっと手を触れた。
「話は聞いたよ。不法侵入者は逮捕された」
少しの間。
ギイーッ。
呼びかけに応じるように、黒板の内部から音が鳴った。同伴していた教師が信じられないといった表情を浮かべる。
「これはただのわたしの推測に過ぎないんだが……、きみは子供たちを守ろうとしてくれたんだよね」
教室全体を見渡せる黒板は、不法侵入者が掃除用具を入れるロッカーの中に隠れる瞬間も目撃していたに違いない。
「君が音を出すことによって子供たちは全員教室の外へと逃げ出した。目的の子供たちがいなくなってしまったことと、気味が悪くなったことから、不法侵入者もその場を後にした、誰に見られることもなく。……そうだね?」
少し音を小さくして。
……ギイーッ。
「もしきみが何もしなければ、いずれ掃除の時間か、もしくはそれよりも前に、子供たちと不法侵入者が鉢合わせしてしまっていただろう。そうなれば子供たちに危害が及んでいたかもしれない」
彼、あるいは彼女は、自身が怖がられることになったとしても、それでも子供たちの身の安全を守ったんだ。
わたしは目の前の黒板の先にいる、正体不明のナニカを見つめるようにして言う。
「ありがとう。きみのおかげで子供たちはいまも無事に暮らせている」
少しだけ照れ臭そうにして。
ギイーッ。
と音が響く。続いて、コンコンと断続的に音が鳴った。
これは……モールス信号だ。
ア ナ タ ノ ナ マ エ ハ
「わたしはヨウゾウ。オオバヨウゾウ、だ」
ワ カ ッ テ ク レ テ
ア リ ガ ト ウ
ヨ ウ ゾ ウ
それを最後に、音はもうしなくなった。
しばらくして、破損や汚れが目立つということで、あの黒板が別の新しいものに取り替えられたことを知った。
一応念のために業者を呼んで、特殊な機材で壁の中を調べたらしいが、生き物の死体や遺品などの異物は発見されなかったらしい。
思うに、あれは子供たちを守るために顕現した、小学校の意識というか精霊みたいなものだったのかもしれない。
つくも神、というやつだ。
いまでもときおり、イタズラをしたり行儀が悪い子供がいると、どこからか音が鳴るらしい。
――ギイーッ。
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