人嫌い、観る

「…来た。」


「おはようございます先生!」


「な、なんか久しぶりかな。」


「そうかしら…そうね。私はこの前会ったから、他の人よりは間が空いてないのね。」


「あれれー秀人ーあやあやとー密会ー?」


「む。男女交際を悪く言わんが、節度を守ってやりたまえよ。」


「ははは。会長の冗談は笑えますね、それ以上続けるなら手が出ますから。」


「みゃー。」


「…冗談だって…冗談…タマもおは。」


「では行きましょうか!」


「な、生観戦楽しみだよ。」


「きっと面白い試合になるでしょうね。」


「林くんは有名なのだろう?とすると、相当の実力だろうな。」


「りんりんのー本気はー怖いかもねー。」


「そんな強くなかったけど。」


「みゃー。」


「…秀人…何したの。」


「ははは。」


今回は他校での試合、入るのは緊張するが問題なく通れた。他にも生徒の親らしき人物や、いろんな制服の生徒が一方向へ流れていく。秀人達もそれについていく。タマは普段来たことない土地へと、探検に出掛けていった。


「やはり、林さん目当てでしょうか!」


「…林…すごいね。」


「ゆ、有名人とは思ってたけど、これを見ると実感しちゃうね。」


「これは素人でも、期待が高まるな。」


「これがーりんりんのー人望かなー?」


「でも、対戦相手はプレッシャーでしょうね。相手もそうだし、これだけの観客ですもの。」


「人の視線てのは、立派な暴力だからね。普段から慣れてない人は、見られるだけで調子狂うもんだよ。」


「…体験談みたい。」


「いろいろ苦労はしてるよ。」


秀人達がリングのある体育館へ着くと、すでに人だかりができていた。


「うわ、僕帰るよさようなら。」


「ちょいまちー。」


「…早い早い。」


「先生!こちらに空きがありますよ!」


「し、仕事が早いね大山くん。」


「秀人くんを知ってるからこそ、という行動だな。」


「1高校生の試合なのに、この集まりは流石ね。」


「来た。」


大山が確保した場所に着いた秀人たち、その後ろに林がいた。


「試合前に、こんなところで油売るの?」


「…よく…気づいたね。」


「大声。」


「自分ですかね!」


「ま、まあよく聞こえる声だと思うよ。」


「それで林くん、調子はどうかな。」


「ばっちし。」


「応援するわ。今日は本番…ではなさそうね。」


「練習試合。」


「よっすー約束通りー秀人来たよー。」


「感謝。」


「じゃあ勝っても負けても、特に何もないってことかな。」


「経験。」


「…相手は…強いの?」


「手練れ。」


「頑張ってくださいね!」


「ん。」

 

「お、応援任せてよ…初めてだけど。」


「見守っているぞ林くん、終わったらご飯に行こう。」


「なんならーウチが料理ー頑張るよー。」


「期待。」


「頑張ってね。素人なりに、今日の出来事は楽しませてもらうわ。」


「頑張る。」


「外の空気吸いたいな…」


「秀人。」


そう言うと林は秀人を見て、何かを待っているようだ。


「…はいはい。頑張ってよね、呼ばれてつまらない試合ならもう勘弁だから。」


「了解。」


林は笑顔で控え室へ行くと伝え、去っていった。


「…そろそろ…始まる。」


「あれが相手選手ですかね!」


「ほ、本当に女子だよね…僕より筋肉あるよ。」


「岸辺くんは、もう少し運動するといいかもな。」


「あれはー強そうだねー。」


「どんな展開になるかしら。」


「さあね。」


そしてリングに林も上がり、両者の名前が告げられる。そしていよいよゴングが鳴り響き、試合が始まった。


「…頑張って。」


「やれますよ!」


「す、すごいや。」


「うむ、これは想像以上だな。」


「これが試合なのね。」


「へー。」


「きゃー林さまー!」


「…ずいぶん熱狂的なファンもいるみたいだね。」


2人の打ち合いはすさまじかった。お互いが距離を保ちながら、ジャブで牽制しあう。少しでも相手のガードが甘ければ、ボディに一発。ただ拳を受けるだけでなく、わずかに後ろへ下がり避け隙を作る。


「…いつもの…林じゃない。」


「闘争むき出しですね!」


「あ、あれくらいがっつかないと、勝てないのかもね。」


「…そろそろ終わりそうだな。」


「えー会長さんはー分かるのー?」


「時間通りなら、もうラウンドが終わるわ。」


「まあ1ダウンもないから、次には進むよね。」


林はこれが最後と言わんばかりに、相手のガードも気にせず距離を詰めラッシュを仕掛ける。相手はそれを防ぐことに精一杯、だが打たれ続けた腕にはダメージが来たか。

崩れたガードの隙を逃さず、林はアッパーを決めた。それは素人目に見ても、決定打と言うしかない一撃だった。相手選手はなんとか立ち上がるも、ファイティングポーズがとれなかった。


「…10カウント。」


「ということは…勝利じゃないですか!」


「み、見た?綺麗に決まったよね。」


「見事と言うしかないな。」


「…やっぱり実際に見てみると、感動するわね。」


「そこら辺の不良の喧嘩よりは、見ごたえあるかもね。」


「流石林様だわー!」


「うるさい奴がいなきゃ、もう少し楽しかったんだけどね…」


こうして、秀人初めての試合観戦は終わった。

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